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7章 簒奪王の足音

教皇様のお悩み相談室!

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きっと上級異端審問官の『白の射手』の座はディビドだろうな、と直感してしまった。

ディビドとヘルムート様は昔からきっと繋がっている筈だ、だってあのヘルムート様だ、得体の知れない隣国の宣教師をエルマ様に簡単に近づけさせるなんて良く考えればあり得ない筈だからだ!

 ディビドが賢者の称号を手に入れ戻ってくる事こそヘルムート様の条件だったのかもしれない...しかもダガンの件よりも前から婿候補の話が出る前からかもしれない。

上級異端審問官は代々トラウゴット教直轄領主であるバーレ枢機卿が引き継ぐ私兵、聖典の教えに反する司祭や修道士には矯正という名の罰を与え悪行が過ぎれば追放を言い渡し、悪魔崇拝者をその力で排除する存在。守りのために存在する神殿騎士とは違う、それこそ教会組織の為ならなんでもやるエリート中のエリートだ。

ヘルムート様は狂信的な人物故に異教徒や悪魔崇拝者を許さない、教えをねじ曲げて伝える聖職者にも処罰を下す。

エルマや教皇様は柔軟で許しと救いをもたらす存在で寛大だが、ヘルムート様はトラウゴット教の戒律と教会組織を守る為に絶対に折れない存在だ。

そんなヘルムート様にディビドは認められたと言う訳だ、ただヘルムート様の好む性格では無いが優秀で『強い血』という点では間違いなく該当する。

「僕はあいつに勝てるのか...」

神殿所でぽつんと椅子に座って考える。

時間帯的に誰もいないから一人で考え事をする時はいつもここに来ている。

何もかも足りない...神殿騎士の中でも最も強いかもしれないがあくまで護衛、父は神殿騎士だったが由緒ある血筋でもない平民...それにまだ15歳で結婚する年齢にもまだまだ早い。

「おや、悩める少年?どうしたんだい?」

優しい声が聞こえる、顔を上げると教皇様がにこやかに立って声をかけて下さっていた!

とても朗らかで優しくお茶目な好々爺である。

「教皇様!」

パッと立って敬礼する。

「良い良い...今は仕事の時間ではないからね」

そう言って教皇様は座るように促す。

「いつもエルマ様を大切に守ってくれて感謝してるんだよ、君にはね」

「いえ、僕は職務を全うしているだけですし...正直神の御加護があるエルマ様の方が強いですから」

「それだけじゃないから、エルマ様の友達として仲良くやっている事とかね...ほら寺院内って大人ばっかりだし立場も立場だから簡単に友達を作れる訳じゃない、そんな中で君はずっとエルマ様の友達でいてくれてたじゃない?」

「それは本当に光栄だと思ってます」

「そんな堅苦しく無くて良いんだよ、ははは」

教皇様は横に座って背中を摩ってくれる。

「...それこそエルマ様の花婿候補の話かな?少年の悩みは?」

「あ...いえ...ただ僕、結婚なんてエルマ様が遠くにいっちゃうみたいで...」

「そうだよねぇ...関係が変わるって事は今までみたいに出来ないって事だからね、ヘルムートはどうしても亡くなったエルマ様の母、妹のヘンリエッテの件があるから色々難しく考えすぎなんだけどそんなに『強い血』なんかに囚われずにエルマ様が本当に好きになった相手と添い遂げて子供が産まれてくればそれで良いと思っているし、そろそろそう助言するつもりなんだよ、少年?」

「え?」

「そもそも預言者様ね、創造主にして忠節なる神(トラウゴット)に守られている時点で教会に留まり続ける必要もないしむしろ神託から自由にあちこち行動する存在なんだよ?聖典でも預言者様の行動って何か組織に従ってなんて居ないからね?」

