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137話目 遭遇
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「見張りがいるかもしれない。一応周りを警戒しておいて。」
「「「了解。」」」
メアリーの指示に小声で返事をし、周りに目を配る。
ここからは見張りの姿は見えないが、逆に見張りからこちらが見られている可能性もあり得る。
そうなると私たちが奇襲をかけられる側に回ってしまう。
先手必勝という言葉がある通り、先に攻撃をした方が勝率は高い。
不意を突いて相手の急所をしっかりと狙うことができるからだ。
たとえ急所に入らなかったとしてもダメージを与えるということは非常に大きなワンアクションだし、相手が予想していなかったところから出れば動揺させることができる。
動揺は小さなミスへとつながる。
小さなミスが積み重なり、それは大きく深刻なミスへとつながっていく。
「見張りは見つからないよ。」
ざっと辺りに目を通しても、見張りの存在は確認できない。
本当に4人ともテントにいるのかもしれないな。
―――そう思っていると、私たちの後方、テントとは反対の方からパキパキと地面に落ちている枝が折れる音が聞こえてきた。
(見張りいたのか……)
音の発生元は徐々にこちらへ近づいてきて、数秒と経たないうちにその姿が生い茂る木の陰から見えるようになった。
木の陰から見えた姿を見て、私の体中に動揺が走った。
なんでこんなところにいるのだろうか。
その正体は私にとって身近で身近ではない存在。
「兄ちゃん……」
我が兄だ。
以前一緒にゲーム内で狩りをしたこともあるから間違えない。
他2人は気が付いていないようであったが、メアリーも以前あったことがあるためか気が付いているようであった。
「何者だッ!?」
どうやら兄からもこちらが見えたようだ。
そして、見えた瞬間にその敵の正体が私であることに気が付いたようであった。
焦りか、はたまた別の感情か定かではないものの、額にわずかながら汗が浮かび上がったように見える。
兄は妹である私がユウヒであるということを知らず、そのゲーム内の“ユウヒ”にあこがれてこのゲームを始めた。
以前戦った時のあの双剣の使い方は正直言ってみるに堪えない代物だ。
持ち方は雑で、動きだって機敏性に欠けている。
力の使い方も、間合いの取り方も何から何まで粗末なものであった。
無理に私の戦い方を真似、それがステータスと釣り合っていなかった。
ただ今は違う。
この場所に上がってこれるほど鍛錬を重ねた結果だろう。
不意を突いたというのに、以前戦った相当上位の双剣使いと遜色がない体勢であった。
心の奥が熱くなるのを感じる。
「ここは私に任せてもらってもいい?あとの3人は任せる。」
頭で考えるより前にその言葉が口から放たれていた。
「負けない?」
メアリーはそう来ると予想していたのか、一切の動揺を見せずにそう返答した。
「もちろん。」
このようなチーム戦という場で1対1をするのはあまりよろしくないのだろう。
分かっているのだ。
ただ、そんなことよりも好奇心が勝ってしまった。
兄と1対1で戦いたい。
その思いを感じ取ったのか、メアリーは「仕方ないな。」と小声でつぶやき、困惑する音符猫とアルミを連れて敵の拠点へ向けて飛び込んだ。
「させるかッ!」
それを見た我が兄は3人の後を追おうと一気に私の横をかけていこうとした。
ただ、そんなことを私が許すわけはない。
素早く駆ける兄を短剣を2本使うまでもなく、1本のみで受け止め、一気にテントとは反対方向へ弾き飛ばした。
「ねえ兄ちゃん、私を倒してみなよ。」
私がそういうと、先ほどまでの焦った顔は消え去り、まさに戦士と言わんばかりのキリッとした双剣使いへと変貌を遂げた。
「兄は妹には負けないぞ?」
「勝てるとでも?」
私がそういうと、悔しそうな表情を見せたが、すぐにその表情を消して全速力でこちらに向かって飛び込んできた。
