翔莉と悠莉【上】

ハル

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新生活

地区予選

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いよいよ、夏の甲子園の地区予選が始まる。

圭介からは、毎日のように野球の話しを聞いているので、今どこまで勝ち進んでいるかはある程度把握しているが、次の試合がヤマ場らしい。

相手は甲子園の常連校で、特に今年は投打に於いて他校を引き離す程の実力があり、予選ながらスカウトの影もちらほらと見るとの噂である。

昼休みに弁当を圭介と食べてると

「そや、言うの忘れてた。」

「…?」

「翔莉の名前も選手登録に出しといたでぇ」

「なにぃ?」

「だ・か・ら・、大会出れるでぇ」

「前に言ってたやん、応援出来ることはするって」

「馬鹿かぁ?お前、あれはエールを送るつぅ意味や!」

頭を抱えた翔莉は、食欲も無くなり弁当の蓋を閉じた。

圭介も頭を下げ両手を合わし

「一生のお願いや、友達助ける思うて今度の土曜日だけ体貸して。」

「一回だけやからなぁ」と翔莉の声を聞くと

「ところで、翔莉のバッティングは見て知ってるけど、投げる方もお願いできないかなぁ」

翔莉が今度は関西弁で

「アホか!」と言うと

圭介はまた頭を下げ両手を合わし、今度は片目で翔莉の方を覗き込んでいた。

その夜から圭介は毎晩、練習終わりに翔莉の家に寄ってキャッチボールをした。

翔莉の家はここらでは珍しいくらいに庭が広いのである。
父がゴルフにハマっていたのもあり、転勤の時に、庭で練習できるような家がいいと会社の総務へ要望を出して、会社の人が探してくれた物件なのだった。

キャッチボールも3日程すると何とか感を取り戻してきた気がする。

その日も少し投げた後

「今日は座るから、マジなやつ投げてみぃ!」

圭介が座ると、翔莉もうなずき大きく振りかぶった。

「バーン」とグラブに入った球を見て圭介は
にやりとして、

「暗いからよう見えんかった。明日野球部の練習に来て」と言って、早々に帰って行った。





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