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ルール

刀の能力

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 初めのキングゼロを終えてから、三日目の朝。

 眠りから目覚めたシンリは、見慣れぬ天井と挨拶を交わした。
「あれ、ここは……どこだっけ?」
 寝惚け眼を擦り、あちこちを見回す。
 家具などが一切見当たらない、簡素な一室。目に映るのは木製の床と天井だけ。あとは放り捨てられたブレザーやカバン、それと鞘に納まった一振りの刀だけだった。
 ゆっくりと記憶が蘇ってくる。
「──そうだ、ここは俺の家だ」
 ここは、シンリがキングゼロで勝ち取ったシンリの自宅だ。
 ルナリスとの戦いに勝利したシンリが選んだ報酬は家一軒分の土地だった。
 そこに建てられたのは簡素な造りのログハウス。
 動かせる職人を総動員することで、たった二日──正確には一日半で、簡素ながら見事な家が建ったのだ。時間にすれば突貫工事だったが、造りとしては文句なしである。
「高校生にして俺も家持ちか。異世界のだけど。一国一城の主──って、それは冗談にならないんだった……」
 思わず溜息が零れる。

 シンリが今いる場所――異世界クローヴェリア。
 シンリは、それまでは十二人だったはずの王たち、その新たな十三人目の王となった。
 先ほどの言葉通り、異世界クローヴェリアにおいてこの場所は一国一城なのである。

 慣れないな、と頭を掻く。
 すでに異世界に迷い込んでから五日目。三日前には初めての王同士の戦いであるキングゼロすら経験している。十二──十三人の王の一人でもあるルナリスや、彼女の妹であるシルファと話すことで、いくらか気持ちの整理はついた。それでもまだ慣れないことは多い。

「……この世界に来てから目覚めが良くなった気がする」
 元の世界にいた頃は休日など昼まで起きなかったが、今は目覚ましもないのに朝起きられている。
「まぁ、夜も早く寝てるからな」
 クローヴェリアには電気が存在しない。代わりに蓄光石やそれを加工した照明器具で部屋を照らす。それでも電気などに比べると真夜中は暗い。
 加えて、テレビも漫画もゲームもないため、夜も早くに寝ている。
 たった五日だが、その感覚にもう身体が慣れたらしく、暗くなると眠くなり明るくなると起きれてしまう。
「別に嫌じゃないけど……せめて漫画があれば──……あ、そういえば」
 ふと、あることを思い出した。
 シンリは放り捨てられたカバンを開き、中から本屋の印が描かれた紙袋を取り出す。
 クローヴェリアに来る前、女子と接点をつくるために買った本だ。
 シュリンク袋を丁寧に剥ぎ取り、ページをパラパラとめくる。
「ん~……漫画なら良かったのになぁ」
 店員に選んでもらい購入した本はSF小説だった。
 どのページにも文字がびっしりである。
 シンリでは読むのに半年は掛かりそうだった。
 だが、今となっては貴重な日本語で書かれたものなので、宝物のように大事に扱う。
 クローヴェリアでは、日本語どころかシンリの知る文字とは一つもない。逆に、どこか見覚えがあるようなものが多い。
(まぁ、文字なんてどれも起源があるわけだし、いくつか似たような字があってもおかしくはないよな)
「……とりあえず着替えるか」
 本を戻し、再びカバンの中を漁る。
 昨日ルナリスから渡された服一着を取り出す。替えの服もなかったシンリのために用意されたものだ。
 黒のシャツを着て、青色の上着を羽織る。ズボンを穿いてベルト代わりの細長い布を腰に巻く。
「よしっと。うん、動きやすい」
 城内にいる間は、当然だが正装のような堅苦しい服装だった。
 動きにくいし、汚れたりしないか気が気でなくなるため、さすがに普通の服を頼んだ。
 先ほどまで着ていた制服をしげしげと見やる。
「それにしても良かった。キングゼロのときにボロボロになっちゃったけど、終わったら傷だけじゃなくて服も元通りになって」
 先日の戦闘空間リアード内では、ルナリスの攻撃による爆発で制服は穴だけ砂まみれで、とてもではないがもう着られるものではなかった。
 元の世界に帰っても新しく買い直さなくてはいけないところだったが、無事に元通りだ。
 シンリは改めて感嘆の息を漏らす。

