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状況

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「誰だッ!!」

 上空から突如降りてきた少女を、騎士団の見張りが警戒しないわけはなかった。
 一番大きなクリーム色のテント、おそらくここに今回の指揮を執っている人がいるはずだ。そのテントの前には槍を持った見張りが2人待機しており、地面に着いた瞬間に私は槍を向けられることになった。

「何の連絡もなしに来てしまってすみません。私はニシゾノ王国の国王、ニシゾノチナリです。今回の指揮を執っている人と合わせていただくことは可能ですか?」
「お前!陛下の名前を語るとはなんという無礼か!」

 騎士団に所属する全員が私の顔を見たことあるとは限らないようだ。写真の技術はこの世界には存在しないから無理だが、一応姿絵は出回っているはずだ。
 ただ、いきなり出てきたあったことも見たこともない少女と、配られた姿絵をすぐに一致させることは厳しいのだろう。

「おいおい、なんか騒がしいじゃないか。」

 先ほどの見張りの騎士の大きな声を聞いてか、中から1人の男性が出てきた。
 その男性は私の姿を見るなり、顔を真っ青に染め上げた。

「へ、陛下!!よくお越しくださいました!!」

 その光景を見た見張りの騎士2人は何が起きているのかわからない様子で出てきた男のことを見ている。

「おい、国王陛下だぞ!お前らも頭を下げんか!!」

 見張りの騎士はそういわれてどうやら私が言っていたことが正しかったと気が付いたようで、同じく顔を真っ青に染め上げながら深く頭を下げた。

「いやいや、頭を下げなくて結構ですよ。私も急に来てしまいましたので。で、メルデミシス、現状どうなっているのかを説明してくれる?」
「はい。只今。」

 先ほど出てきた男前の男性は、ニシゾノ王国騎士団団長のメルデミシス・ディオメデス伯爵だ。どうやら騎士団長であり、領地は持たないながらも伯爵であるメルデミシス自ら今回の戦争は指揮を執っているようだ。
 私はメルデミシスに連れられて大きなテントの中に入っていった。

 テントの中には周辺の地形が記された地図が広げられている6人ほどがかけれそうな机と、その地図の上には人の形をした駒が置いてあった。

 私は促されるように奥の方にある席に座った。

 この世界では地図は国家機密だ。
 現代日本に暮らしていたらそのような感覚はまあないだろうが、あたり一帯の地形が記されている“地図”というものは非常に重要なアイテムになってくる。
 あたりの地形が把握されるとその地形を生かした戦いをされる可能性もあるし、どのようなところに攻め込めばいいのか、どこに隠れればいいのかというのがすぐにわかってしまう。
 そういう点から、地図というのは我が国も含め、この世界のほとんどの国で国家機密として扱われている。

「まず、これを見てください。」

 私は机の上に広げられている地図に目を落とした。
 地図にはここら辺の地形に加えて、テントを出てすぐに広がっている帝都チェンメンの街並みが描かれていた。
 そのチェンメンの東西南北とある門の前には青色で作られた人型の駒が置いてあり、向かい合うように赤色の駒も門の内側に配置されていた。
 
「見ていただければわかる通り、青色が我が騎士団の兵たちで、赤色が相手の兵です。」

 どうやら門の目の前まで攻めることはできたようであったが、なかなか門の中に入ることにてこずっているらしい。

 戦争開始時の敵の兵の数は23000人ほどであったのに対し、こちらの兵の数は僅か1800人。
 広大な領土を治めるためにケルスレイド帝国はこの大陸でも随一の軍事力を有する国家だ。もちろん兵の数だって多い。
 我が国にケルスレイド帝国が宣戦布告をしたという情報はもちろん同盟国であるレイピア王国、オースガーン王国、ヘリティア王国にも伝わっていた。
 この情報を聞いた3国はこちらに対して支援を行う旨の書簡を送り、国王代理であるレイナはそれを受け取ったようだ。
 ただ、「同盟国とはいえ、冬支度をしなければならないこんな時期に戦争に巻き込むなど、あってはなりません。」と、レイナはそれを断った。

「最初断ると聞いたときは、レイナ殿下は反逆人だと思いました。ただ、私のその考えは間違っていた。この状況を見ればわかるでしょう。」

 我が国の兵は強かった。
 もともと戦闘要員として雇われたレイナは、騎士団がケルスレイド帝国に負けるほど弱い存在であるとは考えていなかったようだ。

「そして殿下は言ったんです。“この国が負けるわけはないから、あんな雑魚さっさと倒してきなさい。”とね。」

 メルデミシスから語られるレイナの衝撃的な言動には思わず頭を抱えてしまった。
 レイナ結構強気に出るんだな……。
 ただ、もし私が今回の戦争の時にレイナの立場にいたら、私はあの書簡を断ることはしなかっただろう。これは後々の交渉もスムーズに進めることができる。
 そして今、支援なしでも私たちはここまで帝国を追い詰めることができている。レイナは勝てることを見込んであの書簡を断った。

 レイナはやっぱりできる子だ。

「現在帝都の中に兵たちが複数人侵入に成功しています。明日には門を突破できるでしょう。そうなったら交渉、頼みますね。」

 今回はレイナが断ってくれたおかげで、正真正銘我が国とケルスレイド帝国の1対1の戦いだ。ということは、他国から余計な口を出されることなく話を進めることができる。

 ここまで頑張ってくれたレイナに変わり、ここから私の仕事だ。
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