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第十七話 遠い日の
しおりを挟む「この子が最年長の小太郎です。年は十二だから、来年あたり村に奉公に行かせようと思っています」
品定めをするような目で上からねめつける神様と、口を一文字に結んで不満げな顔を隠しもしない小太郎。
神様と小太郎の二人は、顔見せをする前から相性が悪いだろうとは思っていた。自由気ままな神様と、頑固に近い生真面目な小太郎では、話合いは不可能だろうと。
案の定、年の低い者たちは怖いもの知らずに神様と関わっていく中で、小太郎は一切神様に近づこうとしなかった。
「こら、小太郎。そんな態度では神様に失礼だろう」
「……だって、別に俺が関わることなんてないし」
「もし私に何かがあれば、この神社や幼い子たちの後継はおまえにしか頼めない。そうなれば、神様のお力を借りる機会もあるだろう?」
小太郎はむっと口をすぼめて下を向く。何か言いたいことを我慢する、小太郎の昔からの癖だ。
陽治郎は声を落として尋ねる。
「後継になるのはいやか?」
「いやじゃない!」
弾けんばかりに首を振って否定する小太郎に、「ならば、なぜ」と問おうとして、それまで黙っていた神様が口を開いた。
「そこにおまえがいないからだろう?」
ぐっと息を殺したのは、難しそうに顔をゆがめる小太郎だった。
「後継ということは、陽治郎。おまえが死んだときのことだ。小童(こわっぱ)はそんな将来を考えたくなどないのだ」
真顔で「そんなことも分からないのか?」と尋ねてくる神様に、陽治郎は反論する。
「そうは言っても、ここにいる子どもたちの行く末を案じなければいけない。小太郎なら、私以上にうまくみんなをまとめてくれるはず。私にもしもがあったときに備えるのは大切でしょう?」
「小童はそんな来るか分からない先を想像もしたくないのだ。おまえが大切だからゆえにな」
陽治郎はぽかんと間抜け面を晒してしまった。
まさか、神様の口から人の思いをおもんぱかる台詞が出てくるとは到底思わなかったからだ。人とは異なる種の神が、陽治郎たちと接しているうちに随分と人間臭くなったものだ。
陽治郎が失礼にも神様の人としての成長を感じていると、神様は真面目な態度を崩さず続けた。
「陽治郎。おまえが頼むなら小童たちの行く末は私が見守ってやる。この小童が万事抜かりなく役目を全うするのも、私がすべて見定めよう」
上から目線は変わらない。神としての余裕をにじませ、堂々とした振る舞いのまま神様は言ってのける。
「だからおまえは、あるかないか分からない未確定な先を案ずるよりも、今は小童どもと笑っておればいい。それを私も、そこの小童も望んでいることだ。のう、小童?」
「……小童ではありません。小太郎です」
意地悪げな笑みをたたえる神様に、小太郎は固い顔を変えず、それでも先ほどまでよりは表情に安堵があった。
神様と小太郎がいれば、ほかの子どもたちは安泰だ。安心して、子どもたちと日々を過ごしていられる。
ほっと胸をなでおろす陽治郎に対して、神様はどこか物憂げな表情を浮かべていた。
どうして、そのような悲しげな顔をしているのか。心配になりつつも、陽治郎は指摘できないまま、ほかの子どもに呼ばれてその場を辞した。
まさかその数年後、陽治郎に病魔が襲いかかるとは、本人でさえ知る由もなかった。
――神様。あなただけは、それを知っていたのですか?
数百年経った未来で聞くには、その真実の追求は重すぎた。
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