若き天才国王の苦悩

べちてん

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6話目 パーティー

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「陛下、17時なりましたよ。」

「……ん、わかった。」

 優秀なメイドであるフィレノアは、しっかりきっちり17時に私の目を覚ましにやって来た。

「ずいぶんお疲れの様子でしたね。寝付くまで速かったですから。」

「ああ。王太子の時はそうでもなかったのだが、王という立場に立つと常にプレッシャーがあって気を抜けないんだ。おかげで常に肩の力が入りっぱなし。そこにあの大量の仕事ときたものだ。体を壊してしまう。」

「それはお疲れ様です。何かお手伝いできることがあればよいのですが、あいにく私はただのメイドですから。」

「いやいや、フィーには助かっているんだよ。多分近くで見ているからわかっているだろうが、あいにく僕は人付き合いが苦手でね、メイドと秘書と護衛を1人で担ってくれる優秀な人材が付いていなかったら今頃発狂していたよ。」

 レイフォースがそういうと、フィレノアは少し天井を見つめた。

「ああ、なんとなく想像ができました。」

 フィレノアの頭の中に浮かぶ大量の散らかった重要書類の中に倒れるレイフォースの姿、起きたと思えば大声を出して暴れ狂う姿。

「いやいや、フィーの中で僕はどんなダメ人間に見えているんだ……、さすがにそんなじゃないから。」

「あはは、そうでした。」

 先ほどからレイフォースのおかしな話に付き合わされているフィレノアであったが、そんな状態でも一切止めることなく手を動かし続けている。

 気が付いたときには、先ほどまでだいぶかわいらしい寝間着を着ていたレイフォースはきちっとした豪華な服へと着替えを終えている。

「今年の新規入団者の人数は?」

「今年は152人が新たに加わりました。うち62人が魔導士です。」

「なるほどね。いつもより少し少ない感じか?」

「はい。昨年は大きな戦いがなく、騎士団が消耗しておりませんでしたので、そこまで人員の募集はされなかったようです。」

「そうか。それは今年騎士団に入ろうとしていた人たちには不都合だったな。」

「まあ、戦いがないということはいいことですから。それに、国家騎士になれなくても貴族の騎士に応募すればいいのですから。」

「それもそうだな。」








「……少し早く起こされすぎたかもしれない。」

「あはは、そうかもしれませんね……。」

 このフィレノアというメイド、手際が良すぎるのである。

 他のメイドが複数人でやるような仕事をたった一人で、しかも複数人でやるよりも素早く終わらせてしまう。

 先代の王、つまりレイフォースの父は専属のメイドを5人、秘書を2人、護衛を4人付けていたらしいが、レイフォースの場合はフィレノア1人で終結する。

 一応執事はついているのだが、ほとんど使わないので普段は別の仕事に当たっている。

 それほど優秀な人物なのである。

「フィレノアってさ、書類整理とかもできるの?」

「はい。孤児院にいた時に少しだけ教わりました。腕はいい、そうですが……、えっと、陛下?そんなに目を輝かせても手伝いませんからね。」

「え~、少しくらいならいいんじゃないの?」

「いや、ダメですよ。あのような書類は陛下が確認するからこそ意味があるのです。」










 適当な雑談で時間を潰していると、時計の針はようやく18時を指した。

 早く準備が終わっているから10分くらい前に会場に入ればいいというものもいるだろう。

 ただ、この国で最も偉い国王という存在が、いまこの王宮の中で最も新入りである新規入団者よりも早く会場についてしまうのはあまりよろしくない。

 もし国王が10分前行動なんかし出したら、この王城という場所はすべて20分前行動が基本になってしまうのだ。

 それはあまりよろしくない。

 ほんとは10分後行動くらいがいいとフィレノアは言っていたのだが、何とか説得して5分後行動にしている。

 人を待たせるのは心苦しいのでできるだけやりたくないのだが、この場合は待たせる方が全員にとっていいということはわかっているのだ。









 王宮内の大広間、そこにはすでにたくさんの人が集まっている。

 新規入団者を始めとした騎士団に所属する者たち、パーティーの準備や進行を手伝ってくれているメイドや執事の皆さん。

 そんなにぎやかな会場の中に、ある1人の男が現れた。

(ひえぇ、そんなに見ないでくれぇ……)

 レイフォースである。

「国王陛下!」

「陛下!」

「なんと美しいご尊顔なのでしょうか……」

 登場するだけで会場内はレイフォースにくぎ付け、全員が尊敬のまなざしで彼を見つめる。

 レイフォースは内心びくびくしながらも手を振り、ゆっくりと椅子へと着席する。

「座った……」

「陛下がお座りになられた……」

「ああ、何とも美しい動きなのでしょう。」

(いやいや、何なんだお前らは……。座るだけで盛り上がるって狂信的だぞ。もうここまで来ると怖い。)

「陛下も大変ですね。」

 あまりにつらくても声に出せないこの状況、ゆっくりと近づいてきたフィレノアがそっと耳元で囁く。

 端から見れば何か大事な話のように見えるかもしれない。

 それはフィレノアのポーカーフェイスのおかげもあるのだろうが、レイフォースは彼女の口角が多少上がっていたのを見逃さなかった。

 ただ、ここで参加者全員が列をなして話に来ない。

 それだけでこの環境というのは居心地がいいというものだ。

 先ほどまでレイフォースに集まっていた視線も、いつの間にか机の上に広げられている食事へと移り、歓談が至る所で始まっている。

「さぁ、僕も何か食べようかな。」

 レイフォースは先ほどの耳打ちの際にフィレノアが持ってきた食事のプレートに手を付け始める。

(あいつ、キノコは入れないでって言ったのに……!)
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