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4章 聖サンソンと悪魔ダガン

聖サンソン!聖サンソンだ(号泣)!

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周辺が急に明るくなり見回すとダガン神殿が元の姿と言うべきか金と黒の装飾と壁にはダガンの壁画がいくつも書かれている。

その中心部で目を潰された青色のボサボサの長髪の浅黒い肌の大男が鎖で巻きつけられ捕らえられたいる...あれは聖サンソンだと直感する。

その前には悪魔ダガンが立ちはだかり高笑いをしている。

『ははは!彼の神は貴様を見捨てたと見るぞ!さぁ我が贄となるがいい!』

ダガンはサンソンの首に手をかける...しかしサンソンはニヤリと薄笑いを浮かべる。

『ロストックの地を穢す邪悪な悪魔ダガン...忠節なる神(トラウゴッド)に裁かれる未来を俺に見せてくださったぞ!』

そう言うとサンソンは巻き付けられた鎖を自らの力で砕き、そのままダガンの顔を殴りつけた。

『ぐぉっ!』

ダガンはその場から後ずさるがサンソンは目を潰され血まみれの顔のままなのにダガンのいる場所が手に取るように分かるように更にダガンの顔を殴りかかる。

ダガンの顔がひしゃげてくる、サンソンの手は緩まず殴り続ける。

そして大声で叫ぶ。

『裁き時は来たっ!悪しき者の頭を砕く裁きの鉄槌を!』

サンソンの拳が大きく光り輝き、ダガンの顔を地にめり込ませるとその衝撃から神殿は倒壊しながら地に沈みこむ。

『許さぬ!許さぬ!許さぬ!彼の神の奴隷が憎い!いつかこの身が復活する時にはロストックにいる彼の神の奴隷を1匹残らず目玉をくり抜き臓物を食らってやる!』

その断末魔とともに禁呪の書き板の姿に変わり、そのまま封印式に閉じ込められていく。

サンソンは力尽きるがその笑顔のまま倒壊する神殿に埋もれていく。

「ああっ!サンソン!」

つい声が出てしまう。

幼少期の頃から聖典の教えの一つで子供向けの絵本に聖サンソンの話を読み聞かされてきた身だ。

サンソンはロストックの葡萄農園の息子だったが神により『裁きの鉄槌』となりロストックの地を穢す悪魔に裁きを与える役割を担い、次々と悪魔を素手で殴って封じてきた。

その中で最も愛する女性が現れるも、その女性はダガンの信者でサンソンを騙して目を潰されダガン神殿に連れて行かれたのだ、そしてダガンを倒して今に至る。

聞いた当時小さい子供の精神が引っ張られていたのか、その報われないサンソンがかわいそうだと最初聞いたときわんわん泣きわめいた、正直今もそう思っている。

『その声は誰だ?』

サンソンがエルマさんの声に反応している!

「私はエルマ、500年後に産まれる預言者です!今助けます!」

倒壊した柱を退けようとするも全く動かない。

『もう無理だ、身体がもう動かぬ...俺はこのままダガンと共にこの地に埋もれ肉体は塵となるのだ...それ自体は全く怖くなどは無い...神の御許へ行くだけだからな』

「だけどダガンを倒せたのに共に貴方も死ぬなんて!貴方は愛する人に裏切られ目も潰されて...そんなの辛いじゃないですか!ダガンは時間と生贄が有れば復活するのに貴方はこのダガン神殿に埋もれたまま死んじゃうんですよ!」

『ははは優しき預言者よ、お主はマーシャが語った預言の一つ、マーシャを助けた優しきバーレの王の娘の子供『悪魔の頭を打ち砕く王笏』と見た!俺が成し遂げられなかった事を成し遂げる神に祝福されし子だ!神の奇跡に感謝だな...ぐふっ』

「サンソン!」

『大丈夫だ...きっと時が来るまでは俺は死なない...我らの神はこの様な奇跡を与えて下さったのにはダガンの復活がお主の時代でおこるのだな...』

「はい...復活が間近だと...ですが私が再封印を施します」

『...残念だが預言者であるお主が誕生した時点でダガンは間違いなく復活するだろう...それは因果だ...逃れられない、だからダガンの弱点を教えてやる...ダガンは身体中が鉄の鱗で覆われているがいけすかないあの顔だけにはその鱗が無い...ダガンを倒すなら真正面から顔を思いっきり拳で殴りかかればいい』

