上 下
41 / 53
第2章

閑話① マイヤ視点

しおりを挟む
 私はずるい人だと思う。私の身勝手で国を滅ぼしかねない大惨事を起こしてしまった。
 結果目的は達成できず、助けられなんとか収束したその事件。ただ、それにより深い苦しみに襲われた人は数知れず。
 それでも、その行動を後悔できなかった。

 私はずるい人だと思う。



 ギンさんと別れた後、広い草原の中、馬車がギリギリすれ違えるほどの道を静かに歩いて行く。
 ここ最近、徒歩の時はいつもギンさんの下駄の音が響いていた。なんとなく寂しい。
 耳を澄ますと、多種多様な鳥の声。木々の音と風になでられる草の音。
 空は青く、真っ白な雲がゆっくりと流れていく。

 自然と涙が出てきた。

 私がこの間まで居た地は、草はなかなか生えず、雨もほとんど降らない。そんな土地だった。
 そんな土地でも、そこに住む人たちは幸せだったと思う。
 以前、皇帝は善政を敷いていたと聞く。それが突然変わってしまった。
 雲があることの方が少ない美しい空は、常に分厚い黒い雲が覆うようになった。
 さらさらな砂は雨に濡れ、気づけば緑の草が生えていた。砂漠の建物は植物の根には耐えられない。
 砂を固めて出来た家にも草が生え、壁はひび割れる。

 私はなんと言うことをしてしまったのだろう。

 そう思っても、やはり後悔は出来なかったのだ。





「マイヤ!」

 私が長らく暮らしていた町、ベルティナの町に着いた。
 あれほど枯れていた土地も、どうやら雨が降り始めたようで、まだ完全とは行かない物の、多少の緑があった。
 町に住む者たちは、私の姿を見るなり私の元へ駆け寄り、謝辞を述べる。
 私は心苦しかった。私のせいで舞い降りた不幸。それを解消しただけ。
 それを解消したのも私の力では無い。私はこの者たちに不幸しかばらまいていないのだから。

「よくやってくれたよ。雨が降るようになったんだ」
「そっか。よかった」

 私は俯いてそういうことしかできなかった。
 その様子を見た町人は、「どこか痛いのか?」とか、「おなかが減っているのか?」とか、優しい言葉を掛けてくる。
 私はこの町には居づらい。

 離れたばかりなのに、あの少女に、同い年くらいの少女に助けを求めてしまう。
 まだほとんど水の戻らない大きな湖。枯れた木の根元には、小さな雑草が生えている。
 風が吹いても砂は舞わない。

 彼らの目に、私は英雄として映っているのだろうか。



 流されるがまま、町長の家へやってきた。
 ふかふかの布団、上等な服。そして温かい食事。
 すべて英雄である私を労うための物だろう。今晩は宴らしい。英雄が帰ってきた、と。

「居づらいなぁ……」

 深く沈むベッドに腰を掛け、斜め上に顔を向けながらため息交じりにそうつぶやく。
 夕日の差す暗い部屋。そんな静かな部屋に響くのは、外から聞こえてくる楽しそうな声。
 その声が耳に届く度、私の胸はキュッと締め付けられる。
 まぶたを閉じると、帝都で見た絶望の表情を浮かべる人たちが浮かんできてしまう。
 目の前で殺された、この手で殺した人が鮮明に浮かぶ。これは呪いだ。
 死ぬまで付き纏う呪いだと思う。



 翌朝、大量の酒を呷り、くたくたになるまで行われた宴。
 ほんのりと明るくなってきた頃。1の鐘の音と同時に、まだ寝静まるベルティナの町から馬車が出発する。
 乗客は私だけ。

「嬢ちゃんはどこに向かうのかい?」
「ベルフェリネの王都に行こうと思っています」
「何か用があるのかい?」
「はい。手紙を預かっているのです」
「そうかい。随分と長旅だろう。気をつけてな」

 感謝を述べ、あごに手を当てながら景色を眺める。ここからは私1人。





 しばらくして、私は王都に着いた。
 相当な長旅だった。
 ギンさんに言われたジェノムさんには会えなかった。途中のレグニタウンというところで聞いたのだが、どうやら王都で活動している商人らしい。
 きっと王都にいれば会えるだろう。

 さて、王都に着いたと言うことは、私への手紙を開けても良いと言うことだ。
 ギンさんの友人が誰かも分からない。なんの内容が書かれているかも分からない。
 ひとまず宿を取る。ギンさんから貰ったお金があるのだが、できるだけ節約したいので安い宿に泊まった。
 安い宿の硬いベッド。しばらくの馬車の旅で使った寝袋に比べたら上等な寝具だ。

 そんなベッドに腰を掛け、ゆっくりと手紙の封を開けていく。

『マイヤへ。
 この手紙を読んでいると言うことはきっと王都に着いているのでしょう。もしかしたら旅の途中で開けちゃってるかもしれないけど、マイヤはそんなことをしないと信じているよ。

 さて、何も教えずに王都へ行かせてしまったことを謝ろう。申し訳なかった。
 これを伝えればきっとマイヤは嫌がると思ったから、私は伝えなかった。ちなみにその内容はもう1つの手紙に書かれているよ。私の友人から内容を聞いて欲しい。
 長い旅はどうだったかな。きっと自分を見つめ直す良い機会になったと思う。
 世界は広いでしょう。私は広い世界を見るのが好きなんだ。なんたって200年間牢にいたからね。
 ちなみに、私が200年居た牢はその王都にあるよ。

 さて、紙のサイズも限られていると言うことで、私の友人の居場所を教えようと思う。
 私の友人は王城にいる。王城で何をしているかはあってからのお楽しみだ。
 門番の人にもう1つの手紙を渡して欲しい。きっとその人の元へ案内してくれると思うよ。
 じゃあまた会おう。本当は50年後くらいに私もそこへ行こうと考えていたのだけど、マイヤも言ったと言うことだし、少しその時間を縮めようと思うよ。
 ある程度世界を回ったらすぐに私も向かう。まあ10年くらいかな?
 私の友人によろしく。
                                                                        石見銀』

「お、王城!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

堕ちた神と同胞(はらから)たちの話

鳳天狼しま
ファンタジー
”彼の人も”また、虚しさと胡乱(うろん)の中で探していた、己の”すべて”をあずけてしまえる誰かを――――― 1600歳を超える神だったジルカース(主人公)は、幼い頃から対話をして親しかった神子のテオを探し下界へと降りる。 しかしジルカースは天界に居た頃の記憶を失っており、また下界は極めて治安の悪い世界だった。 略奪や奴隷狩りが横行する世界で、神であったはずのジルカースはやがていつしか暗殺家業をするようになる。 そんな中でジルカースは人の縁を知り時に絶望して、時に思いを重ねて生きてゆく。 穢れを知り堕ちゆく彼の行き着く先はいかなる場所なのか。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...