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ルナリス・ファルカリア
正々堂々
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緊張から解き放たれ、急に手が震え出した。
「いやー、色々安心したよ。どうするかはルナリス自身が決めることだと思うからさ。俺には自分の思ったことを言うことしかできないし。だけど無事に言い切ることができた。無理してキングゼロに参加して良かった」
シンリは強い達成感に酔いしれていた。
ルナリスが、ふっと笑みをこぼす。
「ありがとう、シンリ」
優しく、とても温かい微笑みだった。
今まで浮かべてきたどんな微笑みよりも輝いて見える。
「確かに、貴方が言ったのはただの希望だった。けれど、おかげで私は──私の国は変わるわ。きっとね」
「い、いやぁ、なはは」
照れ隠しで笑う。
そして、頷こうとした瞬間だった。
「だからその責任は取ってもらうわ」
「……責、任?」
唐突な言葉に驚き、一瞬思考が止まる。
──かと思えば、光速をも超えそうな急加速を始めた。
(責任って……女の子が言う責任って、まさか? もしかして? あの伝説の? け、けけけけ、けっ、け、結婚的な!? い、いや、それはさすがに早いよな、うん。まずはお付き合いしてから愛を育んで……そして最終的には──ダーリン! ハニー! みたいな? おかえりなさいマイダーリン、ご飯にする? お風呂にする? それとも……みたいな? え、マジで? 行っちゃう? そこまで行っちゃう? いやいや、二人で行くならどこまでも!)
自分の世界に浸り込み、心の叫びを上げる。
これが現実になるかも──と期待するシンリを尻目に、
「キングゼロの、正々堂々の勝負で!」
と、ルナリスが意気揚々と言った。
夢のような時間が壊れていく。
「……えっ? 正々堂々? って、ええぇぇぇっ!?」
「散々、言葉で私のことを惑わせたでしょう?」
「俺もたった今、惑わされたんだけど……」
「だからその責任として、戦いの仕切り直しよ」
「それはちょっと……」
「今度こそ、お互いの力と技でぶつかる、正々堂々とした勝負をお願いしたいわ。というより、これは強制ね」
手で口元を覆い、ふふっと笑みを浮かべる。
その微笑みには有無を言わせぬ迫力があった。
「えっと……俺がしたかったことは終わったので、もう今すぐにでもリタイアしたいんですけど……」
「却下」
「やっぱり? ですよねぇ……」
即答だった。
それでも簡単には引き下がれず、
「でもね、俺はキングゼロ未経験なわけでね、これの能力も知らないんだよ」
右手に持っている刀を胸の高さまで上げ、存在を強調させる。
シンリが持つ刀。シンリのサクトゥス。
手には妙にしっくりきているが、ただそれだけだ。
「能力どころか名前も知らないんだよ? この不公平さからして、すでに正々堂々と言えるのでしょうか……?」
「正々堂々というのはね、態度が立派なさまを言うのよ。公平とはまた違うわ」
「いや、正々堂々って言葉の意味はそうなのかもだけど、そうじゃなくって」
「いくわよ」
「聞けよ、俺の話っ!」
話も聞かずに、槍を構えて臨戦態勢となるルナリス。
戦いたくないと訴えていたが、構えられるとシンリもまた構えざるを得ない。渋々ながら、鞘に収められたままの刀の先をルナリスに向ける。
「だから、俺は戦う理由がないわけで」
「私も貴方と戦う理由はもうないけれど、だからこそ今を楽しみましょう」
ルナリスは楽しそうに微笑んだ。
晴れやかな彼女の笑顔に、シンリも嬉しくなる。だがすぐに首をぶんぶんと振った。
「って、そうじゃなくって!」
「もう、何だと言うの?」
「何だと言うの? じゃないってば!」
昂る気持ちそのままにルナリスの声真似をした。あまりにも似ていない。
咳払いを一つして心を落ち着かせる。
「俺は人を斬れないよ。俺の世界じゃそれは重罪だから」
「安心して、この世界もよ」
「そうなのか、だったら安心──じゃないよ!?」
シンリは深呼吸し、もう一度落ち着かせた。
「俺は絶対に人を斬れない。想像しただけで鳥肌ものだ」
袖を捲り、本当に粟立った肌を見せた。
「それなのに、何でよりにもよってルナリスを斬らなきゃいけないんだよ! そんなの死んでも嫌だよ、ルナリスみたいな美人を斬るなんて!」
「あ、貴方ねぇ……」
ルナリスは呆れた様子で苦笑した。
「そうね……ならこういうのはどうかしら?」
シンリが持つ刀と、自身が持つ槍を交互に指差す。
「シンリならその剣を、私なら二ルグを、相手から奪った方の勝ち。つまり相手の手からサクトゥスを手放させたら勝ちというのはどうかしら? 自分の手からサクトゥスがなくなったら潔く負けを認める。これなら殺し合いにはならないし、大して傷つくこともないでしょう」
本来のキングゼロが持つ、殺し合いという概念を打ち消す、新たなルール。
勝敗の付け方を変えることで、シンリが戦いたくない理由も打ち消している。
シンリは少し悩んだが、やむなく静かに頷いた。
渋々と納得したシンリに、ルナリスも満足気に頷き返す。
「いやー、色々安心したよ。どうするかはルナリス自身が決めることだと思うからさ。俺には自分の思ったことを言うことしかできないし。だけど無事に言い切ることができた。無理してキングゼロに参加して良かった」
シンリは強い達成感に酔いしれていた。
ルナリスが、ふっと笑みをこぼす。
「ありがとう、シンリ」
優しく、とても温かい微笑みだった。
今まで浮かべてきたどんな微笑みよりも輝いて見える。
「確かに、貴方が言ったのはただの希望だった。けれど、おかげで私は──私の国は変わるわ。きっとね」
「い、いやぁ、なはは」
照れ隠しで笑う。
そして、頷こうとした瞬間だった。
「だからその責任は取ってもらうわ」
「……責、任?」
唐突な言葉に驚き、一瞬思考が止まる。
──かと思えば、光速をも超えそうな急加速を始めた。
(責任って……女の子が言う責任って、まさか? もしかして? あの伝説の? け、けけけけ、けっ、け、結婚的な!? い、いや、それはさすがに早いよな、うん。まずはお付き合いしてから愛を育んで……そして最終的には──ダーリン! ハニー! みたいな? おかえりなさいマイダーリン、ご飯にする? お風呂にする? それとも……みたいな? え、マジで? 行っちゃう? そこまで行っちゃう? いやいや、二人で行くならどこまでも!)
