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第2章
閑話① マイヤ視点
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私はずるい人だと思う。私の身勝手で国を滅ぼしかねない大惨事を起こしてしまった。
結果目的は達成できず、助けられなんとか収束したその事件。ただ、それにより深い苦しみに襲われた人は数知れず。
それでも、その行動を後悔できなかった。
私はずるい人だと思う。
ギンさんと別れた後、広い草原の中、馬車がギリギリすれ違えるほどの道を静かに歩いて行く。
ここ最近、徒歩の時はいつもギンさんの下駄の音が響いていた。なんとなく寂しい。
耳を澄ますと、多種多様な鳥の声。木々の音と風になでられる草の音。
空は青く、真っ白な雲がゆっくりと流れていく。
自然と涙が出てきた。
私がこの間まで居た地は、草はなかなか生えず、雨もほとんど降らない。そんな土地だった。
そんな土地でも、そこに住む人たちは幸せだったと思う。
以前、皇帝は善政を敷いていたと聞く。それが突然変わってしまった。
雲があることの方が少ない美しい空は、常に分厚い黒い雲が覆うようになった。
さらさらな砂は雨に濡れ、気づけば緑の草が生えていた。砂漠の建物は植物の根には耐えられない。
砂を固めて出来た家にも草が生え、壁はひび割れる。
私はなんと言うことをしてしまったのだろう。
そう思っても、やはり後悔は出来なかったのだ。
「マイヤ!」
私が長らく暮らしていた町、ベルティナの町に着いた。
あれほど枯れていた土地も、どうやら雨が降り始めたようで、まだ完全とは行かない物の、多少の緑があった。
町に住む者たちは、私の姿を見るなり私の元へ駆け寄り、謝辞を述べる。
私は心苦しかった。私のせいで舞い降りた不幸。それを解消しただけ。
それを解消したのも私の力では無い。私はこの者たちに不幸しかばらまいていないのだから。
「よくやってくれたよ。雨が降るようになったんだ」
「そっか。よかった」
私は俯いてそういうことしかできなかった。
その様子を見た町人は、「どこか痛いのか?」とか、「おなかが減っているのか?」とか、優しい言葉を掛けてくる。
私はこの町には居づらい。
離れたばかりなのに、あの少女に、同い年くらいの少女に助けを求めてしまう。
まだほとんど水の戻らない大きな湖。枯れた木の根元には、小さな雑草が生えている。
風が吹いても砂は舞わない。
彼らの目に、私は英雄として映っているのだろうか。
流されるがまま、町長の家へやってきた。
ふかふかの布団、上等な服。そして温かい食事。
すべて英雄である私を労うための物だろう。今晩は宴らしい。英雄が帰ってきた、と。
「居づらいなぁ……」
深く沈むベッドに腰を掛け、斜め上に顔を向けながらため息交じりにそうつぶやく。
夕日の差す暗い部屋。そんな静かな部屋に響くのは、外から聞こえてくる楽しそうな声。
その声が耳に届く度、私の胸はキュッと締め付けられる。
まぶたを閉じると、帝都で見た絶望の表情を浮かべる人たちが浮かんできてしまう。
目の前で殺された、この手で殺した人が鮮明に浮かぶ。これは呪いだ。
死ぬまで付き纏う呪いだと思う。
翌朝、大量の酒を呷り、くたくたになるまで行われた宴。
ほんのりと明るくなってきた頃。1の鐘の音と同時に、まだ寝静まるベルティナの町から馬車が出発する。
乗客は私だけ。
「嬢ちゃんはどこに向かうのかい?」
「ベルフェリネの王都に行こうと思っています」
「何か用があるのかい?」
「はい。手紙を預かっているのです」
「そうかい。随分と長旅だろう。気をつけてな」
感謝を述べ、あごに手を当てながら景色を眺める。ここからは私1人。
