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第2章
第33話
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「くそッ!」
ひとまず帝都の外へ出て、岩の陰に隠れてやり過ごす。
どうやら騎士たちは帝都の外までは追ってこないようだが、見失って追って来られていないだけかもしれない。
私は別に傷つけられても良いのだ。でも、何も悪いことをしていない人が理不尽に傷つけられる。
それを見ているだけで私の胸は苦しくなる。
その対象が私にとって良くしてくれる相手であればなおのことだ。
私は頑張る人の味方でいたいと思う。悪を悪と認識して、世界から少しでも悪意をなくしたい。
そう思っている。
やはり生きていく上で、幸せが一番大事だ。
悪人はきっと更生できる。
そう思っている。そう分かっている。
それでも私はあの皇帝を許せない。
「……どうしますか?」
おそらく怒っている私を見て気を遣ったのだろうが、恐る恐るといった感じでマイヤが聞いてきた。
「潰す。一刻も早く皇帝を殺す」
そういうと、マイヤは明らかにバツが悪そうな顔をした。
元をたどればマイヤが引き起こしたこと。でも別に私はそれを責めたりはしない。
人は大きい小さいはあれど、必ず過ちを犯す。過ちを犯さない者は居ない。
犯す犯さないではなく、犯してしまった後にどうするかの方が大切だと思う。
マイヤは反省している。
それはしばらく隣に居る私が一番分かっている。おそらく彼女本人よりも分かっている。
後悔の念に押しつぶされそうになりながらも、なんとか状況を打破するために頑張って頑張って、必死に藻掻いている。
だがあの皇帝は何だ。あの騎士共は何だ。
自分の力ではない。マイヤによって運び込まれた魔道具によって作られた偽りの力。
それを振りかざして良いようにする。もちろん悪びれもなくだ。
偽りの力をまるで自身の努力によって手に入れた風に演じ、ひたすらに悪を振りまく。自身の幸せのために大多数の幸せを奪い取っている。
誰かが幸せになるとき、そのほかの誰かが不幸になる。
それはよくあること。しょうがないこと。
1人が幸せになるために、相当数の人が不幸になる。
それはおかしい。
許せない。本当に許せない。
生かしておけない。ここで私の手で確実に殺さなければならない。
「すぐ行く。すぐに城に入る」
「どうやってですか?」
「門から入る。立ち塞がる者はねじ伏せる。何もせず手に入れた偽りの力と、200年掛けて本気で鍛えて手に入れた本物の力、どっちの方が上か思い知らせてやる。
待っていろ皇帝」
そう言い、出発しようと思ったとき、こちらに向かって近づく人影を確認した。
魔力の反応は弱い。そうなると騎士ではないようだ。
怒りにまかせて行動していたと今この時点で自覚した。
少し気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして、落ち着いて状況を把握する。
「町人か?」
「……そうっぽいですね。服装からしても」
すぐに危害を加えそうな感じではない。
「話を聞いてみるか」
「わかりました。でも嫌な予感がします」
「同感だ」
ザクザクと砂を踏む音を鳴らしながら、ゆっくりと近づいてくる。
その数は10人ほどだ。
歩いてきているのは皆女性で、深刻そうな面持ちでいる。
やつれた顔と、汚れた服装。胸がきゅっと締め付けられる。
軽く息を吐き、気持ちを落ち着かせながら近づいてきた女性たちに話しかける。
「あの、何か御用でしょうか」
「お願いします。皇帝を殺すのをやめてください」
「……はい? いまなんと?」
「皇帝陛下を殺さないでください」
「は? いやだって、え? 苦しめられてるんじゃないの??」
言っていることが理解できない。
なぜ己を苦しめる存在を庇うのか。
私は民にとって正義の味方であると思っていたのだけれど、もしかして私が悪なのだろうか。
困惑している私をよそに、リーダーらしき女性が話を続ける。
「皇帝陛下が亡くなれば、私の夫も死んでしまう。そんな世界、私は生きていけません」
そう低いトーンで言う女性に続き、後ろの方にいる女性が声を上げる。
「そうなんです! 私の夫は騎士でした。休みがあれば家に帰ってきて、私に優しく接してくれる、良い夫だったんです。
でも、……魔人になって。彼は変わってしまった……。
それでも、それでも、大事な大事な夫なんです。どうか……」
そう1人の女性が言うと、他の女性たちも次々に声を上げ始めた。
はぁ、なるほど。
う~ん、それは……。
思わずうねり声を上げてしまう。
隣を見ると、マイヤは俯いて黙り込んでいる。
「う~ん、えぇ……、えー? はぁ……」
困った。
いや、でも皇帝殺さないと……。
「……申し訳ありません。それでも私はあの皇帝を殺す。殺さなければならないんです」
