若き天才国王の苦悩

べちてん

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31話目 冷涼祭

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「随分と暑くなってきたね……」

 椅子にだらんともたれかかりながら、ぼんやりと窓の外を眺める。

 快晴までとは行かないものの、空の多くを占める青色に、ぎらぎらと光り輝く太陽。

 遠くの方は靄がかかったようにうねうねとして見える。

 この嫌にジメジメとして日差しも暑い、いや~な季節。

 そう、夏が来た。





 夏は嫌いですか? と聞かれればもちろんYesと答える。

 僕は夏より冬が好きだ。

 ……ちなみに冬に同様のことを聞かれると、今度は夏が好きになる。

 人間好き嫌いというものは気分で決まるようにできているのだと思う。

 まあそれはいいのだ。

「レイ、そろそろこの時期じゃないかしら?」

「ああ、そうだな」

 この国で、僕が王太子の頃から毎年行っている仕事がある。

 正確には、魔力の多い貴族に呼びかけをして、以前より王国主導でやっていることなのだが、夏の暑いときに毎年行っているのだ。

「下町の者はこのことを毎年とても待ち望んでいるのですよ」

 とフィレノア。

 しばらく机の上において、ぬるくなったお茶をズズズとすすったのと同じ時、執務室の戸が3回叩かれた。

「陛下、今年も冷涼祭の時期がやってまいりました」





 我々のように日頃から魔術を使って生活する者たちは、この夏の暑い時期は魔術で氷を作り出してなんとか暑さをしのいでいる。

 もちろん平民も魔術を使うことができるが、魔力量が多い人が貴族ほど多くない。

 魔力量が多くなければわざわざ学校に通ってまで魔術を学ぼうと思うものは少ない。

 そうなってくると必然的に氷魔術を使用できる人も減ってしまうのだ。

 そして、夏の時期に氷を買おうと思えば、貴族ならまだしも平民ではおいそれと手を出せるような安価な値段ではないという現状がある。

 実はこの暑さを凌げず、熱中症を起こしてなくなってしまう者が後を絶たなかったのだ。

 そこで、魔力量の多い貴族が氷を生成して配り歩く。

 加えて、平民で氷を生成できたり、魔力量が多い人たちは、思い思いの涼しくなれる食事やアイテムを作り出して売り出すことで、協力してこの暑さを乗り越えようという企画を始めたのである。

 これがアインガルド王国夏の一大イベント、王都冷涼祭だ!

 この冷涼祭の開催は2日間に渡って行われ、国内外からたくさんの観光客が訪れる。

 僕の魔力量、魔術の腕はココ最近の王族の中でもトップクラスに高いと言われている。

 そのため、僕が王太子についた頃から、僕が主導で毎年この冷涼祭を行っているのだ。

 ……実は、以前より冷涼祭には少し問題を抱えていたのだ。

 それは、参加する貴族が少ないということだ。

 夏の時期は車高シーズンから外れているし、暑さを凌ぐために避暑に行ってしまう貴族が多い。

 そのため、王都に常在しているような貴族しか参加してくれないのだ。

 だから必然的に、冷涼祭のトップである僕に多くの仕事が回ってきていた。

 ただ、今年はもう大丈夫!

 なぜならククレアがいるからだ!

 先程申し上げたとおり、僕は直近の王族で最も魔力量が多く魔獣に優れいていると言われている。

 ただ、ククレアはその2つとも僕に勝っている。

「ということで手伝ってね」

「え? いやよ」

「手伝って?」

「嫌」

「……」

「……わかったわよ!」

「よしッ!」

 どうやら今年の冷涼祭はいつもより仕事量が減りそうだ。

 実は毎年忙しすぎてあまり冷涼祭を楽しむことはできていなかったのだけど、今年はククレアに加えて宰相としてジェノム侯爵も手伝ってくれるだろうから、思う存分楽しめそうだ。
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