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5.最低
盾
しおりを挟む「事情はあとで説明するから。」
未蘭乃がすぐそこに止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「ねぇ早く。」
「なんで俺も乗るわけ?」
「泊まってる場所が割れてる、あたしがいるのがわかってる。
バレたら家に戻される。
頼むから…お願い。」
未蘭乃の今にも泣き出しそうな顔に根負けして俺もタクシーに乗り込んだ。
「四番通のWITHホテルまで。」
運転手にそう伝えた未蘭乃は俺にホテルのルームキーを渡した。
「あたしの荷物、それとおもちを連れてきて。
チェックアウトも…お金は払ってあるから。
パパがもしいたら…あーそれはちょっと頑張ってほしい。」
落ち着かない様子で早口な未蘭乃からはただならぬ焦りを感じた。
「わかった、でも頑張るってどうやって?
おもちだって連れてるんだからバレるんじゃ…。」
ホテルの前にタクシーが止まると開いたドアの方に俺は蹴り出された。
「いってぇ!!!」
さすが元プロサッカー選手の娘。
キック力が並みじゃない。
「一大事なの!!!」
未蘭乃の父さんが関係してるってことはよくわかったけど…。
このあとどうするっていうんだよ。
情緒も不安定すぎだろ。
エレベーターにカードキーをかざしてエレベーターを待つ。
「ちょっといいかい?」
肩を後ろから掴まれただならぬ雰囲気を感じて恐る恐る振り返った。
「…はい?」
「南沢遥輝だね?」
白崎浩志…。
生で見るのは初めてだ。
てかマジでいるじゃん。
どうすんだよ、コレ…。
「うちの娘がどうやらこのホテルに泊まっているみたいなんだけど…君何か知ってるよね?」
エレベーターが到着した音と同時に俺はエレベーターに静かに乗り笑顔で会釈した。
「いえ、何も。」
作り笑顔をむけたままエレベーターの扉が閉まった。
…これはやらかした。絶対に気づいてる。
『タクシー走らせろ。
親父さんいた。
ホテルの周り張られてる。』
7階につき705号室のドアにカードキーをかざすとカチャッと鍵の空いた音がした。
「にゃーん」
「おもち、ごめんな飼い主じゃなくて。」
おもちを一撫でしてペットキャリーに入れたところでケータイに着信が入った。
「もしもし?」
『あたし。
今どういう状況?』
「いま部屋出る。」
『そっか。裏口で待ってる。
途中パパの車とすれ違ったけど家の方向に向かって行ったから今日は諦めて帰ったみたい。』
「そっか。ならよかった。」
未蘭乃の荷物とペットキャリーを持ち部屋を出る。
エレベーターから降りてロビーを見渡しても白崎浩志の姿はなかった。
「チェックアウトでお願いします。」
チェックアウトを早々に済ませ、裏口のタクシーに乗り込んだ。
「色々お願いしてごめん。」
「いや、いいよ。
気にすんな。」
未蘭乃がおもちを入れたペットキャリーを愛しそうに見つめる姿がなんとも言えない可愛さで胸が押しつぶされそうになる。
「あともう一つお願いがあるんだけど。」
「ん?なに?」
少しの沈黙のあと、未蘭乃が口を開いた。
「ハルキの家にしばらく泊めてほしいの。」
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