自分の世界に浸り込み、心の叫びを上げる。
これが現実になるかも──と期待するシンリを尻目に、
「キングゼロの、正々堂々の勝負で!」
と、ルナリスが意気揚々と言った。
夢のような時間が壊れていく。
「……えっ? 正々堂々? って、ええぇぇぇっ!?」
「散々、言葉で私のことを惑わせたでしょう?」
「俺もたった今、惑わされたんだけど……」
「だからその責任として、戦いの仕切り直しよ」
「それはちょっと……」
「今度こそ、お互いの力と技でぶつかる、正々堂々とした勝負をお願いしたいわ。というより、これは強制ね」
手で口元を覆い、ふふっと笑みを浮かべる。
その微笑みには有無を言わせぬ迫力があった。
「えっと……俺がしたかったことは終わったので、もう今すぐにでもリタイアしたいんですけど……」
「却下」
「やっぱり? ですよねぇ……」
即答だった。
それでも簡単には引き下がれず、
「でもね、俺はキングゼロ未経験なわけでね、これの能力も知らないんだよ」
右手に持っている刀を胸の高さまで上げ、存在を強調させる。
シンリが持つ刀。シンリのサクトゥス。
手には妙にしっくりきているが、ただそれだけだ。
「能力どころか名前も知らないんだよ? この不公平さからして、すでに正々堂々と言えるのでしょうか……?」
「正々堂々というのはね、態度が立派なさまを言うのよ。公平とはまた違うわ」
「いや、正々堂々って言葉の意味はそうなのかもだけど、そうじゃなくって」
「いくわよ」
「聞けよ、俺の話っ!」
話も聞かずに、槍を構えて臨戦態勢となるルナリス。
戦いたくないと訴えていたが、構えられるとシンリもまた構えざるを得ない。渋々ながら、鞘に収められたままの刀の先をルナリスに向ける。
「だから、俺は戦う理由がないわけで」
「私も貴方と戦う理由はもうないけれど、だからこそ今を楽しみましょう」
ルナリスは楽しそうに微笑んだ。
晴れやかな彼女の笑顔に、シンリも嬉しくなる。だがすぐに首をぶんぶんと振った。
「って、そうじゃなくって!」
「もう、何だと言うの?」
「何だと言うの? じゃないってば!」
昂る気持ちそのままにルナリスの声真似をした。あまりにも似ていない。
咳払いを一つして心を落ち着かせる。
「俺は人を斬れないよ。俺の世界じゃそれは重罪だから」
「安心して、この世界もよ」
「そうなのか、だったら安心──じゃないよ!?」
シンリは深呼吸し、もう一度落ち着かせた。
「俺は絶対に人を斬れない。想像しただけで鳥肌ものだ」
袖を捲り、本当に粟立った肌を見せた。
「それなのに、何でよりにもよってルナリスを斬らなきゃいけないんだよ! そんなの死んでも嫌だよ、ルナリスみたいな美人を斬るなんて!」
「あ、貴方ねぇ……」
ルナリスは呆れた様子で苦笑した。
「そうね……ならこういうのはどうかしら?」
シンリが持つ刀と、自身が持つ槍を交互に指差す。
「シンリならその剣を、私なら二ルグを、相手から奪った方の勝ち。つまり相手の手からサクトゥスを手放させたら勝ちというのはどうかしら? 自分の手からサクトゥスがなくなったら潔く負けを認める。これなら殺し合いにはならないし、大して傷つくこともないでしょう」
本来のキングゼロが持つ、殺し合いという概念を打ち消す、新たなルール。
勝敗の付け方を変えることで、シンリが戦いたくない理由も打ち消している。
シンリは少し悩んだが、やむなく静かに頷いた。
渋々と納得したシンリに、ルナリスも満足気に頷き返す。
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