銭ゲバ令嬢なまぐさ司祭に溺愛される【R18】

chapter6:Be baptized

洗礼式 その8

「創造者にして忠節なる神の代弁者にこの王笏を...『バーレの真の王』の証でありながら『預言者の杖』であるセプター オブ バーレを貴女に貸与致します」

赤から青へと色の変化し、中に星が煌めく石をはめ込んだ白金の杖。

柄の部分にはアーモンドの花と実の図柄が彫られていて、その中心部分には古代ウルム語で『バーレの王笏セプター オブ バーレと刻まれている。

「ティナちゃん、ディブから受け取って...セプター オブ バーレの今の所有者は新たな預言者である貴女のものなのだから」

そう促されてディビッドからその杖を恐る恐る受け取るとぱあっと石の中の星が輝き出すわ。

そして一つ一つに私の知らない記憶が私の中に刻み込まれていく。

堕天した悪魔達に世界を牛耳られ、巨人ゴライアスによって暴虐の限りを尽くされぼろぼろになった地を神罰により全て火と硫黄の海によって燃えていく姿を高台で見つめるルーエンの記憶。

ウルム王家の血筋でありながら、見た目の為に捨てられ、たくさんの不幸や悲劇を身にうけながらも立ち向かいつづけ、多くの人々を導き悪魔を雹の災厄で封じた聖マーシャの記憶。

悪魔によってバーレ侵略の危機に直面するも、神との誓いを立て裁きの雷によって守りきった聖ジョシュアの記憶。

神により裁く者として選ばれ、悪魔と立ち向かい、愛する者に騙されても最後に悪魔に裁きの鉄槌を下した聖サンソンの記憶。

それ以外にも様々な預言者達の記憶が流れ込む。

それは創生の記憶から今までの人の営みと悪魔との戦い、15人分の預言者達の記憶と想い。

人の世の悲劇の根本的な原因が悪魔であり、ディビッド達が言い続けていたリュシフェルを中心とした存在、元は天使だったが、その欲望故に地に降り立ち堕天し人の世界を滅茶苦茶にしていった、そして今もそれは繰り返されている。

悪魔は人の手では封じる事は出来ても、元々が天使故に不滅の存在...それを滅ぼすには神により約束されたマーシャとアビゲイルの血が交わった子孫が必要であり、その誕生は300年前に成し遂げられた。

それが12番目の預言者と呼ばれる少女であり、ディビッドの祖先...そして最終的にその血を引く子孫は『ハイラント救世主』となり、最初の悪魔であるリュシフェルを滅ぼす事になる...そして私もその血を継ぐ一人であり、次世代へと繋ぐ為に選ばれたと言う事も。

その多くの預言者達の想い、悪魔を滅ぼす事を使命とする強い想いで胸がいっぱいになり、目頭が熱くなる。

「ティナ」

心配そうな声でディビッドに声をかけられる...ああ、私は泣いているのね。

「...預言者達の想いを受け取ったのね」

「はい...」

「でもその想いに報いねば、と行動するもしないも貴女が選べばいいわ、守るべき律法の範囲内で貴女が貴女の思うまま行動する事自体が最終的に神の思いが成し遂げられる事になるのだから...そう、預言者という存在は『自由』であるべき、と言われているから」

エステルお姉様からそう言われながら背中をさすられる。

「自由に...」

「そう...過去の預言者達がそうであった様にね...」

エステルお姉様は私に優しく語りながら、ジョナサンに乾かす様に指示するとぬるい風が濡れた身体や服の水分を吹き飛ばして一瞬にして乾かしてしまう。

確かにちょっと気持ち悪い感じがしたけども、それ以上に人々の想いで心がいっぱいになり、何か報いねばと思っていた。

...まさかディビッドがその姿を複雑そうな顔で見ていた事なんて気が付かないままに...