転生するのが嫌で浮遊霊になりました

城戸©︎

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綻び

静かな叫び

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「はぁぁ…くそっ…どこ行っちまったんだよ」

図書委員の少年の独り言が聞こえた。

首を垂れてぶつぶつ言いながら図書館に向かっている。

校舎内はとても広い、図書館も俺には何処にあるか探すのは一苦労だ。

図書委員の少年は白い大きな建物に入って行った、恐らくここが図書館なのだろう。

ガラガラ

図書館の受付に小柄で可愛らしい女生徒がいた。

少年はその女生徒に会釈し挨拶をした。

「ちぃ~す」

「小寺くん、今日も最後までお願い出来る?私今日これから塾で…」

「わっかりましたぁ…清水先輩、今受験で大変ですもんね、俺やっときますよ」

「ごめんねぇ、いつもありがとう!星野さんも椎名さんも居ないのに最近小寺くんにずっとお願いしっぱなしで」

「いいっすよ、今度受験落ち着いたら….その….飯でも奢って下さい」

図書委員の少年は小寺と言うらしい、そして…恐らく…この…清水先輩が…好きなんだろう。

顔が真っ赤だ…分かりやすい…こいつバカなのか、真面目か!

図書委員の仕事もサボったりしないし悪いやつでは無いただのお人好しかと思ったら…

そういう事か!

わかりやすっ、清水先輩気付いてるよなこれは。

女生徒はくすりと笑った。

「分かった!ご飯…今度行こうね、図書委員の皆も一緒に。私奢るからさ!本当にありがとう。今日急ぐから。じゃあ悪いけどお先に!」

「うぃっす、お疲れ様っす」

女生徒は足早にその場を去ろうとしたその時、すれ違いざまに妙な違和感を感じた。

悪寒がした、目には見えない何か不快な悍ましい気配がしたのだ。

ただ幽霊である自分にも見えないのだから何かに取り憑かれた訳では無さそうだ、よく分からないのでその時はそのまま女生徒を見送った。

小寺は女生徒の後ろ姿を熱い眼差しで見つめていた。

皆も一緒に…か…

うーん…小寺よ…多分脈なしだ…元気出せ。

小寺もその言葉の意味を察したのか少し落胆気味だ。

「最近、先輩俺に任せっきりで図書委員の雑用一人でやってる気すんな。つまんねーなぁ、受験で忙しいからしゃあねぇか」

小寺が溜息をついて、そのまま受付に座ったタイミングで少年に合図を出して図書館に入った。

少年は受付で小寺に図書カードらしきものを渡した、そして小寺に話しかけた。

「あのっ…僕、みよ姉ちゃんの事で聞きたい事が…」

「ん?星野の知り合い?あぁ、そういや弟いたっけな?うちの小等部だったんだな」

小寺は少年を弟だと勘違いしたようだが、少年はそれも計算して咄嗟に呼び名を変えたのか?!

慌てる俺を他所に少年は冷静に小寺に尋ねた。

「はい、今行方不明になっていて手掛かりが無くて…知っている方達に話を聞いているんです、図書委員だったと聞いたもので…」

「俺、姉ちゃんと一緒に図書委員やってる小寺だ。
悪いなぁ、俺星野がどこにいるかさっぱり検討もつかないんだ。椎名なら何か知ってるかもしれないが、あいつも今学校休んでるし」

小寺は申し訳なさそうに答えた。

あぁ、教室で聞いた通りの情報しか得られないようだ、無駄足だったか….

ガッカリした俺に目配せをして、少年は引き続き小寺に尋ねる。

「その椎名さんと姉は仲が良かったんですか?仲が良いお友達とか?」

「…ん、仲良しとは違うかなぁ」

受付では話し辛いのか、小寺は受付に「離席中」と書かれた札を下げて本棚を整理していた一年の図書委員に声を掛けて少年を図書館の外に出るように促した。

「あっ、あのぉ…」

図書館の裏庭で小寺はバツの悪そうな顔をしながら話し出した。

「弟に話すのは気が引けるんだけど今行方不明になってるから心配だと思うし、正直に話すよ」

「はっ、はい、何か知ってるんですか?」

「さっき言った椎名ってやつ、星野とは前は仲良かったんだよ。だから一緒に図書委員やってたんだ。
だけど、何ヶ月か前に何かあったみたいで急に椎名は星野に冷たく当たる様になった」

「え…喧嘩でもしたんですか?」

「いや、原因はわかんねぇけど星野の事パシったりイジメみたいな事してたみたいで。星野が行方不明になる前に椎名と星野が揉めてるの見かけたやつがいたらしい」

やっぱり、椎名が関係しているのか…いじめ??何で…仲は良かったのに二人に何が….

「ただ、行方は俺にもわからないんだ、本当にごめんな」

「そうですか…わかりました」

少年は返事をしながら神妙な表情で何か考え込んでいる。

「小寺さん、姉は普段学校ではどんな感じでしたか?」

「あぁ、クラス違うから詳しく知らねーけど、あんまり社交的なタイプじゃないみたいでクラスじゃ一人でいる事が多かったみたいだけど…成績は学年で毎回上位で頭良いし、よく本読んでたよ。図書委員になったのも本が好きだからって言ってた。あ!そうだ!」

小寺は何かを思い出したように図書館に駆け出した。

「えっ、小寺さん!ちょっ…」

少年は俺に指示を仰ぐように目を合わせる。

「小寺、なんだかんだ色々知ってるじゃねーか、追いかけようぜ」

少年は俺の答えに頷き、小寺を追いかけて図書館に戻った。

ガラッ

図書館に入るとちょうど小寺が入り口にいた。

「あっ、悪りぃ。星野が行方不明になる前にあいつ図書室に忘れてった本があったの思い出して…持ってこようと思って」

小寺は徐ろに本を差し出した。

「でも、それうちの図書館の本なんだ。桜澤あかりって作家、星野が好きな作家でここで借りてたまに持って帰って読んでたから。それも貸出期間過ぎてて、返さなきゃいけないやつなんだけど」

「ああ、桜澤あかり…部屋の本棚にあったライトノベル作家の本だな、おい、それちょっと小寺から借してもらえるか聞いてみてくれねぇか?」

少年はこちらに目配せして、小寺に切り出す。

「それ、少しお借りする事ってできますか?すぐお返ししますので」

「ああ、そのつもりで持ってきたからいいぜ。今日返却するつもりだから」

小寺はその本を少年に手渡した。

「ちなみに返却する場所ってどこですか?」

「ああ、そこ真っ直ぐ行って突き当たりの右端の本棚だ」

小寺は不思議そうな顔をしながら答えた。

少年は小寺の行った通りの場所へと向かう。

「おい、返す前に中見ないのかよ。返却する場所行ってどうすんだ」

俺は少年に呼びかけたが、少年は此方を真っ直ぐに見て何か確信を得た面持ちで

「大丈夫です、向こうの本棚で中も見ますから」
小声でそう囁き、本棚に向かった。











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