キングゼロ 〜13人の王〜

朝月 桜良

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ルナリス・ファルカリア

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 二人の兵士が昼食を持ってきた。
 もう少しでキングゼロが行われるということだろう。
「よしっ!」
 食事を終えると同時に、勢いよく立ち上がる。
 ドアを塞ぐように立っている二人の兵士に、食器の乗ったトレイを返す。
「作ってくれた人に美味しかったって伝えといてください」
「あ、あぁ……」
 目を丸くした兵士の片割れがドアの向こうに姿を消した。残ったのはシンリと、もう一人の兵士──昨日、門番をしていた髭面の兵士だけとなった。
 髭面の兵士が怖ず怖ずといった様子で訊ねる。
「……本当に他国の王なのか?」
「国がないから他国ってのは微妙だけど、王ってのはほんとみたい。せっかく優しくしてくれたのに裏切った形になって、ごめんなさい」
 髭面の兵士は顔をしかめ、俯いた。
「それじゃあ……ルナリス様を暗殺しようとファルカリアに──」
「それは違うよ。あんな美人、俺が殺すわけないじゃん! 綺麗な女性は、それだけで世界の宝なんだ! それにさ、男は女を守るものだろ」
 言葉を遮ったシンリの力説に、髭面の兵士は口を開けたまま固まった。
「だから安心して。俺はおじさんにも、シルファにも、ルナリスにも、感謝してる──んです。だから絶対に誰にも後悔させない。約束します」
 ハッキリと言葉にして、誓った。
 小さく深呼吸し、覚悟を決めて尋ねる。
「それで──俺はこれからどうしたらいい?」
「……一度、謁見の間に通すよう言われている」
「そっか、じゃあ行こう」
「あ、ああ……」
 迷いを見せる髭面の兵士の背中を軽く叩き、刀だけを携えて謁見の間を目指す。
 
 
 謁見の間の前に立つと、髭面の兵士が扉を開けた。
 重い音を鳴らす扉の向こうに、どの部屋よりも広い一室が姿を現す。
 廊下のものよりも高級そうな真紅の絨毯が敷かれ、一番奥には玉座であろう豪華な装飾で彩られた大きな椅子が置かれている。
 重く息苦しい空気で満ちていた。
 空気を重くしているのは間違いなく、玉座に腰掛けているルナリスと、その脇に立つシルファ。彼女たちが放つ異様なまでの敵意。背筋が凍るほどの威圧感。それらが部屋内に充満し、空気を汚染している。
 ルナリスは純白のドレスから、赤を基調とした動きやすそうなドレスに着替えていた。彼女の戦闘服なのだろう。
 シルファも先ほど着ていたドレスではなく、いつもの兵士服に戻っていた。
 シルファは、何やら大きな物を抱きかかえている。
 白い布が巻かれているので、何なのかまではわからない。長さは二メートル強。太さは成人男性の胴体よりも太い。その大きな物体は、この場の空気にも負けない圧倒的な存在感を持っている。シンリの視線も自然と吸い寄せられた。
「連れて参りました」
 髭面の兵士の声が小さく響く。
 よそ見をしていたシンリは慌てて背筋を伸ばす。
「御苦労様。貴方は下がって結構です」
 ルナリスの声は決して大きなものではないはずなのに、しっかりと響き渡った。
 髭面の兵士は一礼し、踵を返す。
 身を翻した際にシンリを一瞥し、悲しげな表情を浮かべながら部屋から出ていった。
 三人だけになると、より空気が重くなる。
 あまりの重圧に固唾を飲む。
「もうすぐキングゼロが始まるわ。覚悟はできた?」
 王らしく威風堂々とした様子のルナリス。
 シンリも負けじと真正面から立ち向かった。
「さぁ、どうだろう」
 そう答えると、ルナリスが一睨みする。
 まるで長年の宿敵でも見るように目を細く鋭くし、顔を歪めた。
「大丈夫そうね」
「大丈夫ではないよ。でもやらなきゃいけないんだろ?」
「──そうよ」
「だったら今回に限って俺は戦うよ。それでいいんだろ?」
「ええ」
 それからは黙って時間が経つのを待った。
 沈黙は実際の時間よりも長く感じさせ、窓を叩く風の音をより大きくさせる。
 
【キングゼロ、開始します】
【参加者はフィールドに移動して下さい】
 
 不意に目の前に文字が浮かぶ。
 ルナリスはシンリに向けて小さく頷いた。立ち上がり、脇に立つシルファから彼女が抱えていた布に巻かれた何かを受け取る。シルファのときでさえ異様だったが、一見、彼女よりも華奢に見えるルナリスが持つとより一層異様だった。
 しっかりとその何かを受け取ると、
「行ってくるわね、シルファ」
 返事も待たずに目を瞑った。

──次の瞬間、ルナリスの姿が消えた。

 初めての光景に目を見張る。
 シンリも軽く伸びを一つしてから、
「……それじゃあ、俺も行くかな」
 ルナリスとは違い、誰に言うでもなく、けれどハッキリと声に出してそう言った。
 先に行った彼女に倣い、目を瞑る。
 頭の中で呪文のように例の言葉を唱えた。
(キングXIII シンリ……キングゼロ)
 すると突然、地から足が離れる感覚が訪れる。
 暗転しているはずの世界の奥に光が浮かび、それが徐々に大きく──近付いてきた。
 強烈な光に呑み込まれていく。
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