 グギュルルルゥッ。

 不意にシンリの腹が騒ぎ出した。
「……腹減った。飯どうしよう」
 領土に家が立ち、正式にそこへ住むことになった。
 同盟を組んでいるとはいえ、ルナリスにとってシンリは敵国の王。仕方なしとはいえ独り立ちしたシンリが、今までのように気軽にルナリスたちの世話になるわけにはいかない。
 実際、シルファからは許可なく城内に入るなと言いつけられている。
 つまり今後、食事の用意は自分でしなくてはいけないということ。
「昨日のうちに何か食料を分けてもらっとけばよかったな」
 一応、荷物を漁ってみる。やはり何もない。
「そういえば、近くに川があるとか言ってた気がする。だったら釣りでも……釣り竿がないや。手掴みか」
 などと考えている間に、さっきよりも大きな腹の虫が鳴いた。一気に空腹感が主張を強める。
「ダメだ、そんな余力ないや……このままだと飢え死にする……」
 両手を上に放りながら床に仰向けで倒れ込んだ。
 すると伸ばした手に何か硬い物が触れた。
「うん? 何だ?」
 よっと勢い良く起き上がる。
「あぁ、これか」
 手に当たったものはシンリの王武器サクトゥスである刀だった。
 倒した身体を起こし、刀を拾う。
「そういや王武器ってそれぞれに名前があるんだっけ? ってことは、この刀にも名前があるってこと? 何て名前なんだろう?」
 ルナリスいわく、王武器の名前は先代の王から伝え聞くものだという。
 先代など存在しないシンリの場合、誰に訊けばわかるのか。
「俺が勝手につけていいのかな?」
 最初から名前がついていたわけではなく、初代の国王たちがわかりやすく名付けた可能性もある。十三人目の王としては初代となるシンリが名前をつけるべきかと考え始めるが、
「というか、今は名前よりも大事なことがある」
 すぐに別のことに意識と思考と向いた。
「こいつの能力は何なんだ?」
 前回の戦闘後、シンリは観戦した別の王たちと話し、その結果、王の一人であるヴァンテに次の戦いに挑まれてしまった。戦いは避けられない。避けられたとしても、シンリはヴァンテとの一戦だけは引く気がなかった。
 経験の差からしてシンリが圧倒的不利に違いない。
 せめて刀の能力が何なのかを知りたかった。
 だというのに、一向に能力は謎のままである。
 ルナリスとの戦闘(追いかけっこ)中、一度だけ能力が使えないかを試したが、何の能力か以前に、どうやって能力を発動するのかもわからなかった。何もわからないままに失敗した。
 仮に二ルグと同じ、刀身が伸縮自在だとして、人間が翼を手に入れても羽ばたかせ方がわからず空を飛べないのと同じ、扱う感覚が不明なのだからどうしようもない。
 あるいは、どんな能力なのかわかれば感覚で発動方法もわかるのだろうか。
「刀の能力ねぇ」
 シンリは鞘に納まったままの刀を軽く振ってみた。
 当然、何も起こらない。

 この世界に王は十三人いる。
 王はそれぞれ武器を一つずつ所持している。
 つまりあと十一種類の王武器が存在するということ。
 それらは一体どんな能力なのか。
 少なくとも、シンリの刀も同等のものだと考えていいはず。

 シンリは鞘を滑らせ、白刃を解き放った。
 今後も戦いになろうと抜く気のない刃に、自分の顔がはっきりと映る。
 期待や好奇心に満ちた表情だった。
「思いつくのはやっぱり炎とか氷とか雷とか……飛ぶ斬撃とか、重力を操ったり? 次元を斬り裂くとか!」
 頭に浮かんだものをひたすら口にしていく。
「ひょっとして、他の王武器の能力を全部使えたりとか! いや、もしかしたら他の武器の能力を打ち消す──炎とかを斬り裂いたりすることができるとかだったり!? いや、さすがにそれは……でもでも俺って特殊な存在なわけだし、そんなのもあり得るんじゃ!?」
 ただでさえ異世界の人間。加えて、空白だったわけではなく、最初から存在しなかった新たな番号を持った十三番目の王。
 その特異性が王武器の能力にも反映される可能性は十分にある。
 などといった考えが思考を加速させた。
「待てよ。それで言うなら刀身に触れたどんな物でも破壊することができる!とか、そんなのの方が最強なんじゃないか?」
 気付けばどんな能力かではなく、どんな能力なら強いかという考えになっていた。
「いっそのこと、触れたモノ全てを消し去ってしまう……とか」
 刀身に触れた物が次々に消滅していく姿が頭に浮かんだ。
 途端に恐怖心が芽生える。
「まさか、な」
 笑い飛ばそうとする。
 ごくりと、喉が重い音を鳴らした。
「えっと……まぁ、どっちにしてもだ。そんな危険かもしれない物を気軽に使うべきじゃない……よな、うん。さっさと鞘に戻して慎重に扱わないと……」
 恐怖から生まれる思考は止まらず、最後は誤って自分の手が刀身に触れてしまい、、自分までも消滅してしまう姿を想像してしまった。
 震える手で恐る恐る刀を鞘に納めようとする。
 そのときだった。
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