しばらくして、私は王都に着いた。
相当な長旅だった。
ギンさんに言われたジェノムさんには会えなかった。途中のレグニタウンというところで聞いたのだが、どうやら王都で活動している商人らしい。
きっと王都にいれば会えるだろう。
さて、王都に着いたと言うことは、私への手紙を開けても良いと言うことだ。
ギンさんの友人が誰かも分からない。なんの内容が書かれているかも分からない。
ひとまず宿を取る。ギンさんから貰ったお金があるのだが、できるだけ節約したいので安い宿に泊まった。
安い宿の硬いベッド。しばらくの馬車の旅で使った寝袋に比べたら上等な寝具だ。
そんなベッドに腰を掛け、ゆっくりと手紙の封を開けていく。
『マイヤへ。
この手紙を読んでいると言うことはきっと王都に着いているのでしょう。もしかしたら旅の途中で開けちゃってるかもしれないけど、マイヤはそんなことをしないと信じているよ。
さて、何も教えずに王都へ行かせてしまったことを謝ろう。申し訳なかった。
これを伝えればきっとマイヤは嫌がると思ったから、私は伝えなかった。ちなみにその内容はもう1つの手紙に書かれているよ。私の友人から内容を聞いて欲しい。
長い旅はどうだったかな。きっと自分を見つめ直す良い機会になったと思う。
世界は広いでしょう。私は広い世界を見るのが好きなんだ。なんたって200年間牢にいたからね。
ちなみに、私が200年居た牢はその王都にあるよ。
さて、紙のサイズも限られていると言うことで、私の友人の居場所を教えようと思う。
私の友人は王城にいる。王城で何をしているかはあってからのお楽しみだ。
門番の人にもう1つの手紙を渡して欲しい。きっとその人の元へ案内してくれると思うよ。
じゃあまた会おう。本当は50年後くらいに私もそこへ行こうと考えていたのだけど、マイヤも言ったと言うことだし、少しその時間を縮めようと思うよ。
ある程度世界を回ったらすぐに私も向かう。まあ10年くらいかな?
私の友人によろしく。
石見銀』
「お、王城!?」
結果目的は達成できず、助けられなんとか収束したその事件。ただ、それにより深い苦しみに襲われた人は数知れず。
それでも、その行動を後悔できなかった。
私はずるい人だと思う。
ギンさんと別れた後、広い草原の中、馬車がギリギリすれ違えるほどの道を静かに歩いて行く。
ここ最近、徒歩の時はいつもギンさんの下駄の音が響いていた。なんとなく寂しい。
耳を澄ますと、多種多様な鳥の声。木々の音と風になでられる草の音。
空は青く、真っ白な雲がゆっくりと流れていく。
自然と涙が出てきた。
私がこの間まで居た地は、草はなかなか生えず、雨もほとんど降らない。そんな土地だった。
そんな土地でも、そこに住む人たちは幸せだったと思う。
以前、皇帝は善政を敷いていたと聞く。それが突然変わってしまった。
雲があることの方が少ない美しい空は、常に分厚い黒い雲が覆うようになった。
さらさらな砂は雨に濡れ、気づけば緑の草が生えていた。砂漠の建物は植物の根には耐えられない。
砂を固めて出来た家にも草が生え、壁はひび割れる。
私はなんと言うことをしてしまったのだろう。
そう思っても、やはり後悔は出来なかったのだ。
「マイヤ!」
私が長らく暮らしていた町、ベルティナの町に着いた。
あれほど枯れていた土地も、どうやら雨が降り始めたようで、まだ完全とは行かない物の、多少の緑があった。
町に住む者たちは、私の姿を見るなり私の元へ駆け寄り、謝辞を述べる。
私は心苦しかった。私のせいで舞い降りた不幸。それを解消しただけ。
それを解消したのも私の力では無い。私はこの者たちに不幸しかばらまいていないのだから。
「よくやってくれたよ。雨が降るようになったんだ」
「そっか。よかった」
私は俯いてそういうことしかできなかった。
