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第1章

第9話

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 何回か腕を失ったが、そのたびに復活させると言った荒技を繰り返してオオカミのこり1匹という所まで来た。
 ここで問題になってくるのがこの1匹をどのように扱うかということだ。今まで通り魔物化を無理矢理解除してそのまま魔力を枯渇させて殺るか、それとも魔物化を継続させたまま倒して保存するか。

「う~ん、アイテムボックスの中で時間の経過があるのかを確かめないといけないな」

 もし時間が経過しないのであれば殺して中に入れておけば一生持つ。冷蔵庫の上位互換のようなものになって果てなく便利だ。
 もし動いているようなら凍らせて入れたいけど……、しばらく氷はいやかなぁ……。
 中の時間経過を見るにはものを燃やすのが一番いい気がする。燃えやすい草に火をつけてすぐにアイテムボックスの中に入れる。そして数秒後に取り出せばいい。

「えっと、こんなのでいいかな」

 いくら閉じ込めているとはいえ魔物化したオオカミがすぐそばに居る状態。できるだけ早く確認して始末したい。
 燃えやすそうな枯れ枝を1本拾って先端部に火をつける。
 そしてこれをアイテムボックスの中に放り込む。大体30秒でいいだろう。

「あれ? これ来たのでは?」

 30秒経ったので取り出してみたらまだ火がついていた。ということは時間が止まっている可能性が高い。
 そう思ったのだが……。

「あ、これだめなやつだ。一番だめだ」

 明らかに枝が延焼している。ということはアイテムボックスの中で燃えていたということだ。
 時間が止まっていないと言うことがわかった上に、もう1つ重大なことが判明した。

「……これ空気あるのかぁ」

 空気があるのだ。
 時間経過があって空気がない場合、酸素が含まれていないために火が消えて出てくるだろう。ただ、時間経過があって火が消えていないということは、この炎は酸素を使って燃え続けていた。
 空気がなかったらそのまま食材を入れていても酸化しないのでなんとか食べられただろう。ただ、酸素があるということは入れっぱなしにしていれば食材が酸化してしまう。

「むぅ~っ……」

 ひとまず魔物化した状態で殺すことが確定した。そして、魔物化を解除してから殺して、アイテムボックスに入れていたオオカミ4匹をどうにかしないといけない。
 ひとまず毛皮を剥いでおきたい。肉はできるだけ食べておく。

 まあこれは後でいい。ひとまずは残り1匹のオオカミを片付けないと。

 今までのように魔力を吸収して倒せない。となると何らかの物理攻撃を通さなければいけないわけだ。
 いやまて、酸欠にさせよう。
 ちょっとかわいそうだけど密閉して殺せばいいんだね。




 ということでオオカミが入っていた所に蓋をしました。
 どのくらいで酸欠を起こすかはわからないけど結構狭めの部屋に閉じ込めたからおそらく3日もすれば倒せるだろう。
 その間に4匹のオオカミをどうするか考えないといけない。

 拠点に戻ってきて、魔法で出した岩製プレートの上にオオカミを1匹のせた。
 我ながらよく殺せている。
 改めてみるとオオカミ1匹でも十分多い。正直4匹、5匹を1人で処理するのは不可能だ。
 今とれているオオカミは1匹残して土に埋めてあげた方がいいかもしれない。おそらく解体したところで腐って食べられないだろう。
 まあ後で埋めておく。

 内臓から腐りやすいというのを聞いたことがある。私は焼き肉でもホルモンを食べなかった人間なので内臓をとっておく必要はない。
 だんだんと作るのに慣れてきた魔法製の刀でこのオオカミのおなかを裂いていく。
 ジジジッと普段聞くことのないような音とともに私の鼻腔を刺激するのは強烈なにおい。

「くせーッ!! 内臓ってこんなにくさいの!?」

 一般的な“獣くさい”をさらに濃縮したようなにおいがあたりを漂っていく。


 拠点から見えないような位置、大木の裏に胃の中身を吐き出して作業を再開する。
 このにおいは我慢するしかない。命をいただくのだ。オオカミに失礼になってしまう。
 おなかを開け、露わになった内臓に手を突っ込んで掻き出す。ぬるっとした感触とまだほんのりと暖かいその内臓に、またもや私の胃から何かこみ上げてくるものがあったが、なんとか押さえ込んだ。
 この状態のものをアイテムボックスにしまうのは抵抗があったので、掻き出した内臓を地面に埋めた後、引きずるようにしてオオカミを沢に運んだ。
 ……なお、運んだ位置は私が普段飲み水を採収している地点の大分下流地点となる。

