3 / 9
03 憧れの騎士団長様
しおりを挟む
それとなくイザベラは視線を走らせた先には、任務中なのか誰とも話すこともなく、周囲にそれとなく警戒している様子の……とっても有名な騎士団長ハビエル・クラレット様。
ハビエル様はさらさらとした黒い髪と青い目を持ち、そして、端正に整った顔立ちで女性に人気がある方だ。
特筆すべきは、騎士として鍛え上げられた長身の身体。恐らく、彼には普通にしているつもりでも、接している側は、ただ居るだけで威圧されているように感じてしまうだろう。
「ああ……あの方は……すごく、その有名な団長様よね」
社交界デビューしてから、まだ三回目の夜会だけど、ハビエル・クラレットの名前は、何度も何度も噂話に聞いたものだ。
王家の血筋、先の王弟の息子で、公爵家の三男。現王の覚えもめでたい、近衛騎士団団長。
誰でも伴侶にと望めるのなら、きっと、高い身分を持つ王家の姫や公爵令嬢を妻に迎えるから、私たちなんて話しかけても無駄なのよ……と。
それも確かに、そうだろう。
高い身分に整った容姿、その上に公爵家の令息だからという訳でもなく、団長にまで登り詰めてしまう確かな実力まで兼ね備えている。
何でも持つ男性ハビエル・クラレット様なら、彼の望みうる最高の妻を迎えるはずだわ。それは、子どもでも理解することの出来る、簡単な道筋。
「……ええ。彼ならば正直なところ、私たちみたいな伯爵令嬢などより王家の姫や公爵令嬢でも妻にと望めるお方だし、全く望みがないならば、逆にシャーロットも気軽に話せるのではないかしら?
「……逆に?」
これは良いことを思いついた思ったのか、イザベラは可愛らしい顔でにっこりと微笑んだ。
「そうよ! シャーロットが異性と話すことに緊張してしまっているというのは、もしかしたら……自分と恋人になれるかもと、そう思っているからでしょう?」
「え……? ええ。そうね」
「使用人では、そういう対象になり得ないのだから、会話の練習をすることには何の意味もないわ。けれど、恋愛に発展するかもしれないという望みもなく、ただ仕事でその場にいらっしゃる男性と話す練習をすることは、別に許されると思うもの……喋る石像と思えば、それで良いのよ」
……喋る石像……!!
そうね。美々しいハビエル様は、彫像として形作られていてもおかしくないわ。
筋の通ったイザベラの提案に、私は何度もこくこくと頷いた。
そうよ……! そうだわ。
イザベラの言うとおり身分の違う使用人の男性ならば、貴族の私とは話すことも向こうから遠慮してしまうはずだけど……ハビエル様は貴族は貴族だけど、平凡な伯爵令嬢の私には望みはない。
望みはゼロだもの。いっそ気楽だわ。
「そうよね。ハビエル様が私のような、デビュー仕立ての伯爵令嬢を相手するはずもないんだから、気軽に話しかければ良いのだわ」
「ええ! そうよ。シャーロットだって、会話の練習が出来れば良いのよ。王家の王子でもなく、身分上は貴族ではあるけど、私たちなんて相手にしない、大人気の騎士団長様。なんだか、ちょうど良いわ」
彼に対し少々失礼なことを言いつつ、イザベラは悪気なく肩を竦めた。
「ええ……イザベラ。本当にその通りだわ」
女性に好かれそうなハビエル様ならば、絶対に女性慣れしているはずだし、迷惑ならば、適当にあしらってくれるだろうという勝手な安心感もある。
だから、私はそんな彼を会話をするための練習台にするため、なけなしの勇気を出して話しかけてみようと決心したのだった。
ハビエル様はさらさらとした黒い髪と青い目を持ち、そして、端正に整った顔立ちで女性に人気がある方だ。
特筆すべきは、騎士として鍛え上げられた長身の身体。恐らく、彼には普通にしているつもりでも、接している側は、ただ居るだけで威圧されているように感じてしまうだろう。
「ああ……あの方は……すごく、その有名な団長様よね」
社交界デビューしてから、まだ三回目の夜会だけど、ハビエル・クラレットの名前は、何度も何度も噂話に聞いたものだ。
王家の血筋、先の王弟の息子で、公爵家の三男。現王の覚えもめでたい、近衛騎士団団長。
誰でも伴侶にと望めるのなら、きっと、高い身分を持つ王家の姫や公爵令嬢を妻に迎えるから、私たちなんて話しかけても無駄なのよ……と。
それも確かに、そうだろう。
高い身分に整った容姿、その上に公爵家の令息だからという訳でもなく、団長にまで登り詰めてしまう確かな実力まで兼ね備えている。
何でも持つ男性ハビエル・クラレット様なら、彼の望みうる最高の妻を迎えるはずだわ。それは、子どもでも理解することの出来る、簡単な道筋。
「……ええ。彼ならば正直なところ、私たちみたいな伯爵令嬢などより王家の姫や公爵令嬢でも妻にと望めるお方だし、全く望みがないならば、逆にシャーロットも気軽に話せるのではないかしら?
