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正体(ほぼレイナ視点)
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なんやかんやあり、シュメール共和国と同盟を結ぶこととなった。とは言ってもこの戦争中に限った話なのだけれど。
そして、我々がこの後何をするかというと、何も出来ない。
実際に戦場にいるわけではないために、ここからどのように動かすかというのが指示できない。
もしここから指示を出すようであれば、現地との時差が果てしないものになってしまう。問題は問題の起きている場所で解決してもらう。
指揮はレイナに丸投げ。私たちの仕事はほぼ何もない。
「……何も出来ないというのがつらいですね」
「……そうだね。今は吉報を待つしかないよ」
シュメールに支援を送った。兵をシュメールへと一部配置した。
そういうことはここからでも出来るけれど。
「殿下、北東山脈にて敵影を発見。どうされますか?」
「……こちらに仕掛けてきそうな様子はありますか?」
「いえ。現状は何も動きは見せておりません」
「ならば監視をつけておいて。動きがあれば報告してください」
「はっ」
静かな草原。ここから少し離れたところでは今も血が流れている。
ここはヘリティア王国との国境付近。我がニシゾノ王国へと歯を向ける野蛮なヘリティアの民にこの地を踏む権利はない。
ねね様。いえ、もうそう子供っぽく呼ぶのはやめましょう。ニシゾノ王国国王にして我が主、ニシゾノ・チナリ陛下より賜ったこの仕事を全うしなければならない。
怪しまれないように振る舞ってきた。そしてこれからも振る舞うと思う。
私ニシゾノ・レイナがなぜこの地にいるのかはわからない。気がついたらこの世界に降りていたのだ。
平民であった私で漁れる文献は調べ尽くした。その結果わかったのは私のように突如としてこの“異世界”に送られる人間は少なくないようだ。
“西園”という懐かしい響きの国を見つけた私はすぐにそこの騎士団に応募した。同郷のものが居るかと思って。
あたりだ。陛下は私と同じ転生者だったのだ。
いや、彼女は転移者なのだろう。
そして私は転生者。
陛下は明らかに日本人。顔つきもその行動も完全に私の知っている現実世界と完全に一致している。
私はこの世界に来て絶望に打ちひしがれてしまったが、彼女は強かった。そんな彼女に使え、この国をもっともっと発展させて、私は元いた世界に戻りたい。陛下とともに。
ならばこの戦争を早く終わらせなければなるまい。
「中央はどうですか」
「はい! 明らかにこちらが優勢です! 敵将の首を落とすのも時間の問題かと!」
「それはよかった」
この国の兵士は強い。私は下っ端だったけれど元々は自衛隊にいた。陛下の知識は正直言って軍事に関しては素人同然だ。だから私が教育をしてきた。
ただ突っ込むだけではだめだ。それぞれでコミュニケーションを取り合って1人1人確実に殺していかなければならない。
この世界のはるか先を行く文明の知識を持つものが2人も居るこの国に勝てると思っては大間違いだ。
もしここが負けてもこの国が負けることはない。なんて言ったって陛下がいるから。
あの力はそこが見えない沼のよう。陛下は隙はあるのだ。ただ、そこに1歩で踏み込めば瞬殺される。そんな力があふれ出ている。
私は転生チートスキルをもらうことは出来なかったけれど、おそらく陛下はもらえているのだろう。
「よしっ、兵たちに順番に休憩するよう伝えてくれ。私は今から前線に行く」
「はっ!」
「ヘルトリーゼ副官、指揮を頼んだ」
「お任せを」
こちらが優勢。そのために士気は高い。それでも兵は摩耗する。おそらくこの戦闘は長期化すると思う。だから少しでも兵を休ませたい。
軽めで細い。それでいて丈夫な片手剣を鞘から引き抜く。
足に強化魔法を付与し、この小高い丘から戦場へと一気に駆け下りていく。走れば走るほど金属の擦れ合う音と鼻につく鉄くさい匂いが大きくなっていく。
はやりこの匂いは慣れない。
ニシゾノ王国の装備は堅く、それでいて柔らかい特殊な素材を使って作られたものだ。プラスチックのようでありながらも金属のようである特殊な素材。
私の前世の知識をフル活用して、さらにそこに魔法を使って作り出した特殊な素材で出来た装備だ。
対してヘリティアの装備は軟弱だ。
大半が皮製の装備だ。ないよりはましと言った感じの子供だましな装備。中にはただの服を着ているものも居る。
そして一部居る鉄製で全身を包むような鎧。
確かに防御力は高いが重すぎて体力の消耗が激しい。それでいて動きも鈍るわけだ。
この首元の鎧と鎧の隙間に剣を差し込めば1発で首元を斬り殺せる。
「ね、こんな風に」
1人、また1人と幼き少女の周りから敵が減っていく。
味方からすればそれはこのむさ苦しい戦場に現れた天使。敵からすればこの絶望の戦場にさらに絶望を呼び込む悪魔。
「ああ、早く陛下に会いたいな」
