死神の業務日報

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魔人の真意②

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蒼星が驚いて顔を上げると、そこには自らの拳を握りつぶさんとばかりに両手を強く握りしめ、ポタポタと消え入りそうな滴を頬から流しながら、膝を付き頭をたれる一人の男が居た。

 男は浅黒い肌の色をしていて、筋骨隆々な体を極限まで小さく丸め、乱暴にまとめた真っ赤な髪を震わせて、年端も行かない蒼星に向かってただ静かにひざまついていた。

「えっ、あのちょっと・・・やめ」

 頭をたれる男を制止しようと、蒼星が独房に向かい踏み出した瞬間、蒼星の頭の中で強制的に映像が流れだした。

 頭の中に浮かんで来た映像は、暖かそうな暖炉が煌々と煌めく丸太造りのリビングルームで、幸せそうに家族団らんの談笑を楽しむ3人の親子の映像だった、黄金色の美しいブロンドを携えた母と、両親の血を受け継いだであろう赤毛交じりの金髪の少年、そしてその二人を見守る様な優しい目で見つめる若く力強い印象の灼髪の父親が、幸せそうな表情を浮かべて談笑としている映像・・・

 蒼星はその映像の父親が今目の前に居る男だとすぐに気が付いたが、今の寡黙な大男とはあまりにもかけ離れた印象に驚いた・・・そして映像は切り替わり、今度は男が仰々しい軍服を着て家族の前に立っている映像だ・・・

 少年は父の出立を送り出そうと姿勢を正し敬礼をしているが、その瞳は今にも崩壊しそうに大量の涙を蓄えており、母はそっと男の胸に駆け寄ると、息子に悟られまいと静かに肩を震わせていた、男は妻と子供を抱きかかえ耳元で何かを言うと、直ぐに意住まいを正し敬礼し、そのまま踵を返して家を後にした。

 映像はそこで途切れたが、蒼星は既に彼の最後の望みがなんであるかを理解し・・・決意していた。

「・・・わかりました、ドラグニア・ラルスさん・・・俺を、信じてください」

 蒼星は自分でも驚くほど自然に笑うと、そっと鉄格子の中に手を入れ【魔人】の肩に手を添えた。

「必ず・・・何が起ころうと必ず、あなたの前に家族を連れてきてみせます」


「・・・ありが・・・とう・・・」

 男は、今にも崩れ落ちそうに肩を震わせながら、振り絞った声で蒼星に礼を告げた。

 蒼星は何も言わず踵を返すと、握りしめた拳が緩まぬように、今にも流れ落ちてしまいそうな涙を抑える様に、下唇を噛みしめて歩き出した。

 石造りの回廊には、あの暖炉の明かりの様に煌々と、松明の光が揺らめいていた。
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