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5.最低
目撃情報
しおりを挟む「お前、最近ミラノと連絡取ってる?」
練習後、ロッカールームでジャンにそう言われて記憶を遡る。
「1週間以上…取ってないかな。」
「は?あんなリムジン用意しておいて?
あの後、付き合ったもんだと思ってたけど違うの?」
…家に上がった次の日以降、連絡は取ってない。
「まさか。
今んとこ、トップチームに昇格することしか考えてねーよ。」
それに俺が未蘭乃とリムジンに乗り合わせたところを目撃した人がいたらしく、監督からは遊びすぎるなよと軽く注意を受けた。
「そっか。
確かに付き合ってる相手いたらそいつの家に転がり込むよな。」
「それどういうことだよ?」
ジャンがいつものパーカーのファスナーをあげてため息をついた。
「フォトグラで#miranoで検索してみればわかるよ。」
ケータイを開いてすぐに検索する。
大荷物で歩く未蘭乃。
ベンチで水を飲む未蘭乃。
ホテルに入っていく未蘭乃。
…他にも学校帰りとか、俺の試合見に来た日の写真も…。
見る限り全部が盗撮だった。
「家出してるって噂。
ミラノの動向をここ何年か追ってる奴が言ってる。」
「動向追ってるってそれ…ストーカーだよな。なんでお前知ってて止めないんだよ。
てかこんなの見てんじゃねぇよ!!」
思わずカッとなって声を荒げてしまった。
「…てか、あの子さ。
実際会ってみたら普通の子だし、東洋人ってこともあってちんちくりんっていうかガキっぽいっていうか。
親の七光りっていうの?
投稿とか有名人ぶってるよなぁ。」
東洋人。
その言葉に胸が刺されたみたいに苦しくなった。
俺がジュニアユースからセカンドチームまで駆け上がるのにどんな努力をしたか、こいつにはわからないんだろうな。
たくさん怪我もした。
挫折もした。
最初は言葉がわからなくて練習にすらあまり呼んでもらえなかった。
ジュニアユース時代は日本人だからという理由でハブかれたことだってある。
「いいよな、ハルキは。
話題も活躍も才能もスター性も全部持ってる。」
西洋人にはわからない苦労もたくさんして、努力もたくさんして今がある。
俺は天才なんかじゃないんだよ。
不意に何かがプツンと切れて気づいたときにはロッカーに飾ってあった写真立てを床に叩きつけていた。
「ジャンに俺ら日本人の何がわかるんだよ。
ふざけんな。」
「ハルキ…!」
ジャンから逃げるようにしてロッカールームを出てそのまま駅前まで走ってきてしまった。
「…くそっ。」
言葉に出来ない悔しさと惨めさで涙が出てきた。
本当はどこかでずっと思ってた。
どれだけ努力しても最初から西洋人には劣っているって。
いつも大丈夫、俺ならできると言い聞かせていた。
高校からは母親も日本に帰って一人で暮らし始めて。
家で一人とかそういうんじゃなく、いつもどこか孤独で。
高校の頃は何度も日本に帰りたいと思った。
「お兄さん、どうしたの?
泣かないで?」
突然上から降ってきた日本語に驚いて顔を上げると…。
「…ああ、やっぱり。
ハルキじゃん。久しぶりだね。」
…なんで今日。
なんで今なんだよ。未蘭乃。
「…こんなとこでなにしてんだよ、馬鹿。」
「カリナとお茶しててちょっと遅くなっただけ。
ねぇ、ちょっとそこで待っててよ。」
未蘭乃がそう言ってベンチを指差した。
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