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「で、伝令!」
不安でそわそわと落ち着かない日々を過ごしてしばらくが経った。
いつものように慌ただしく動く王宮の中、私の執務室の扉が勢いよく開いて兵が入ってきた。
「ヘリティア王国との国境にてレイナ殿下が負傷、現在やや押され気味の戦況です! 至急援軍を!」
「……へ?」
レイナが負傷。その言葉が脳内でエコーが掛けられたように響き渡る。
フィネメイゼが混乱したような表情で私を見つめている。
おそらく多少の傷であれば伝令はそれを告げやしない。ただ、それを私に報告したとなればおそらく相当の重傷を負っているのだろう。
ヘリティアの蛮族ども、やってくれるじゃない。
「……報告ご苦労。下がって」
「はっ」
「陛下、どうなさりますか」
「……行くしかないね」
「そうですよね……」
叫ぶでも暴れるでもない。冷静な自分に少し嫌気を起こす※。
あまり現実味がないのかもしれない。レイナは強いから。
戦い好きのあの性格なのだから、指揮を副官にでも任せて前線に突撃したのだろう。あいつも馬鹿をするものだ。
幸い私たちが現時点で戦闘しているのはヘリティアのみ。ただ、いつ別のところで戦闘が始まるかわからないために出来れば今居る兵は王都に待機させておきたい。
ならば私が行く。
国王がここで動くのは愚策だろう。それはわかっている。王たるもの感情で動いてはいけないということもわかっているのだが、あいにく私はそんな常識にとらわれるような女じゃないんでね。
私がやるべきだと思ったことをやるだけ。
「じゃあ、私はここに残りますので後はお任せください」
「頼んだ」
優秀な臣を得たことは神に感謝しないといけないな。
(もっと感謝していいんだよ?)
(だまれ)
どこからともなく聞こえてくる小さな悲鳴など放っておいて一気に空を飛んでいく。
竜にも等しい我が力をなめるなよ。
「誰だ!」
「私はニシゾノ王国の王。レイナはどこ?」
前にもやったことがあるような気がする。
仕事をしているだけなのに、八つ当たりのような強い口調になってしまって申し訳ない。
王宮では比較的落ち着いていたのだが、いざこの戦場にやってくるとイライラが止まらないのだ。
身分の証明に時間をとられるのは面倒なので、王家の印の押された証明書を見せた。
爵位の偽造は重罪なのだからこの書類は信じるほかないのだ。
「……失礼いたしました陛下。こちらでございます」
あとで何か送ろう。罪悪感が……。
案内された大きめのテントに入ると、ベッドの上に横たわっているレイナの姿があった。
上半身の大部分を包帯にまかれ、虚ろな目で天井を見上げている。
争いとは残酷だ。こんな少女が戦場に足を運び、負傷して血を流しているのだから。ただ、レイナを戦場に送る判断をしたのは私なのだから今は私を責めよう。
叫びたくなる気持ちを抑えてゆっくりとレイナに近づいては、体内に腐るほど蓄積されている魔力を一気に使用して回復魔法を掛ける。
回復魔法を掛けながらその場にいた男に話しかける。
服装からして副官だろう。
「あなたは副官のヘルトリーゼであってる?」
「はい」
「けが人は多いの?」
「……重傷軽傷含め相当数です」
「ありがとう。今から範囲魔法で一気にけが人の治療を行います。ただ、重傷を負ったものは精神的な面ですぐに戦場に復帰させるのはに厳しいでしょう。たとえ出来たとしても私はやりたくはありません。なのであなたはその者たちを連れて王都へと帰還してください」
「わかりました。指揮は」
「私がとります。王都に着き次第全員しばらくの休暇とします。あとでフィネメイゼ当ての手紙を書くのでつき次第渡してください」
「はっ、承知しました。すぐに準備いたします」
そう一気に告げる。
レイナ曰くヘルトリーゼは優秀らしいからおそらく彼に任せておけば大丈夫だ。レイナは人を見る目がある。
レイナはもう大丈夫だろう。相当やられていたみたいだから思っていたより魔法を掛けるのは大変だったけれど、おそらく傷一つ残さず直ったはずだ。
レイナちゃんの美しい玉の肌に傷でも残ったら大変だ。お嫁に行けなくなってしまう。
……行かせる気ないけどね?
「ねね様?」
「気がついた? よくやってくれたよレイナ。もうちょっと休んでてね」
「ん」
目の下のくまがひどい。少し無理させ過ぎてしまったかもしれないな。
そっと頭をなでるとすぐに寝てくれた。レイナも王都に帰還させるか、それは起きてから考えよう。
「おいしょっと」
椅子に座って執務していると腰が痛くなるのが最近の悩みだ。
一気に魔法の発動範囲を広げ、周辺に回復魔法を掛けていく。
レイナが元気に戦っていたおかげで士気は高く保たれていたはず。そのレイナが重傷を負ってしまったとなれば士気も下がるわけだ。
ただもう大丈夫。けがは治したし、なんたってこの守りたくなるような愛くるしい姿をした私が来たんだから!
(……)
いやなんか言えよッ!
