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06 貞操の危機
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「ままま、待って……」
ようやく口から出てきた言葉に、私はほっとした。
言えた! 言えたわ。少しの時間待って貰って落ち着いたら、そういう訳ではないって、誤解している様子の彼に説明が出来るはずよ!
社交界デビューしたてなのに、ハビエル様のような、大人気の騎士様と一夜を過ごしましたなんで、絶対良くないでしょう……!!
「……ああ。すまなかった。もしかして、歩く速度が速かったか?」
ハビエル様は私の呼びかけに応え歩くペースを緩めてくれて、顔を覗きこまれたけど、私はそんな彼に恥ずかしくなって顔を熱くして、無言になるしかない……!
「あのっ……っ」
近付いた時に感じた良い匂いと、近づき過ぎてもまったく支障のない整った顔に動揺して、何も言えないー!!
ちゃんと、彼に全部誤解ですって、説明すべきなのに!
「ん? ああ……ちゃん理解している。とりあえず、今から俺のすべきことは」
すっ……するべきこと?! 待って……!! 待って、絶対誤解してますよね?!
「私っ……ハビエル様……(そうではなくて、誤解があるようだから)っ……待ってください」
「ああ。知っての通り、俺は君のような令嬢とはあまり歩いたことがなくてな。悪かった。だが、気が急いてしまった」
……知っての通り……? 何が、どういうことなの??
皆知っての通りハビエル様は、先の王弟クラレット公爵の三男。そんな彼は女性に大人気の騎士団長様で、私だって皆だって、それは知っている。
けど……夜会に行けば貴族令嬢たちが、彼について語っていたのよ。
王家からの信頼も厚いハビエル様はきっと、王家の姫か公爵令嬢を妻にするだろうから、私たちになんて望みなんて、何もないわよねって……そんな彼が、令嬢とあまり歩いたことがない……?
これまでの私に対する態度を見れば、女嫌いという訳でもなさそうだ。私がおかしいことを言い出しただけで、彼は礼儀正しかったように思う。
ハビエル様は呆然とした私に考える隙を与えずにさっと横抱きにして、スタスタと廊下の先へと進んだ。
重さを感じさせない力強い腕に抱きかかえられ、私と手を繋いで歩いていた時より、彼の歩く速度は断然速くなった。
待って……私、私……このままだと、休憩室のベッドの上へと直行……そのまま、処女を捧げることにならなりますよね?!
うっ、嘘でしょう……!!
ただ私は苦手な異性との会話の練習を、しようと思っただけなのよ?!
必死な心の叫びなどもどこへやら、ハビエル様は長い足の歩みを緩めることなく、軽い足取りで階段を上がり、私はいよいよ彼に何か言わなければと非常に焦っていた。
しかし、そんな時に何か言葉が出せるようなら、こんなにも苦労してないですー!!
いけない……このままだと、人気の騎士団長様と一夜の恋の遊び相手で終わってしまう……!
その後、ふしだらな女だと後ろ指を刺されて、誰からも求婚されないなんて……絶対に嫌……!
喋って説明できないのなら、もうここは取り返しのつかないことになる前に舌を噛むしかないわ……私は覚悟を決めて、瞼を閉じた。
……お父様お母様、ごめんなさい。娘の死因は異性に対し口下手が過ぎたせいという、非常に情けない理由になってしまって、本当にごめんなさい。
そんなこんなで、ガチャリと蝶番の音がして、私はいよいよだと覚悟を決め閉じていた目を開いた。
……ら、びっくりし過ぎて声が出なかった。
ようやく口から出てきた言葉に、私はほっとした。
言えた! 言えたわ。少しの時間待って貰って落ち着いたら、そういう訳ではないって、誤解している様子の彼に説明が出来るはずよ!
社交界デビューしたてなのに、ハビエル様のような、大人気の騎士様と一夜を過ごしましたなんで、絶対良くないでしょう……!!
「……ああ。すまなかった。もしかして、歩く速度が速かったか?」
ハビエル様は私の呼びかけに応え歩くペースを緩めてくれて、顔を覗きこまれたけど、私はそんな彼に恥ずかしくなって顔を熱くして、無言になるしかない……!
「あのっ……っ」
近付いた時に感じた良い匂いと、近づき過ぎてもまったく支障のない整った顔に動揺して、何も言えないー!!
ちゃんと、彼に全部誤解ですって、説明すべきなのに!
「ん? ああ……ちゃん理解している。とりあえず、今から俺のすべきことは」
すっ……するべきこと?! 待って……!! 待って、絶対誤解してますよね?!
「私っ……ハビエル様……(そうではなくて、誤解があるようだから)っ……待ってください」
「ああ。知っての通り、俺は君のような令嬢とはあまり歩いたことがなくてな。悪かった。だが、気が急いてしまった」
……知っての通り……? 何が、どういうことなの??
皆知っての通りハビエル様は、先の王弟クラレット公爵の三男。そんな彼は女性に大人気の騎士団長様で、私だって皆だって、それは知っている。
けど……夜会に行けば貴族令嬢たちが、彼について語っていたのよ。
王家からの信頼も厚いハビエル様はきっと、王家の姫か公爵令嬢を妻にするだろうから、私たちになんて望みなんて、何もないわよねって……そんな彼が、令嬢とあまり歩いたことがない……?
これまでの私に対する態度を見れば、女嫌いという訳でもなさそうだ。私がおかしいことを言い出しただけで、彼は礼儀正しかったように思う。
ハビエル様は呆然とした私に考える隙を与えずにさっと横抱きにして、スタスタと廊下の先へと進んだ。
重さを感じさせない力強い腕に抱きかかえられ、私と手を繋いで歩いていた時より、彼の歩く速度は断然速くなった。
待って……私、私……このままだと、休憩室のベッドの上へと直行……そのまま、処女を捧げることにならなりますよね?!
うっ、嘘でしょう……!!
ただ私は苦手な異性との会話の練習を、しようと思っただけなのよ?!
必死な心の叫びなどもどこへやら、ハビエル様は長い足の歩みを緩めることなく、軽い足取りで階段を上がり、私はいよいよ彼に何か言わなければと非常に焦っていた。
しかし、そんな時に何か言葉が出せるようなら、こんなにも苦労してないですー!!
いけない……このままだと、人気の騎士団長様と一夜の恋の遊び相手で終わってしまう……!
その後、ふしだらな女だと後ろ指を刺されて、誰からも求婚されないなんて……絶対に嫌……!
喋って説明できないのなら、もうここは取り返しのつかないことになる前に舌を噛むしかないわ……私は覚悟を決めて、瞼を閉じた。
……お父様お母様、ごめんなさい。娘の死因は異性に対し口下手が過ぎたせいという、非常に情けない理由になってしまって、本当にごめんなさい。
そんなこんなで、ガチャリと蝶番の音がして、私はいよいよだと覚悟を決め閉じていた目を開いた。
……ら、びっくりし過ぎて声が出なかった。
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