「あ」

「ただエルマ様は間違いなくトラウゴット教の悲願、明けの明星リュシフェルを倒す系譜の祖なのは間違い無いから結婚は避けられない、ならせめて幸せな関係を築ける相手の方が良いと思うんだよね、あ、でもお見合い自体悪い訳じゃないし、もしかしたらそれこそ運命の相手っているかもだしね!でももしエルマ様が君がいいって言うなら私としては君でも良いと思ってる」

「ええっ!でも僕は...」

「だって1番一緒にいた仲じゃないか?共に笑って泣いて家族のようにしてた君達がそのまま一緒になる将来だってあってもいいと思うよ!ただエルマ様が誰を選ぶかはエルマ様が決める事だからね、それは忘れちゃ駄目だよ...頑張りなさい、君には強力なライバルがいるし、しかも相手のバックにはヘルムートいるしね!」

教皇様はポンポンと背中を叩いてニッコリ微笑んでから去っていった。

「エルマ様が選んで下さるなら僕でも...いいのか...」

そう口から言葉が漏れる...

ーーー

「おや、ヘルムート?」

「...教皇様...聞いてましたよ...余計な事を...」

ヘルムートは眉間皺を寄せる。

「小さい頃からヘルムートは頑なな性格だったけどそれこそお見合いだの余計な事だと思うがねぇ...」

ニコニコしている教皇様、その昔上級異端審問官の青だった時代からヘルムートの事は知っている。

「教皇様もアレの正体を知っているでしょう?もしもの事があった時は!」

「ヘルムート、神はね何にでもなって下さる方だ、もし神のご意志ならば、マックスの事なんて簡単になんとかして下さるものだよ」

教皇は優しくヘルムートを諭す。

「...ですが...はぁ...やっぱり貴方には昔から敵いませんね...でもお見合いの件は進めますし1番の候補はまだ戻っては来ませんからね」

ヘルムートはため息を吐く、昔から教皇様には敵わない。

「ディビドだったっけ?エルマ様のもう一人のお気に入りの子ね...私はエルマ様が幸せになるならどちらでも良いんだ、あの子の幸せこそこの世界を良い方向へ持っていく筈だからね...後は王弟ジルヴェスター殿下の動向か...」

「...陛下には釘も刺しましたし、母親の修道士アンナは本人のたっての願いで彼女はロストックへ行きました、なのでバーレに近く理由は無い筈です...しかし北領の貴族達の動きが気になりますね...それこそ預言の通り国内での王位簒奪による戦争が起こりうる可能性も...」

「きっとエルマ様は近いうちに陛下の暗殺を止める為に行動をするだろうね、ただそれで戦争への動きが止まるかどうかは分からない...エルマ様は戦争を止めたいだろうけど今までの事を考えれば難しいだろうね、全て預言は成就しているからね...本来なら中立の立場を取りたい所だけど北領は王弟寄り...その王弟は悪魔アスモデウスと関わる可能性もある、いやエルマ様の予知が危険と言わせあんなにも恐れている所を見ればねぇ...やはり陛下と南領との繋がりを強める方が得策かな」

教皇の顔が険しくなる、その顔を見てヘルムートは昔の上級異端審問官時代の教皇の姿を思い出す。

今は名前を捨てて役職名でしか呼ばれない好々爺ではあるが、それそこ悪魔崇拝者が最も恐れた男、元上級異端審問官、『青の大鎌』のバルナバスがそこにいた。

ーーーーーー
※ゲーム豆知識
教皇
トラウゴット教の最高位権威者、大司祭長、枢機卿から選ばれる存在。基本一代限り。基本教える者としての仕事重視、政治や実働はバーレ領主であるヘルムートが担っている。
ちなみに教皇に選ばれると自分の名前を捨て、役職名でしか呼ばれなくなるのは神格化を避ける為。
(崇拝すべきは神のみ、更に言うと度々現れる預言者との差別化のため)
現在の教皇様は孫も大勢いるニコニコ優しいお茶目なお爺さんであるが元は歴代で最も恐れられていた元上級異端審問官の『青の大鎌』バルナバス。
実はヘルムートよりも狂信的な男である。
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