不安でそわそわと落ち着かない日々を過ごしてしばらくが経った。
いつものように慌ただしく動く王宮の中、私の執務室の扉が勢いよく開いて兵が入ってきた。
「ヘリティア王国との国境にてレイナ殿下が負傷、現在やや押され気味の戦況です! 至急援軍を!」
「……へ?」
レイナが負傷。その言葉が脳内でエコーが掛けられたように響き渡る。
フィネメイゼが混乱したような表情で私を見つめている。
おそらく多少の傷であれば伝令はそれを告げやしない。ただ、それを私に報告したとなればおそらく相当の重傷を負っているのだろう。
ヘリティアの蛮族ども、やってくれるじゃない。
「……報告ご苦労。下がって」
「はっ」
「陛下、どうなさりますか」
「……行くしかないね」
「そうですよね……」
叫ぶでも暴れるでもない。冷静な自分に少し嫌気を起こす※。
あまり現実味がないのかもしれない。レイナは強いから。
戦い好きのあの性格なのだから、指揮を副官にでも任せて前線に突撃したのだろう。あいつも馬鹿をするものだ。
幸い私たちが現時点で戦闘しているのはヘリティアのみ。ただ、いつ別のところで戦闘が始まるかわからないために出来れば今居る兵は王都に待機させておきたい。
ならば私が行く。
国王がここで動くのは愚策だろう。それはわかっている。王たるもの感情で動いてはいけないということもわかっているのだが、あいにく私はそんな常識にとらわれるような女じゃないんでね。
私がやるべきだと思ったことをやるだけ。
「じゃあ、私はここに残りますので後はお任せください」
「頼んだ」
優秀な臣を得たことは神に感謝しないといけないな。
(もっと感謝していいんだよ?)
(だまれ)
どこからともなく聞こえてくる小さな悲鳴など放っておいて一気に空を飛んでいく。
竜にも等しい我が力をなめるなよ。
「誰だ!」
「私はニシゾノ王国の王。レイナはどこ?」
前にもやったことがあるような気がする。
仕事をしているだけなのに、八つ当たりのような強い口調になってしまって申し訳ない。
王宮では比較的落ち着いていたのだが、いざこの戦場にやってくるとイライラが止まらないのだ。
身分の証明に時間をとられるのは面倒なので、王家の印の押された証明書を見せた。
爵位の偽造は重罪なのだからこの書類は信じるほかないのだ。
「……失礼いたしました陛下。こちらでございます」
あとで何か送ろう。罪悪感が……。
案内された大きめのテントに入ると、ベッドの上に横たわっているレイナの姿があった。
上半身の大部分を包帯にまかれ、虚ろな目で天井を見上げている。
争いとは残酷だ。こんな少女が戦場に足を運び、負傷して血を流しているのだから。ただ、レイナを戦場に送る判断をしたのは私なのだから今は私を責めよう。
叫びたくなる気持ちを抑えてゆっくりとレイナに近づいては、体内に腐るほど蓄積されている魔力を一気に使用して回復魔法を掛ける。
回復魔法を掛けながらその場にいた男に話しかける。
服装からして副官だろう。
「あなたは副官のヘルトリーゼであってる?」
「はい」
「けが人は多いの?」
「……重傷軽傷含め相当数です」
「ありがとう。今から範囲魔法で一気にけが人の治療を行います。ただ、重傷を負ったものは精神的な面ですぐに戦場に復帰させるのはに厳しいでしょう。たとえ出来たとしても私はやりたくはありません。なのであなたはその者たちを連れて王都へと帰還してください」
「わかりました。指揮は」
「私がとります。王都に着き次第全員しばらくの休暇とします。あとでフィネメイゼ当ての手紙を書くのでつき次第渡してください」
「はっ、承知しました。すぐに準備いたします」
そう一気に告げる。
レイナ曰くヘルトリーゼは優秀らしいからおそらく彼に任せておけば大丈夫だ。レイナは人を見る目がある。
レイナはもう大丈夫だろう。相当やられていたみたいだから思っていたより魔法を掛けるのは大変だったけれど、おそらく傷一つ残さず直ったはずだ。
レイナちゃんの美しい玉の肌に傷でも残ったら大変だ。お嫁に行けなくなってしまう。
……行かせる気ないけどね?
「ねね様?」
「気がついた? よくやってくれたよレイナ。もうちょっと休んでてね」
「ん」
目の下のくまがひどい。少し無理させ過ぎてしまったかもしれないな。
そっと頭をなでるとすぐに寝てくれた。レイナも王都に帰還させるか、それは起きてから考えよう。
「おいしょっと」
椅子に座って執務していると腰が痛くなるのが最近の悩みだ。
一気に魔法の発動範囲を広げ、周辺に回復魔法を掛けていく。
レイナが元気に戦っていたおかげで士気は高く保たれていたはず。そのレイナが重傷を負ってしまったとなれば士気も下がるわけだ。
ただもう大丈夫。けがは治したし、なんたってこの守りたくなるような愛くるしい姿をした私が来たんだから!
(……)
いやなんか言えよッ!
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