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4.次の約束
DM
しおりを挟むカリナとHRが終わってから別れてバスを待っている時だった。
バス停のベンチに座ってケータイを開くと知らないアカウントからのDM。
削除するにしても一旦開かなくてはいけない。
「は?」
DMを見て変な汗が出た。
『VIP席で誰見てたんですか?』
これSCマドリードのサポーターだろうな…。
変に反応しちゃだめだろうけど、あたしが誰を観に行ったなんてちょっと考えればわかることだし…わざわざ聞くってことは探ろうとでもしてるのかな。
スタジアムの写真とかそういうのは投稿してないし…。
絶対にハルキの邪魔になることはしない。
匂わせとか言われるだろうし。
パパの知り合いが招待してくれたっていうのも言い訳には使えるけど嘘はつきたくないし。
バスが到着して座席に座ると、昨日のリムジンの椅子とは真逆の質感にため息が出た。
あたし本当に昨日はお姫様扱いされてたんだなぁ。とか思う。
「てか進路どーしよ。」
カリナは文系大学。
パパは好きなところに行けとか言うけど、別に学びたい分野があるわけじゃない。
勉強も好きじゃないし。
半年くらい前にパパに進路をどうしようか相談しても好きにすればいいとしか言われなかったんだよなぁ。
先生は人生を左右するものだからちゃんと考えて決めるようにって言うし。
そう考えるとハルキは中学生の頃からサッカー選手になるってもう決めてたんだよね。
「あたしって本当に何もないんだな。」
バスのアナウンスが流れてハッとする。
終着の繁華街まで乗り過ごしていた。
「最悪。」
スマホのロック画面に浮かぶ16:40。
街が夕日に染まりはじめていた。
歩いて家まで帰る?
…でもなんか今日はちょっと外でぼんやりしたい気分かも。
「あの子…ミラノでしょ?
このあたりに住んでるの?」
「実物初めて見たけど写真のまんまだな…。」
1、2。
「一人で何してるんだろう。」
「彼氏と待ち合わせ?」
「何度か街で見たことあるけど制服姿レアだよな。」
3,4,5…。
「あれ?未蘭乃!
こんなところでどうしたの?」
6…?
あたしを呼ぶ声に聞き覚えがあった。
「ルイサさん?」
「久しぶりだね!卒業以来?」
ルイサさんはあたしの1個上の先輩。
学校じゃ誰もが振り返る美人。
学校中の男子が好きな人=ルイサさんみたいな人。
誰にでも気さくだし飾らないのがこの人の魅力だと思う。
「本当に久しぶり…。
ルイサさんは学校帰り?」
「ううん!今からバイト~!
あっ、ちょっと!あなた待って!」
ルイサさんが若い男のほうに駆け寄った。
彼はあたしにカメラを向けているように見えた。
「あなたあの子のこと盗撮したよね?
消して、今すぐ。」
「うるせぇな、わかったよ…。」
男はルイサさんに迫られて渋々写真を消したようだった。
「ありがとう。でも良かったのに…。
よくあるんだよ、最近。」
「嫌じゃないの!?
見ず知らずの人に盗撮されてるんだよ?」
「う、うーん。
あたしはSNSで自分の知らない人に顔も名前も知られてるからなんか…もういいかな、みたいな?」
ルイサさんがあたしの隣に座り、うんうんと深く頷いた。
「いつも見てるよ、フォトグラ。
未蘭乃のフォトグラって何ていうんだろう。
私生活を覗き見してるっていうか、未蘭乃自体が魅力的なのはもちろんなんだけどついつい気になって見ちゃう、そんな感じ。」
「やりたいこととか専攻して学びたいたいこともなくて。
わかんない、どうしたらいいのか。
SNSばっかり見てる気がする。」
あたしが深くため息をつくとルイサさんはあたしの肩をぽんぽんと優しく叩いた。
「大丈夫だって。
私も大学通ってるけど正直ただ通って就職への猶予くらいにしか考えてないんだから。
そういう大学生もたくさんいるよ。
逆に考え過ぎなんじゃない?」
「…そうかなぁ。」
「てか、未蘭乃くらいのフォロワー数と反応数ならインフルエンサーとか動画投稿者になれるかもしれないね。
よく載せてるじゃん、友達とカフェ行った写真とか。
あとVlog?やってみるとか!」
インフルエンサー…動画投稿者…。
手の届かないような世界の話だと思ってたからそんなこと考えもしなかった。
「なんとかなるし、為せば成るし。
周りも急かさないんならニートになるもよし!」
ニートかぁ…卒業して何もしないのはちょっとなぁ…。
「こっちから声かけてごめんだけど、私そろそろバイトだから行くね。
暗くなってきたから帰りは気をつけて!」
「うん。ルイサさん、ありがとう。」
ルイサさんと別れて昨日とは違う冬の匂いを感じながら家まで帰った。
家の前にパパの車が止まっていてなんとなくまたため息が出た。
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