若き天才国王の苦悩

べちてん

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20話目

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 遠距離で通信する方法がないわけではない。

 そしてその手段は私も習得済みだ。

 まあ普通に念話と呼ばれるものなのだが、これを魔石で行う方法がいまだ確立されていないのだ。

 念話の魔術は神級であり、加えて他の属性とは比べ物にならないほど習得が厳しいとされる無属性の魔術でもある。

 そりゃあほかの魔術は体内の魔力を物質に変換すれば発動するものだが、念話は実態の存在しない魔法だから、イメージがつかみにくいのだ。

 私のような念話を使える人物にイメージを聞くと、ほぼすべての人が「念話をするイメージだ」と回答するだろう。

 脳内で他人と会話するイメージ、に近いような気もしなくはないが、どこか重要な部分が異なっているように感じる。

 まあ、それでも無理やりイメージを伝えるとすれば、言語を魔力に乗せて飛ばすようなイメージだろうか。

 念話は使っている時間が長ければ長いほど魔力の消費が激しい魔術で、イメージが完璧であっても魔力量次第では1秒と持たない人がほとんどのはずだ。

 それを魔石でやるとなると、大量の魔力を蓄えることのできるような大きなものを用意するか、1回1回王国騎士団クラスの魔術師に頼んで魔力を補充してしまうしかない。

「う~……、私の脳みそでは案は出そうにはないわね。ここは助手君に聞いてみようかな」






『ん?わざわざ「氾濫発生!」なんて言葉を送信しなくとも、『あ』とかそう言った短いもので良いのではないのか?』

 ……その通りだ。

 それなら小さな魔石でも何とかなる。

 まあ、その術式を組んで河川に魔石とともに配置するのが大変なんだけど。

 これは私一人ではできないことだから、騎士団に手伝ってもらうしかないかもしれないわ。





 ひとまず試作型だから、そこら辺に転がっていたいらない魔石を使って実験をしてみる。

 水の魔力に反応するように魔術で水の魔力を魔石に定着させていく。

 徐々に無色であった魔石が青く染まっていき、染まりが遅くなったタイミングでその魔術を解除する。

 そんで、その水の魔力に反応すると念話が発動するように術式を組んでいく。

 まずは念話の術式を組む。

 言葉は「あ」でひとまずは大丈夫。

 魔石に私の魔力を練り混ぜながら念話を発動する。

 そうすれば魔石に「あ」という言葉の入った念話の魔術が記憶される。

 そして、水の魔力に反応することで、練り混ぜられた私の魔力を使って魔術が発動するように術式をくみ上げていく。

 さすがは神級魔術というだけあって、術式が立体的で複雑だ。

 少しでも気を抜けば一瞬で崩壊してしまうくらい繊細だ。

 こんなに集中しなければならない作業は王宮内ではできなかっただろうから、ここを作ってもらえてよかっ―――

ガタッ!

「あ、失礼しました。えへへ」

どんッ!

「ひぇッ!」

 ……まさかこのタイミングでティニーがコップを倒すとは思わなかったわ。

 思わず机を勢い良く叩いてしまった。

「ごめんなさいね、ティニー。でも、私はいま集中しているから、よろしくね?」

「は、はい。失礼しました……」

 1からやり直しです。













「おわったぁ……」

 このあまりにも肩が痛くなるような作業がようやく終焉を迎えた。

「よし、ちょっと実験してみようかしら」

 ティニーに水を用意させ、完成した念話の魔石を机の上に乗せる。

 あとは私が外に出て遠距離で念話を受信できるか確認すれば大丈夫だ。

 大丈夫だ……、って!受信する道具がないじゃないの……。

「ああぁぁッ、めんどくさいなぁッ!!」
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