「……逆に?」
これは良いことを思いついた思ったのか、イザベラは可愛らしい顔でにっこりと微笑んだ。
「そうよ! シャーロットが異性と話すことに緊張してしまっているというのは、もしかしたら……自分と恋人になれるかもと、そう思っているからでしょう?」
「え……? ええ。そうね」
「使用人では、そういう対象になり得ないのだから、会話の練習をすることには何の意味もないわ。けれど、恋愛に発展するかもしれないという望みもなく、ただ仕事でその場にいらっしゃる男性と話す練習をすることは、別に許されると思うもの……喋る石像と思えば、それで良いのよ」
……喋る石像……!!
そうね。美々しいハビエル様は、彫像として形作られていてもおかしくないわ。
筋の通ったイザベラの提案に、私は何度もこくこくと頷いた。
そうよ……! そうだわ。
イザベラの言うとおり身分の違う使用人の男性ならば、貴族の私とは話すことも向こうから遠慮してしまうはずだけど……ハビエル様は貴族は貴族だけど、平凡な伯爵令嬢の私には望みはない。
望みはゼロだもの。いっそ気楽だわ。
「そうよね。ハビエル様が私のような、デビュー仕立ての伯爵令嬢を相手するはずもないんだから、気軽に話しかければ良いのだわ」
「ええ! そうよ。シャーロットだって、会話の練習が出来れば良いのよ。王家の王子でもなく、身分上は貴族ではあるけど、私たちなんて相手にしない、大人気の騎士団長様。なんだか、ちょうど良いわ」
彼に対し少々失礼なことを言いつつ、イザベラは悪気なく肩を竦めた。
「ええ……イザベラ。本当にその通りだわ」
女性に好かれそうなハビエル様ならば、絶対に女性慣れしているはずだし、迷惑ならば、適当にあしらってくれるだろうという勝手な安心感もある。
だから、私はそんな彼を会話をするための練習台にするため、なけなしの勇気を出して話しかけてみようと決心したのだった。
341
お気に入りに追加
565
あなたにおすすめの小説
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
死亡フラグ立ち済悪役令嬢ですけど、ここから助かる方法を教えて欲しい。
待鳥園子
恋愛
婚約破棄されて地下牢へ連行されてしまう断罪の時……何故か前世の記憶が蘇った!
ここは乙女ゲームの世界で、断罪され済の悪役令嬢だった。地下牢に囚えられてしまい、死亡フラグが見事立ち済。
このままでは、すぐに処刑されてしまう。
そこに、以前親しくしていた攻略対象者の一人、騎士団長のナザイレが、地下牢に現れて……?
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
最難易度攻略対象者の溺愛お約束ルートに変更希望です!~恋愛下手過ぎて手伝ってもらうことになった転生ヒロインですが、大変で誰か助けて欲しい
待鳥園子
恋愛
乙女ゲーム『僕の心の扉を叩いて』通称『ここたた』に転生したものの、恋愛下手過ぎて、攻略が一番簡単なはずのメインヒーロージョヴァンニに話しかけることさえ出来ない。
「無理! 私にはリアル乙女ゲームなんて、本当に無理!」
絶対無理と攻略を諦めかけた私の前に、最高難易度攻略者レオナルドが現れ、可哀想だからと同情されて、彼がジョヴァンニ相手の恋愛指導してくれることになった……んだけど!?
乙女ゲーム転生ヒロインがどうしようと困っていたら、雨降って地が固まって大好きな攻略対象者と結ばれる話。
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる