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Chapter2:Jealous lover

とある早朝の話

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早朝。

「ジョナサン、身体を戻したいので手合わせお願いしていいですか、屋上で」

ディビッドは動きやすい格好に着替えており、ソファーで難しそうな本を片手にしたジョナサンにお願いする。

1週間も鍛えずゴロゴロとしていたために筋肉が落ちている、それを戻さなければ次もし悪魔に立ち向かう際に不利になるからだ。

『ああ、良いぜ』

そう言って横になっていたジョナサンは本を置き、ソファーから降りて、弱体化を解除し筋骨隆々な元の姿に戻す。

2人は屋上へ上がり面と向かって構え始める。

先に動いたのはディビッド、ハイキックを右側の顔目掛けて行うもジョナサンに左腕で簡単に止められ、そのままジョナサンが反撃にとパンチを繰り出す。

それをディビッドは寸前で避けて、間合いを取る。

そのままディビッドは走り込み、ジョナサンに殴りかかるもジョナサンはそれを受け止めて反撃に出る。

そうやって2人で手合わせを行い続ける。

実際体術で戦うならディビッドはジョナサンには勝てない、ジョナサンは術士として日々勉学に勤しみながらも、拳闘士として籠って鍛えているためだ。

しかし実の所術士...いや賢者としての能力では本来ならばディビッドの方が上である。

それはその紫色の瞳が物語る...偉大な賢者を何人も輩出した血が流れているからだ。

ディビッドの血は、神罰を使えなくとも術士として生きるなら、突然変異のジョナサンよりも格上で彼よりも威力のある術を使えるはずなのだ。

ジョナサンはフラウエン教会にいた時の事を思い出す。

突然変異で産まれたジョナサンを両親は喜ぶも、術士として成長するにはロストック内ではせいぜいフラウエン教会併設の学校にお世話になる他ない状況だった。

そんな中、ディビッドと出会う。最初はディビッドが9歳、ジョナサンが6歳の時だ。

『ジョナサンっていうんだ、僕はディビッド、よろしくね』

そう言ってニコニコと迎え入れた教会併設の孤児院の少年の1人だった。

フラウエン教会併設の学校は寄宿舎もあり、一部その寄宿舎と孤児院生活スペースが共有している所もある。

『神はどんな者にも公平に愛示して下さる』という考えでの元なのだろう。

最初は優しいお兄さんかな?と思いきやなかなかの曲者で人当たりもいいし優しいのだが、悪戯で驚かしたりとか、くすぐってきたりとニコニコしながら平気でやる奴だった。

ちなみにたまに怒るととんでもない制裁がやってきた事があるので、逆鱗にだけは絶対触れないでおこうと誓ったものである。

でも実際それは異質であるジョナサンを孤児院メンバーや学校のクラスに馴染む為に色々やってくれてたんじゃ無いかと思うのだ。自分自身異質故に、そう感じさせない様にと。

今思えば不思議だった、あんなにも珍しい紫色の瞳の子供が捨て子なのが...本来産まれれば娼婦であっても賢者にもなれると喜ぶはずなのに...そう考えると自然とみんな思うのだ『きっと人には絶対に言えない間柄から産まれた子じゃないのか?』と。

そして薄々それを肌で感じ取っていたのか、術士にと勧められても『もうフラウエン教会の司祭を目指す為に修道士になるって決めてるので』と神に従う道を歩んでいくのを選んでおり、フラウエン教会での奉仕にも子供のうちから進んで行っていたのだ。

きっと術士の道を歩んだら見たくもない物を見る結果になると思ったのだろう...そういう事には鼻が効くタイプだったから。

ただ転機というものは突然襲ってくるものだ、出会って三年目突然ディビッドはいなくなった。

預言者エステル様が神託を受けやって来た際に、大泣きしながら「ハイラントの血筋が!弟が生きていた!」とバーレに連れ帰ってしまったからだ。

司祭ナサニエルが『まさかあのいたずらっ子がハイラントの血筋だったとは...』と驚き...そして子供が急に居なくなった親の様な顔になったのは良く覚えている。(そして司祭の中ではいたずらっ子の認識なんだと思った)

「喜ばなきゃならないが、赤ちゃんの時から我が子の1人と思って育てていたからか寂しくてなぁ...神に仕える身なのになぁ...」

そう寂しそうにしていた姿を思い出す。

そんな感じでジョナサンもそこで学んでいたが、どうしても術士と拳闘士の能力両方が強く出て、そのままではと周囲や教会上層部からのスカウトもあり、15の時のエアヴァルドで1番の教育機関であるバーレの学校へと行く事になった。

その時にディビッドを見かける、ディビッドは何だかより一層イケメンになってて、やたらと女の子に人気が出ていたのを遠巻きで見ていたが、こちらに気がついてニコニコ昔から変わらない笑顔でやってきた...

「ジョナサン!久しぶりじゃないですか!なんだかやたらと大きくなってしまって!」

「久しぶりにあってそれかよ...そりゃあ拳闘士の家系だからデカくなんのは仕方ねぇよ、それこそ前よりモテまくってるなぁ」

当時15歳で190センチになっていたから、デカいとはよく言われ慣れていた。

「ジョナサンがここにいるって事は、術士に?」

「ああ、このままだと力のコントロール云々があるからちゃんとした所で学んで来いって言うからさ」

「そうですか」

その時なんだか悪巧みした笑顔を見過ごして無ければ今ジョナサンは『上級異端審問官』にはなっていなかっただろうな、と思うのだ。

まさかその後にディビッドの修行に付き合わされて、マキシムには「なかなかスジが良いな」と言われ、エステル様に目をつけられてしまい、そのまま飛び級で学校カリキュラムを終了した頃にはいつのまにか『黒の天秤』の座に居たからだ...正直あの姉弟に嵌められたとは思ったが、まぁ特殊な能力持ちのジョナサンには丁度良かったのかもしれないと思う。
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