銭ゲバ令嬢なまぐさ司祭に溺愛される【R18】

chapter6:Be baptized

地下墓地 その7

「こんな小さい子供になんて酷い事を...心配ない、直ぐに痛みは消えますからね」

と回復ヒールの奇跡を施すとサミュエルの身体に柔らかい光に溢れて傷が癒える。

その人物は現在のバーレ領主、当時は領主の息子で司祭でもあった若かりし頃のヘルムートだ。

「大丈夫？」

「...うん」

身を起こしてエステルに向かってそう頷くとお腹がぐるぐると鳴り出す。

「お腹空いてるのね、ねぇ君の家族は？お家は？」

「いない...ここに連れられて来たのもメシを食わせてくれるって言うから...」

エステルの問いにサミュエルはそう話す。

「王都か他の領から連れられて来た孤児でしょうか...バーレ内では孤児は全て孤児院へ入れる様にしてるはずですからね」

とヘルムートはサミュエルの頭を撫でる。

そう、バーレ領は300年前に現れた預言者の意志により福祉に関しては手厚く浮浪者や孤児といった存在は居ないし、もし捨て子や虐待児といった子供達が出たら即そう言った施設へ入れられる様にしているのだ。

その為かあえてバーレへ子供を捨てる人々もいるのも事実ではあるが、それによって多くの人々の命が救われた事も事実である。

「今度はきちんとご飯も食べれて住むところも心配なく勉強もできる場所に連れて行ってあげますね」

ヘルムートはそのまま寺院併設の孤児院へ、と思ってそう言葉をかけるが、サミュエルはここに連れてこられた時の事を思い出し警戒する。

それを察してかエステルがサミュエルに近寄って手を取る。

「だったら私のお家に住めばいいわ！君は私の相棒になるの」

その頃あたりから、冒険小説や探偵小説が大好きなエステルは相棒が欲しいと思っていたからかそんな事を言い出す。

「そんな...犬猫のような動物じゃ無いんですよ？それにシャウルがなんと言うか...」

「お母様は優しい方だから許してくれるわ、それにお父様は殆どお屋敷にいないし、いてもお母様にべったりだし使用人が1人増やしたって話せばいいもの大丈夫よ」

とヘルムートに言いながらサミュエルへ顔を向けて笑顔を浮かべるエステル。

一度そう決めたらテコでも曲げないエステルにため息を吐くヘルムートは仕方ない...と言った顔をする。

それにエステルには特殊な家庭環境もあって同じくらいの年齢の子供の友達もいない為、話し相手として悪く無いかもしれないし、もしエステルの両親が反対すればそれこそ孤児院へ入れれば良いだろう、とも思ってだ。

「あ！君の名前聞いて無いね？ねぇ君の名前は？」

「無い...餓鬼とか...おい...とかお前ってしか呼ばれた事無いから...」

「じゃあ私がつけてあげる！君はサミュエル！エアヴァルドを救った預言者様の名前よ」

「え...」

「でも長いからサムって呼ぶわね！」

無邪気にそう話すエステルを唖然としながらサミュエルは見る。

それこそそんなエステルの姿にサミュエルは希望の『光』が見えた。

「...お腹いっぱい食べさせてくれるなら相棒でも使用人でも下僕でもなるっすよ...」

「じゃあ決まりね！いきましょう、サム！」

とエステルは立ち上がってサミュエルに手を差し出すと、サミュエルは手を伸ばして、エステルの手を握る。