 川の上流の方に腹部を向け、付近にあったゴツゴツしている石を使ってはらわたをさらに掻き出していく。
 オオカミの真っ赤な肉は張りがあり、ガリガリと石でやったところでそこまで大きな傷がつくことはない。
 一通りの内臓掃除が終わった後、ゴシゴシとオオカミの体表を洗い流していく。
 おそらくダニをはじめとする寄生虫などが多く付着しているはずだ。私も体に付着しないように細心の注意を払って作業しているが、後ほど熱々のお湯につかって体についた有害生物を抹殺する予定だ。

 確か毛皮を加工するときには塩を使うと聞いたことがある。ただ、今私は塩を持っていないのでこの毛皮は廃棄するほかない。
 塩があれば塩漬けにしてお肉も保管しておけたのだが、これに関しては仕方がない。おそらく地面から塩をとることは出来るのだろうけれど、あいにくまだ私にその技術はない。

 洗い流したオオカミを一度陸にあげ、今度は毛皮を剥いでいく。
 仕留めたときに開けた切り口に斜めにナイフを差し込み、少しずつ剥いでいく。この作業がなかなか精神力を削られる。





「はぁ、終わったぁ……」

 1匹だけなのに大分時間がかかってしまった。
 私の体と同じくらいの巨大な肉の塊。正直腐る前に食べ終わるのは無理だ。
 塩がないから塩漬けには出来ない。塩はないけれど私の周りにはたくさんの木がある。そこで考えたのが、コイツを燻製にしてしまおうということだ。
 どのくらい持つのかはわからないのだが、燻製にした後に干して乾燥させれば相当長い時間持つはずだ。

 この巨体を丸々燻製にすることは出来ないので、切り分けて燻製にしていく。
 おなかの部分はよくスーパーで見たスペアリブみたいな感じに。オオカミの身は結構きれいな赤身をしている。見た目は牛肉の赤身だ。




 燻製に使うチップは何か厳選した方がいいのだろうが、正直知識がないので適当にそこら辺にある木を使う。
 乾燥していた方がいいのか、それとも水分を含んでいた方がいいのかもわからない。なので半々くらいにしておく。
 完全にイメージだが、いい感じに釜を作ってそこにお肉を並べていく。
 下の方にチップを置いてそこに火をつけて放置するだけ。正しいやり方なんて知っているわけがないのだからこれでいい。
 私が正しいって思っていればそれは正しいのだ。
 火力はできるだけ弱めで。時間を掛けてゆっくりと中まで火を入れていきたい。完全に保存用にしたいのだからできるだけ水分を抜きたい。
 高温で一気にやるよりもじっくりじわじわとやった方が水分が抜ける気がする。

 気ままに待ちます。




「そしてッ!!」

 その間に燻製をしないでとっていたお肉を食べます!
 残念ながら味付けは出来ないけれど、一般的なファスティングとかより明らかに絶食している期間が長いわけだから、舌も敏感の域を遙かに超えていると思う。
 だから大丈夫。

 一応がっつり食べるのはやめておきたいので、少し小さめに切り取っておいた。おなかの部分はあの臭さのせいで食べる勇気が出なかったので背中の方を食べることにする。
 沢で軽く水洗いし、よく洗った石で1分ほどたたいてお肉を柔らかくする。そして、そのお肉を熱々に熱した石の上にのせる。

 油はないように見えたのだが、こうして焼いてみると案外油があるみたいだ。
 ジューッという食欲をそそる音を立てながらみるみるうちに焼けていくお肉。先ほども言ったとおり生は怖いのでじっくりと焼いていく。
 肉と石の隙間からわずかに漏れ出てくる黄金色の油が石を伝って火に垂れ落ち、そのたびにボワッと火が強くなる。
 そして、それを見ている私の口元からよだれが……。



「いただきます!」

 あのザリガニスープから一日経ち、ようやく比較的人間らしい食事を摂れる。
 フォークの形状が難しかったので、右手にナイフ、左手にナイフという明らかにおかしい食事セットだが許してほしい。
 左手のナイフの腹でお肉を押さえ、右手のナイフで肉を切っていく。ゴツゴツとした繊維質の肉には、先ほど叩いたおかげもあってかすんなりとナイフが入っていく。
 断面からは牛肉のステーキほどではないがほんのりと肉汁が垂れてくる。

 ドキドキと鳴る心臓を押さえ、ゆっくりと口に運ぶと、野性的な肉のうまみが口いっぱいに広がった。
 獣くさい。血生臭い。ただ、その奥から徐々に現れてくる肉本来のうまみはほっぺたが痛くなるほどに私の体に染み渡る。
 食事というのはこんなに素晴らしいものだったのか。
 ここに塩があれば、こしょうがあれば。そして何より米があれば、そう言った考えが頭に浮かぶが、今はこの肉をひたすらに噛みしめる。
  
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