これから戦闘をするというのに、いつもわずかながらに感じるプレッシャーは一切ない。
ただ私の胸にあるのは楽しさだけだ。
「「「了解。」」」
メアリーの指示に小声で返事をし、周りに目を配る。
ここからは見張りの姿は見えないが、逆に見張りからこちらが見られている可能性もあり得る。
そうなると私たちが奇襲をかけられる側に回ってしまう。
先手必勝という言葉がある通り、先に攻撃をした方が勝率は高い。
不意を突いて相手の急所をしっかりと狙うことができるからだ。
たとえ急所に入らなかったとしてもダメージを与えるということは非常に大きなワンアクションだし、相手が予想していなかったところから出れば動揺させることができる。
動揺は小さなミスへとつながる。
小さなミスが積み重なり、それは大きく深刻なミスへとつながっていく。
「見張りは見つからないよ。」
ざっと辺りに目を通しても、見張りの存在は確認できない。
本当に4人ともテントにいるのかもしれないな。
―――そう思っていると、私たちの後方、テントとは反対の方からパキパキと地面に落ちている枝が折れる音が聞こえてきた。
(見張りいたのか……)
音の発生元は徐々にこちらへ近づいてきて、数秒と経たないうちにその姿が生い茂る木の陰から見えるようになった。
木の陰から見えた姿を見て、私の体中に動揺が走った。
なんでこんなところにいるのだろうか。
その正体は私にとって身近で身近ではない存在。
「兄ちゃん……」
我が兄だ。
以前一緒にゲーム内で狩りをしたこともあるから間違えない。
他2人は気が付いていないようであったが、メアリーも以前あったことがあるためか気が付いているようであった。
「何者だッ!?」
どうやら兄からもこちらが見えたようだ。
そして、見えた瞬間にその敵の正体が私であることに気が付いたようであった。
焦りか、はたまた別の感情か定かではないものの、額にわずかながら汗が浮かび上がったように見える。
兄は妹である私がユウヒであるということを知らず、そのゲーム内の“ユウヒ”にあこがれてこのゲームを始めた。
以前戦った時のあの双剣の使い方は正直言ってみるに堪えない代物だ。
持ち方は雑で、動きだって機敏性に欠けている。
力の使い方も、間合いの取り方も何から何まで粗末なものであった。
無理に私の戦い方を真似、それがステータスと釣り合っていなかった。
ただ今は違う。
この場所に上がってこれるほど鍛錬を重ねた結果だろう。
不意を突いたというのに、以前戦った相当上位の双剣使いと遜色がない体勢であった。
心の奥が熱くなるのを感じる。
「ここは私に任せてもらってもいい?あとの3人は任せる。」
頭で考えるより前にその言葉が口から放たれていた。
「負けない?」
メアリーはそう来ると予想していたのか、一切の動揺を見せずにそう返答した。
「もちろん。」
このようなチーム戦という場で1対1をするのはあまりよろしくないのだろう。
分かっているのだ。
ただ、そんなことよりも好奇心が勝ってしまった。
兄と1対1で戦いたい。
その思いを感じ取ったのか、メアリーは「仕方ないな。」と小声でつぶやき、困惑する音符猫とアルミを連れて敵の拠点へ向けて飛び込んだ。
「させるかッ!」
それを見た我が兄は3人の後を追おうと一気に私の横をかけていこうとした。
ただ、そんなことを私が許すわけはない。
素早く駆ける兄を短剣を2本使うまでもなく、1本のみで受け止め、一気にテントとは反対方向へ弾き飛ばした。
「ねえ兄ちゃん、私を倒してみなよ。」
私がそういうと、先ほどまでの焦った顔は消え去り、まさに戦士と言わんばかりのキリッとした双剣使いへと変貌を遂げた。
「兄は妹には負けないぞ?」
「勝てるとでも?」
私がそういうと、悔しそうな表情を見せたが、すぐにその表情を消して全速力でこちらに向かって飛び込んできた。
これから戦闘をするというのに、いつもわずかながらに感じるプレッシャーは一切ない。
ただ私の胸にあるのは楽しさだけだ。
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