転生するのが嫌で浮遊霊になりました

城戸©︎

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出会い

人間観察

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「待って!おじさん!」

少年は俺を引き留めたが背を向けずその場を立ち去った。

これ以上あの場にいたら少年が不審に思われて精神を病んでいると思われ兼ねない。

それにこれ以上話する事もない。

もう二度と会う事もないだろう。

それから数日後、浮遊霊になった俺は自分が住んでいた街から暫く離れる事にした。

あの少年の事は少し気にかかるが、あのままあの街に居続けるのは些か気が滅入る。

自分が死んだ事を受け入れてここで幽霊として適当に彷徨うのも悪くはないと思った。

ただ…この生活は生きている事より酷く退屈で暇だ。

死ぬ、消えるという概念すらない、そんな存在。

生命が尊いものだとかそんな綺麗事のような表現は好きではないが、死んだら本当に無になって存在すら無くなる。

それこそ本当に無意味、無価値なのではないかと思った。

生きているだけで素晴らしいとか生きているだけで価値がある…大嫌いな言葉だったのに。


死んで肉体を失うのは本当に全ての終わりなのだと実感した。

死んだら楽になれると思ったのに、死んだ今も凄く不快だ。

全部あの通夜を見に行ったせいだ。

生きようが死のうが、碌な事がない。

死=無だと思っていたし、そうであって欲しかった。

死んでからも取り敢えず退屈だったので知らない街をうろついた。

誰も俺が見えない、だから好きなだけ人の生活を覗いても不信がられない。

知らない街の家賃が高そうな綺麗な高層マンションを数日観察してみた。

生きている時は他人に興味を持たなかったが、今はやる事もないし他人の生活を覗き見るのも退屈凌ぎには良いと思った。

全ての部屋を見るのは面倒だったので最上階の8階の5つの部屋を数日間観察した。

一番手前の801号室の部屋は幸せそうな温かい家族。

小学生の息子と中学生の娘にその母親、父親と4人暮らしの様だ。

毎朝楽しそうに食卓を囲んで笑顔で話す家族。

隣の部屋802号室は数日間明かりすら点かない。

部屋に家具などもあり生活感もある。

暫く帰宅していない様だ。

真ん中の803号室は結婚していそうな男女が二人暮らし。

ただ、起きる時間はバラバラ、それぞれ違う時間に毎朝出掛ける。

その隣の805号室はテーブルと椅子しかない殺風景な部屋に男が一人で暮らしている様だった。

テレビはないがノートパソコンがテーブルに置いてある。

一人でぶつぶつ言いながら床に寝転がっている。

角部屋の806号室は父親らしき中年の男と中学生~高校生らしき女の子。恐らく親子だろう。

母親らしき姿はない、毎朝決まった時間に父親が先に出勤し、その後娘らしき女の子がそのあと通学で部屋から出る。

会話は殆どないようだ。

それぞれの家庭、会話、様子を暫く注意深く見つめていた。




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