「殴るんですか?私は神罰を与える力を貸し与えられましたが貴方の様に殴る程の力は無いです」

『お主は『悪魔の頭を打ち砕く王笏』だ...その王笏で殴りかかればいい』

「え?」

『ははは、その時が来ればわかる筈だ!俺もそうだった、まさか鉄槌の意味が悪魔を素手で殴り倒せと言う事だったのだからな』

「私も殴れる程になれるんでしょうか?」

『さぁこればかりは神のみぞ知る事だからな...あとお主は俺が女に騙されてかわいそうだと思っているが俺は騙されてなぞいないぞ、なんせ俺の女の腹には俺の子供がいるのだから、俺は騙されたふりをして女と子供を守った男だぞ、でなけれなあいつと子供はダガンの贄になっていたからな』

「ええっ!そんな話は知らなかった!」

『俺の子供の血は脈々と受け継がれロストックの地に増え広がると神は約束して下さった、そいつらが俺の事を忘れずに俺の故郷ロストックの地を守ってくれれば俺は満足だ...ちなみにこれは俺と忠節なる神(トラウゴッド)とお主だけの秘密だ...これ程の報いはない...ああもう時間だ...ありがとうよ...優しき預言者よ...』

サンソンはぐったりと動かなくなる、その顔は満足した様子であった。

「サンソン!」

「エルマ様!どうされましたか!」

マックス氏の言葉で一瞬で元のダガン神殿の跡地に戻った事に気がつく。

「あれ?あれ?」

周辺を見回すが、確かに訪れた時のままの場所だ、そしてサンソンの墓もある。

「夢...」

「エルマ様?泣いてらっしゃるのですか?」

マックス氏に言われてはじめて自分が泣いていた事に気がつく。

「さっきまでサンソンと話をしてたんだよ...ここでダガンを倒してそのまま死んでいくサンソンと...」

ぼろぼろと涙が溢れる、ディビドがそばに寄ってハンカチで涙を拭いてくれる。

「エルマ様は預言者であられるからきっと聖サンソンを見る事ができたのですね」

「うん...サンソンはこの時代にダガンが必ず復活するって...預言者が誕生した時点で...それは因果と言っていた...」

「なっ!」

全員が驚愕する。

ディビドからハンカチを受け取って涙を拭き取り深呼吸をしてから話す。

「サンソンはダガン弱点を教えてくれた...だからもし更なる封印が上手くいかなくても私の手で決着をつけなきゃいけない...ううん..決着つける」

「弱点ですか?」

ディビドが聞き返す。

「サンソンはダガンは身体中が鉄の鱗で覆われているから鱗の無い顔を真正面から殴れって...」

「う...聖典に書かれていたからまぁわかってはいましたがなんて直球な脳筋...いや確かに顔には鱗が無いし...しかし神託ならば...」

ディビドはぶつぶつと呟く。今脳筋って言ったよね...まぁ頭のいいディビドじゃ無くてもそう思うよね...うん。

「しかし殴りかかるって言っても格闘家がいる訳でも無いし...普通に『裁きの鉄槌』を顔目掛けて執行するしかないんじゃないですか?」

「マックス氏、まぁそうなんだけどね...でもサンソンはそこは『神のみぞ知る』事だっていってたからもしかしたら何か別の方法って事もあるかもだし...サンソンが倒した時にダガンも考えてその弱点を何かに守られているかもだしね...だってすごいダガンの顔殴り倒してひしゃげてたもの、そのまますごい怒ってトラウゴッドの信徒の目玉と内臓を食い散らかすって...!」

そうだ、教会関係者や信徒が危ないって事じゃないか!

「...そうですよね、しかも封印式を弱めるために生贄を差し出している訳でしょうし...ギュンター殿、ここ数ヶ月...いや数年の間に聖職者や信徒の失踪などあったか分かりますか?」

「あ...ああ事件になってる分なら詰所に残っていると思うが信徒はともかく修道士や司祭が失踪した話は聞かないな」

「という事は...一応教会に併設している孤児院も調べた方がいいかもしれませんね...大概そういう場合身寄りの無い子供達がという話も多いので」

ディビドの話を聞いて周囲がざわつく。

そんな事無いと信じたい...神の名の元に保護されるべき子供達をそんな目にあわせるなんて...

「あとこの場所をよく見た方がいいですね...悪魔崇拝の儀式に使う麻薬の混じった香の匂いと血の匂いがする...しかし鍵は騎士団と司祭の鍵が無ければ開かないのにどうやってこの場所へ来れたのだろうか...」

ディビドは眉間に皺を寄せながら語る...

その後全員で悪魔崇拝の儀式の証拠を探すと確かに香の残りや血の汚れなどがあるものの決定的な証拠がなく一抹の不安を残しながらその場を後にするのだった。

ーーーーー
※ゲーム豆知識
古代ウルム語
1000年前くらいまでウルムで使用されていた言語、今のウルム語の元となる。
悪魔の封印式に書かれている言語でもある。イメージ的には古語みたいなもの(もう少しだけ難解ではあるが)
文字解明さえすればウルム人ならなんとなく読めるかな程度。

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