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01 口下手なんです
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煌々と明るい大広間の中で、私は礼儀作法(マナー)通りにダンス終わり、スカートの裾を持ち頭を下げて礼をした。
そして、ダンス相手である男性へとお礼を言った。
「ダっ(ダンス楽しかった)っです……(誘っていただきまして)あ、ありがとうっ……ございましたっ……」
ああ……しまった……また、私……こんな簡単なお礼さえも、上手く言えない。
緊張が過ぎてどもってしまった私がじわっと涙のにじんだ目で見れば、ダンス中もこんな調子で会話が全く弾まず、つい先程熱心にダンスに誘ってくれたはずの長身の彼には、今ではもうしらけた空気が漂っていた。
「アヴェルラーク伯爵令嬢……こちらこそ、楽しいダンスをありがとう。それでは、良い夜を……」
紳士的なクラーク卿はにこやかで礼儀正しい態度を崩さず、それでも「俺たちは、あまり合わないようだ」というはっきりとした意志を行動で伝えるかのように、ダンス後の会話も楽しむことなく去って行った。
美しい可愛らしいと、ダンス中にあんなにも褒めてくれたのに、私は恥ずかしくて何も言えなくて……顔を俯かせて懸命に頷くだけだった。
褒めてくれているのに、無言のままで踊り続ける私に、あの人はきっと愛想をつかしたのだわ。
……はああ……また、駄目だった。
デビューしたばかりとは言え、声を掛けて貰ったのは彼で五人目。
社交が仕事の貴族たちには私がデビューしたばかりだと一目でわかってしまうのか、踊らないかと声は掛けて貰えるものの、その後会話が弾まないのでまったく実を結ばない。
確かに口下手だけど……異性と話す回数を重ねれば、だんだんと慣れていくものだとなんとなく思って居たけど……それって、本当に?
もしかして、私って一生、異性とまともに話すことが出来ないままで……生きていくのではないの?
「シャーロット! 先ほど踊っていたのは、人気のクラーク卿でしょう? もしかして、次の約束でも取り付けたの?」
快活な性格のイザベラは楽しそうに肩を叩き、絶望の渦に飲まれ泣きそうだった私の顔を覗き込むと、しまったと言わんばかりの表情でばつが悪そうに眉を下げた。
ええ。私……あちらから是非にと声を掛けられたというのに、数分後には見事振られてしまいました。
「彼は何も悪くないわ……とても良い方で、褒めてくれているというのに、私ったら……頷くだけで精一杯だったのよ」
そんな自分が情けなくて涙目になっている私に、戸惑ったイザベラは掛ける言葉に困っているようだ。
「え……! そうなの? けど、どうして? 感じの良い男性が褒めてくれているなら、感謝すれば良いと思うわ」
イザベラとはついこの前の社交界デビューの夜会で、初めて会って意気投合したばかり。彼女は私が男性に対してのみ、何故口下手なのかと不思議そうだ。
デビューの時にエスコートしてくれていた私の従兄弟と、彼の兄が知り合いでデビュー仕立てだから気が合って何度か話した。
だから、イザベラは私が限られた親族以外の異性と話す時、異常に緊張してしまう理由を知らない。
「異性と話す時、すごく緊張してしまうの。上手く話したいけどそう思ってしまうほどに、上手く話せなくて……お父様が外交官だから、ほとんど家に帰らなくて……男性がほとんど邸に居なかったから、話をすることに慣れていないのよ」
それは、私が生まれ育った特殊な家庭環境に原因があった。
そして、ダンス相手である男性へとお礼を言った。
「ダっ(ダンス楽しかった)っです……(誘っていただきまして)あ、ありがとうっ……ございましたっ……」
ああ……しまった……また、私……こんな簡単なお礼さえも、上手く言えない。
緊張が過ぎてどもってしまった私がじわっと涙のにじんだ目で見れば、ダンス中もこんな調子で会話が全く弾まず、つい先程熱心にダンスに誘ってくれたはずの長身の彼には、今ではもうしらけた空気が漂っていた。
「アヴェルラーク伯爵令嬢……こちらこそ、楽しいダンスをありがとう。それでは、良い夜を……」
紳士的なクラーク卿はにこやかで礼儀正しい態度を崩さず、それでも「俺たちは、あまり合わないようだ」というはっきりとした意志を行動で伝えるかのように、ダンス後の会話も楽しむことなく去って行った。
美しい可愛らしいと、ダンス中にあんなにも褒めてくれたのに、私は恥ずかしくて何も言えなくて……顔を俯かせて懸命に頷くだけだった。
褒めてくれているのに、無言のままで踊り続ける私に、あの人はきっと愛想をつかしたのだわ。
……はああ……また、駄目だった。
デビューしたばかりとは言え、声を掛けて貰ったのは彼で五人目。
社交が仕事の貴族たちには私がデビューしたばかりだと一目でわかってしまうのか、踊らないかと声は掛けて貰えるものの、その後会話が弾まないのでまったく実を結ばない。
確かに口下手だけど……異性と話す回数を重ねれば、だんだんと慣れていくものだとなんとなく思って居たけど……それって、本当に?
もしかして、私って一生、異性とまともに話すことが出来ないままで……生きていくのではないの?
「シャーロット! 先ほど踊っていたのは、人気のクラーク卿でしょう? もしかして、次の約束でも取り付けたの?」
快活な性格のイザベラは楽しそうに肩を叩き、絶望の渦に飲まれ泣きそうだった私の顔を覗き込むと、しまったと言わんばかりの表情でばつが悪そうに眉を下げた。
ええ。私……あちらから是非にと声を掛けられたというのに、数分後には見事振られてしまいました。
「彼は何も悪くないわ……とても良い方で、褒めてくれているというのに、私ったら……頷くだけで精一杯だったのよ」
そんな自分が情けなくて涙目になっている私に、戸惑ったイザベラは掛ける言葉に困っているようだ。
「え……! そうなの? けど、どうして? 感じの良い男性が褒めてくれているなら、感謝すれば良いと思うわ」
イザベラとはついこの前の社交界デビューの夜会で、初めて会って意気投合したばかり。彼女は私が男性に対してのみ、何故口下手なのかと不思議そうだ。
デビューの時にエスコートしてくれていた私の従兄弟と、彼の兄が知り合いでデビュー仕立てだから気が合って何度か話した。
だから、イザベラは私が限られた親族以外の異性と話す時、異常に緊張してしまう理由を知らない。
「異性と話す時、すごく緊張してしまうの。上手く話したいけどそう思ってしまうほどに、上手く話せなくて……お父様が外交官だから、ほとんど家に帰らなくて……男性がほとんど邸に居なかったから、話をすることに慣れていないのよ」
それは、私が生まれ育った特殊な家庭環境に原因があった。
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