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斬首

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「陛下!資料を持って参りました!」

 そういって勢いよく扉を開け、数人の部下を引き連れて入って来たのはフィネメイゼである。

「情報のあった地主であるウェネストフから提出されている書類を見たところ、貸出料は以前と変化はありませんでした。しかし、一部に書き換えた後が見られました。」

 地主が小作人に土地を貸すことで手に入れたお金の一部は商売税として納めなければいけない。彼は貸出料を高く釣り上げている。しかし、彼が納めている商売税は以前とは変化がないのだ。脱税である。しかも、貸出料を少し上げるのではなく、以前の10倍近くにまで引き上げているのだ。これによって小作人の生活は厳しくなってしまっている。
 許せない。ここは私の国だ。私の国で悪さをしたらどうなるのか今すぐ思い知らせてやる!

「フィネメイゼ、今すぐほかの地主からの書類も集めろ。少しでも怪しいところがあったら報告してくれ。」
「はい、すでにそれらのことは指示しております。すぐに書類が届くでしょう。」

 そういうとその言葉の通り、扉が大きく叩かれた。

「失礼いたします!フィネメイゼ様の命により怪しいところのある書類を集めて参りました。」
「ご苦労。」

 ウェネストフの書類同様に、一部書き換えが見られる書類がほかにもいくつかあった。きっと税の回収担当者を買収したのだろう。

「書類に怪しい点が見られたものはウェネストフ含め7人の地主からの書類です。しかもその7人すべてがグレイスという者が担当している地主です。クソっ、私がもっとしっかりとやっていれば……。」」
「はぁ、これはすごく巧妙だね。言われないと気付かないよ。フィネメイゼもそこまで落ち込まないように。今後はもっとしっかりチェックを頼む。レイナ、今すぐグレイスを連れて来てくれ。」
「うん、わかった!」

 そういってレイナはスタタタッっと走っていった。

「ここからは私たち王国側の担当です。もう日も暮れ始めておりますので本日はこちらで用意させていただいているお部屋でお休みください。今回はありがとうございました。」

 そういって国民の皆様を退場させた。あの農家のおじさんが居なかったらこのような不正を見抜くことができなかったので深く感謝をしている。本当にありがたい。
 この件が片付いたらもう1回国民を招いて会議を行いたいと思う。しかし、まずは脱税の対応をしないといけない。

「メルデミシス、明日朝早くからその地主へ軍を出す。7つに編成を組んでくれ。」
「はっ、承知いたしました!」

 メルデミシスが会議室を出るのと同時にレイナがグレイスを連れて入って来た。グレイスはどうやら相当な抵抗をしたらしく、レイナがひもで縛って連れてきている。

「お前がグレイスか。ずいぶんとやってくれたじゃないか。」
「へ、陛下!私は何も……、」
「うるさい!!お前が何をしていたのかはもうわかっている!今すぐ全部話すんだ!!」
「だから何も!!」

(こいつ、嘘ついてるよ。)
 どうやら神様曰く、やはり何もやっていないというのは嘘のようだ。
 私はレイナに向かって1つ合図を送った。まだ幼いレイナにこのようなことをさせてしまうのは大変心苦しいのだが……。

「ああああああっ!!痛い!!やめ!やめてくれ!!!」

 レイナは私の合図を受け取って、ためらうことなくグレイスの右腕をへし折った。

「口を割らないなら次は左を折る。お前が嘘をついていることなんてわかっているんだ。」
「本当に何もやっていない!!ここには真偽判定官はいないじゃないか!どうして私が嘘をついているなんて決めつける!!」
「レイナ。」
「うん。」

 そういって次は左腕を折った。

「お前は私のことを何も知らずにここへ来たのだな。私は神の御使い、神様は何でもお見通しなのだ。それはお前が嘘をついているということも。話せ。次は足だ。」
「……すいませんでした。私が地主に話を持ち掛け、金銭を受け取る代わりに書類を偽装しました。」

 はぁ……、どうせ吐くならさっさと吐いちゃえばいいのに。

「どうしてそんなことをした。」
「両親が病気で……、どうしてもお金が必要だったんです。」

(はい、嘘。)
 どうやらここまで来ても嘘を吐くようだ。しかも最低の嘘。私はこのような嘘が大嫌いだ!!

「レイナ。やりなさい。」
「なんで!!両親が病気だったんだ!!本当だ!!」
「だから!!私は嘘を見抜けると言っただろう!!ここまでも嘘を重ねるとは!この王国にお前は存在してはいけない!グレイス、お前は民を苦しめ、国民や私の怒りを買ったのだ!そなたを今この場で死刑とする!!」
「ッ!?いや!やめてくれ!!!」
「いい?」

 レイナが少し切なげな表情を浮かべながら私に聞いてきた。
 非常に心苦しい。まだ幼い少女、私の大事な大事なレイナにこのような残酷な役目をさせてしまうとは。
 しかし、こいつを生かしては置けない。こいつは民から金を巻き上げ、農村に住むたくさんの人々の生活を苦しめたのだ。また、親が病気であると嘘をつき、罪を逃れようとした。反省はしていないだろう。
 私はレイナの目を見て、深く1回頷いた。

 その瞬間、グレイスの頭は切り落とされ、頭がつながっていた場所からは血が噴き出していた。レイナは苦しそうに俯き、涙を浮かべていた。
 私は日本で生まれ、日本で生きてきた。ここがこの世界。私は初めて私の命で人を殺した。しかも幼き少女にも心に傷を負わせてしまっただろう。しかし、この死は必要なものだ。私は彼を許すことはできない。

 この日、この王国で初めての死刑が執行された。



 その夜、私とレイナは無言で入浴をして、いつものように一緒のベッドに入っている。
 メイドの人も気を使ってくれたのだろう。入浴をする私たちに声をかけることなく、淡々と仕事をこなしてくれた。そして、すぐに部屋まで運び、いつもより素早く私たちの部屋を後にした。
 明日からしばらくは極めて忙しい日々になるだろう。やらなければいけないことは山積みなのだ。

 ベッドの中で、レイナは私を力強く抱きしめながら私の胸元に顔を埋めて黙り込んでいる。私はそんなレイナの頭をそっと撫でていた。

「レイナ、ごめんね。こんな仕事を押し付けてしまって。」

 そういうと、レイナは小さく首を横に振った。

「ねねは悪くないよ。レイナもあの人がひどい人だっていうのはわかったから。あれは必要だったと思う。」

 レイナはいつも私のことをねねと呼ぶ。立場上は母親なのだが本当のお母さんや孤児院の先生もいらっしゃるので、母と呼ぶ気にはなれないのだろう。
 私もこの世界ではあり得ることではあるのだが、この年齢で母と呼ばれるのはつらいし、だからと言って陛下と呼ばれるのも嫌なので、ねねでいい。
 ねねがいい。

 会話のトーンはいつもより低く、落ち込んでいるのは手に取るように分かった。私のせいでレイナを傷つけてしまった。
 罪悪感からか、ポロリポロリと涙が出てくる。

 それに気が付いたのか、レイナはそっと私の顔を見て、私の頬に優しくキスをしてから眠りについた。
 私もそれに応えるように、レイナを優しく包み込むようにしてぎゅっと抱き込んだ。
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