「どうしてですか?」
「あの皇帝はこの世界にとって危険な人物です。放っておけば近隣の国まで被害が及んでしまう。
……ここから少し離れたところに私の知り合いが国王の国があります。
その国王は、またいつか私が戻ってきたときに今より良くなった国を見せる。そう意気込んで必死に政治をしています。
そうして、民を思って運営されている国。民の幸せで満ちあふれる国を私は守りたい。
だから、ここでこの悪の根源を倒さないといけないのです」
「……そうですか。その決定は変わりませんか?」
困ったような、最後の望みを掛けるような。そんな表情で私に聞いてくる女性。
ただ、私はその質問に対して即座に返答した。
「はい。変わりません」
「わかりました。……なら私たちはあなたたちをここで殺します」
「っ!?」
そう発した女性。
その言葉を聞いて、マイヤはひるんだように一歩後ずさりをした。
私は一切の驚きを見せない。なぜなら予想できていたからだ。
目を見ていれば分かる。徐々に増えていく私への殺意。
やはり皇帝を許せない。こうして話している間にもそう思う。
きっと数年前は幸せだったと思う。砂漠というあまり恵まれていない土地に住みながらも、信頼するものと過ごした日々は幸せだったと思う。
そんな日々が壊され、命を張って壊された日々を守ろうとしている。
「出来るとお思いで?」
「やります。おそらくあなたは強いでしょう。ただ、後ろの少女を守りながら10対2の戦いは厳しいでしょう?」
そうして私に向ける刃物はただの包丁だ。
反乱防止のために、剣の流通は制限されているのだろう。きっとこれが今彼女たちが出来る最大の装備。
「そうか。そう言うならあなたたちは人を見る目がない。
きっとマイヤ1人でもあなたたちは倒せる。でも、そうしたらあなたたちをきっと殺してしまう。
だから私が相手になりましょう。しばらく眠っていてください」
そう言うと、相手の返事を待つ前に女性たちから魔力を抜き取った。
すべてではない。1日眠るだろうと言ったぐらいの魔力だ。今目の前で倒れたのは、ただ魔力が枯渇しただけ。枯れ死ぬほどの魔力は抜いていない。
「……殺したんですか?」
「殺してはないよ。眠らせただけ。
さあ、お城へ向かおう」
「……はい」
今の一件で多少怒りが落ち着いた。
それでも怒りはある。
落ち着いては居るものの、怒りの量は多くなっていると思う。
だが、それと同時に焦りと躊躇いも生まれてしまった。
その躊躇いをそっと心の奥底へ塞ぐように。感情を押し殺してゆっくりと城へ向かって歩き出す。
ひとまず帝都の外へ出て、岩の陰に隠れてやり過ごす。
どうやら騎士たちは帝都の外までは追ってこないようだが、見失って追って来られていないだけかもしれない。
私は別に傷つけられても良いのだ。でも、何も悪いことをしていない人が理不尽に傷つけられる。
それを見ているだけで私の胸は苦しくなる。
その対象が私にとって良くしてくれる相手であればなおのことだ。
私は頑張る人の味方でいたいと思う。悪を悪と認識して、世界から少しでも悪意をなくしたい。
そう思っている。
やはり生きていく上で、幸せが一番大事だ。
悪人はきっと更生できる。
そう思っている。そう分かっている。
それでも私はあの皇帝を許せない。
「……どうしますか?」
おそらく怒っている私を見て気を遣ったのだろうが、恐る恐るといった感じでマイヤが聞いてきた。
「潰す。一刻も早く皇帝を殺す」
そういうと、マイヤは明らかにバツが悪そうな顔をした。
元をたどればマイヤが引き起こしたこと。でも別に私はそれを責めたりはしない。
人は大きい小さいはあれど、必ず過ちを犯す。過ちを犯さない者は居ない。
犯す犯さないではなく、犯してしまった後にどうするかの方が大切だと思う。
マイヤは反省している。
それはしばらく隣に居る私が一番分かっている。おそらく彼女本人よりも分かっている。
後悔の念に押しつぶされそうになりながらも、なんとか状況を打破するために頑張って頑張って、必死に藻掻いている。
だがあの皇帝は何だ。あの騎士共は何だ。
自分の力ではない。マイヤによって運び込まれた魔道具によって作られた偽りの力。
それを振りかざして良いようにする。もちろん悪びれもなくだ。
偽りの力をまるで自身の努力によって手に入れた風に演じ、ひたすらに悪を振りまく。自身の幸せのために大多数の幸せを奪い取っている。
誰かが幸せになるとき、そのほかの誰かが不幸になる。
それはよくあること。しょうがないこと。
1人が幸せになるために、相当数の人が不幸になる。
それはおかしい。
許せない。本当に許せない。
生かしておけない。ここで私の手で確実に殺さなければならない。
「すぐ行く。すぐに城に入る」
「どうやってですか?」
「門から入る。立ち塞がる者はねじ伏せる。何もせず手に入れた偽りの力と、200年掛けて本気で鍛えて手に入れた本物の力、どっちの方が上か思い知らせてやる。
