神様の愛と罪

第七話 暗い夢の中で

「なんで……？」

　蓮華が泣いている。

　目を閉じて眠りについていた陽治郎は、暗い箱に閉じこもった蓮華が泣いているのに気づいた。

「なんでお父さんを助けてくれなかったの？」

　その責任転嫁はお門違いだと、蓮華に声をかけられるほど陽治郎は非情になれない。

「神様なんでしょ？　お父さんを、助けてくれたってよかったのに！」

　愛すべき子どもたちの子孫なら、蓮華の父である青葉もまた、神様が守る者のひとりに当てはまる。神様の恩恵が与えられていないはずはなかった。

　だが、青葉は亡くなった。陽治郎と同じ病死で。

　蓮華の衝撃が大きいのは、その死があまりに突然だったからだ。朝、父親とともに家を出て、彼女は学校へ。三時間目が始まるころ、担任の教師に呼びだされるまで、蓮華は日常を過ごしていた。

　救急車を呼んだ青葉の同僚は、彼がいつの間にか倒れていたと証言した。早期に発見できていれば、治る可能性はあったと医師は言った。救うための手だてを尽くして、処置が間に合わないまま、青葉は息を引きとった。

「どうして！」

　慟哭は絶え間なく。置いていかないでと泣き続けている。

　昨日まで、朝の挨拶を交わすまで、別れるまで、あれほど元気だったのに。覚悟を抱く時間も持たせてもらえず、蓮華の最愛は奪われた。

　蓮華だって、神様の紫を責めたいはずがない。整理がつかない感情のぶつける先がどこにもないからこそ、超常的な存在に責任を押しつけるのだ。

　そうしなければ、蓮華は自分を責めるから。

「私がもっと早く異変に気づけてれば！　私がお父さんを死に追いやったんだ。もっと休ませてあげればよかったのに。私なんかが生きているからお父さんはっ！」

　自責にかられる蓮華は、自分を守るために「そうじゃない、そうじゃない」と頭を巡らせる。

「私のせいじゃない」

　そう思わないと、壊れてしまう。

「神様が、お父さんを助けてくれなかったから」

　陽治郎は蓮華の心を抱きしめた。蓮華の気持ちが癒される方法を知らないわけではない。落ちつくには、はてしない時間が必要だ。紛らわせるのではなく、整理させるための時間が。

　青葉のいない日常を過ごすのが今はつらいと言うのなら、陽治郎が代わりを務めよう。蓮華がまた自分の意思で歩きだしたいと思うまで、陽治郎は支えてやる。

　親を亡くして寂しいと泣く孤児に寄りそったときのように、陽治郎は蓮華にささやき続ける。

　――大丈夫。おまえはひとりではないよ。

　今は伝わらなくても、声が届くまで優しく語りかける。