この戦争を早く終わらせて、またみんなでピクニックにでも行きたい。
そう思いながらひたすらに剣を振り続ける。
そして、我々がこの後何をするかというと、何も出来ない。
実際に戦場にいるわけではないために、ここからどのように動かすかというのが指示できない。
もしここから指示を出すようであれば、現地との時差が果てしないものになってしまう。問題は問題の起きている場所で解決してもらう。
指揮はレイナに丸投げ。私たちの仕事はほぼ何もない。
「……何も出来ないというのがつらいですね」
「……そうだね。今は吉報を待つしかないよ」
シュメールに支援を送った。兵をシュメールへと一部配置した。
そういうことはここからでも出来るけれど。
「殿下、北東山脈にて敵影を発見。どうされますか?」
「……こちらに仕掛けてきそうな様子はありますか?」
「いえ。現状は何も動きは見せておりません」
「ならば監視をつけておいて。動きがあれば報告してください」
「はっ」
静かな草原。ここから少し離れたところでは今も血が流れている。
ここはヘリティア王国との国境付近。我がニシゾノ王国へと歯を向ける野蛮なヘリティアの民にこの地を踏む権利はない。
ねね様。いえ、もうそう子供っぽく呼ぶのはやめましょう。ニシゾノ王国国王にして我が主、ニシゾノ・チナリ陛下より賜ったこの仕事を全うしなければならない。
怪しまれないように振る舞ってきた。そしてこれからも振る舞うと思う。
私ニシゾノ・レイナがなぜこの地にいるのかはわからない。気がついたらこの世界に降りていたのだ。
平民であった私で漁れる文献は調べ尽くした。その結果わかったのは私のように突如としてこの“異世界”に送られる人間は少なくないようだ。
“西園”という懐かしい響きの国を見つけた私はすぐにそこの騎士団に応募した。同郷のものが居るかと思って。
あたりだ。陛下は私と同じ転生者だったのだ。
いや、彼女は転移者なのだろう。
そして私は転生者。
陛下は明らかに日本人。顔つきもその行動も完全に私の知っている現実世界と完全に一致している。
私はこの世界に来て絶望に打ちひしがれてしまったが、彼女は強かった。そんな彼女に使え、この国をもっともっと発展させて、私は元いた世界に戻りたい。陛下とともに。
ならばこの戦争を早く終わらせなければなるまい。
「中央はどうですか」
「はい! 明らかにこちらが優勢です! 敵将の首を落とすのも時間の問題かと!」
「それはよかった」
この国の兵士は強い。私は下っ端だったけれど元々は自衛隊にいた。陛下の知識は正直言って軍事に関しては素人同然だ。だから私が教育をしてきた。
ただ突っ込むだけではだめだ。それぞれでコミュニケーションを取り合って1人1人確実に殺していかなければならない。
この世界のはるか先を行く文明の知識を持つものが2人も居るこの国に勝てると思っては大間違いだ。
もしここが負けてもこの国が負けることはない。なんて言ったって陛下がいるから。
あの力はそこが見えない沼のよう。陛下は隙はあるのだ。ただ、そこに1歩で踏み込めば瞬殺される。そんな力があふれ出ている。
私は転生チートスキルをもらうことは出来なかったけれど、おそらく陛下はもらえているのだろう。
「よしっ、兵たちに順番に休憩するよう伝えてくれ。私は今から前線に行く」
「はっ!」
「ヘルトリーゼ副官、指揮を頼んだ」
「お任せを」
こちらが優勢。そのために士気は高い。それでも兵は摩耗する。おそらくこの戦闘は長期化すると思う。だから少しでも兵を休ませたい。
軽めで細い。それでいて丈夫な片手剣を鞘から引き抜く。
足に強化魔法を付与し、この小高い丘から戦場へと一気に駆け下りていく。走れば走るほど金属の擦れ合う音と鼻につく鉄くさい匂いが大きくなっていく。
はやりこの匂いは慣れない。
ニシゾノ王国の装備は堅く、それでいて柔らかい特殊な素材を使って作られたものだ。プラスチックのようでありながらも金属のようである特殊な素材。
私の前世の知識をフル活用して、さらにそこに魔法を使って作り出した特殊な素材で出来た装備だ。
対してヘリティアの装備は軟弱だ。
大半が皮製の装備だ。ないよりはましと言った感じの子供だましな装備。中にはただの服を着ているものも居る。
そして一部居る鉄製で全身を包むような鎧。
確かに防御力は高いが重すぎて体力の消耗が激しい。それでいて動きも鈍るわけだ。
この首元の鎧と鎧の隙間に剣を差し込めば1発で首元を斬り殺せる。
「ね、こんな風に」
1人、また1人と幼き少女の周りから敵が減っていく。
味方からすればそれはこのむさ苦しい戦場に現れた天使。敵からすればこの絶望の戦場にさらに絶望を呼び込む悪魔。
「ああ、早く陛下に会いたいな」
この戦争を早く終わらせて、またみんなでピクニックにでも行きたい。
そう思いながらひたすらに剣を振り続ける。
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