待っていろ皇帝」
そう言い、出発しようと思ったとき、こちらに向かって近づく人影を確認した。
魔力の反応は弱い。そうなると騎士ではないようだ。
怒りにまかせて行動していたと今この時点で自覚した。
少し気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして、落ち着いて状況を把握する。
「町人か?」
「……そうっぽいですね。服装からしても」
すぐに危害を加えそうな感じではない。
「話を聞いてみるか」
「わかりました。でも嫌な予感がします」
「同感だ」
ザクザクと砂を踏む音を鳴らしながら、ゆっくりと近づいてくる。
その数は10人ほどだ。
歩いてきているのは皆女性で、深刻そうな面持ちでいる。
やつれた顔と、汚れた服装。胸がきゅっと締め付けられる。
軽く息を吐き、気持ちを落ち着かせながら近づいてきた女性たちに話しかける。
「あの、何か御用でしょうか」
「お願いします。皇帝を殺すのをやめてください」
「……はい? いまなんと?」
「皇帝陛下を殺さないでください」
「は? いやだって、え? 苦しめられてるんじゃないの??」
言っていることが理解できない。
なぜ己を苦しめる存在を庇うのか。
私は民にとって正義の味方であると思っていたのだけれど、もしかして私が悪なのだろうか。
困惑している私をよそに、リーダーらしき女性が話を続ける。
「皇帝陛下が亡くなれば、私の夫も死んでしまう。そんな世界、私は生きていけません」
そう低いトーンで言う女性に続き、後ろの方にいる女性が声を上げる。
「そうなんです! 私の夫は騎士でした。休みがあれば家に帰ってきて、私に優しく接してくれる、良い夫だったんです。
でも、……魔人になって。彼は変わってしまった……。
それでも、それでも、大事な大事な夫なんです。どうか……」
そう1人の女性が言うと、他の女性たちも次々に声を上げ始めた。
はぁ、なるほど。
う~ん、それは……。
思わずうねり声を上げてしまう。
隣を見ると、マイヤは俯いて黙り込んでいる。
「う~ん、えぇ……、えー? はぁ……」
困った。
いや、でも皇帝殺さないと……。
「……申し訳ありません。それでも私はあの皇帝を殺す。殺さなければならないんです」
「どうしてですか?」
「あの皇帝はこの世界にとって危険な人物です。放っておけば近隣の国まで被害が及んでしまう。
……ここから少し離れたところに私の知り合いが国王の国があります。
その国王は、またいつか私が戻ってきたときに今より良くなった国を見せる。そう意気込んで必死に政治をしています。
そうして、民を思って運営されている国。民の幸せで満ちあふれる国を私は守りたい。
だから、ここでこの悪の根源を倒さないといけないのです」
「……そうですか。その決定は変わりませんか?」
困ったような、最後の望みを掛けるような。そんな表情で私に聞いてくる女性。
ただ、私はその質問に対して即座に返答した。
「はい。変わりません」
「わかりました。……なら私たちはあなたたちをここで殺します」
「っ!?」
そう発した女性。
その言葉を聞いて、マイヤはひるんだように一歩後ずさりをした。
私は一切の驚きを見せない。なぜなら予想できていたからだ。
目を見ていれば分かる。徐々に増えていく私への殺意。
やはり皇帝を許せない。こうして話している間にもそう思う。
きっと数年前は幸せだったと思う。砂漠というあまり恵まれていない土地に住みながらも、信頼するものと過ごした日々は幸せだったと思う。
そんな日々が壊され、命を張って壊された日々を守ろうとしている。
「出来るとお思いで?」
「やります。おそらくあなたは強いでしょう。ただ、後ろの少女を守りながら10対2の戦いは厳しいでしょう?」
そうして私に向ける刃物はただの包丁だ。
反乱防止のために、剣の流通は制限されているのだろう。きっとこれが今彼女たちが出来る最大の装備。
「そうか。そう言うならあなたたちは人を見る目がない。
きっとマイヤ1人でもあなたたちは倒せる。でも、そうしたらあなたたちをきっと殺してしまう。
だから私が相手になりましょう。しばらく眠っていてください」
そう言うと、相手の返事を待つ前に女性たちから魔力を抜き取った。
すべてではない。1日眠るだろうと言ったぐらいの魔力だ。今目の前で倒れたのは、ただ魔力が枯渇しただけ。枯れ死ぬほどの魔力は抜いていない。
「……殺したんですか?」
「殺してはないよ。眠らせただけ。
さあ、お城へ向かおう」
「……はい」
今の一件で多少怒りが落ち着いた。
それでも怒りはある。
落ち着いては居るものの、怒りの量は多くなっていると思う。
だが、それと同時に焦りと躊躇いも生まれてしまった。
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