その様子を見た町人は、「どこか痛いのか?」とか、「おなかが減っているのか?」とか、優しい言葉を掛けてくる。
私はこの町には居づらい。
離れたばかりなのに、あの少女に、同い年くらいの少女に助けを求めてしまう。
まだほとんど水の戻らない大きな湖。枯れた木の根元には、小さな雑草が生えている。
風が吹いても砂は舞わない。
彼らの目に、私は英雄として映っているのだろうか。
流されるがまま、町長の家へやってきた。
ふかふかの布団、上等な服。そして温かい食事。
すべて英雄である私を労うための物だろう。今晩は宴らしい。英雄が帰ってきた、と。
「居づらいなぁ……」
深く沈むベッドに腰を掛け、斜め上に顔を向けながらため息交じりにそうつぶやく。
夕日の差す暗い部屋。そんな静かな部屋に響くのは、外から聞こえてくる楽しそうな声。
その声が耳に届く度、私の胸はキュッと締め付けられる。
まぶたを閉じると、帝都で見た絶望の表情を浮かべる人たちが浮かんできてしまう。
目の前で殺された、この手で殺した人が鮮明に浮かぶ。これは呪いだ。
死ぬまで付き纏う呪いだと思う。
翌朝、大量の酒を呷り、くたくたになるまで行われた宴。
ほんのりと明るくなってきた頃。1の鐘の音と同時に、まだ寝静まるベルティナの町から馬車が出発する。
乗客は私だけ。
「嬢ちゃんはどこに向かうのかい?」
「ベルフェリネの王都に行こうと思っています」
「何か用があるのかい?」
「はい。手紙を預かっているのです」
「そうかい。随分と長旅だろう。気をつけてな」
感謝を述べ、あごに手を当てながら景色を眺める。ここからは私1人。
しばらくして、私は王都に着いた。
相当な長旅だった。
ギンさんに言われたジェノムさんには会えなかった。途中のレグニタウンというところで聞いたのだが、どうやら王都で活動している商人らしい。
きっと王都にいれば会えるだろう。
さて、王都に着いたと言うことは、私への手紙を開けても良いと言うことだ。
ギンさんの友人が誰かも分からない。なんの内容が書かれているかも分からない。
ひとまず宿を取る。ギンさんから貰ったお金があるのだが、できるだけ節約したいので安い宿に泊まった。
安い宿の硬いベッド。しばらくの馬車の旅で使った寝袋に比べたら上等な寝具だ。
そんなベッドに腰を掛け、ゆっくりと手紙の封を開けていく。
『マイヤへ。
この手紙を読んでいると言うことはきっと王都に着いているのでしょう。もしかしたら旅の途中で開けちゃってるかもしれないけど、マイヤはそんなことをしないと信じているよ。
さて、何も教えずに王都へ行かせてしまったことを謝ろう。申し訳なかった。
これを伝えればきっとマイヤは嫌がると思ったから、私は伝えなかった。ちなみにその内容はもう1つの手紙に書かれているよ。私の友人から内容を聞いて欲しい。
長い旅はどうだったかな。きっと自分を見つめ直す良い機会になったと思う。
世界は広いでしょう。私は広い世界を見るのが好きなんだ。なんたって200年間牢にいたからね。
ちなみに、私が200年居た牢はその王都にあるよ。
さて、紙のサイズも限られていると言うことで、私の友人の居場所を教えようと思う。
私の友人は王城にいる。王城で何をしているかはあってからのお楽しみだ。
門番の人にもう1つの手紙を渡して欲しい。きっとその人の元へ案内してくれると思うよ。
じゃあまた会おう。本当は50年後くらいに私もそこへ行こうと考えていたのだけど、マイヤも言ったと言うことだし、少しその時間を縮めようと思うよ。
ある程度世界を回ったらすぐに私も向かう。まあ10年くらいかな?
私の友人によろしく。
石見銀』
「お、王城!?」
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