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57 幸せ

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 もう……ここで自分は、終わりだって思った。

 私は両親の過去から続く因縁で外国に売られてしまうかもしれないけど、何の関係もないギャレット様を悲しませるのは、私は絶対に嫌だった。

 ……だとするのなら、私はここで命を断った方が良いのかもしれない。

 世界のどこかで……私が不幸だと思って探しても見つからずに苦しむよりは、美しい過去が汚されない方が良いのかもしれない。万が一には、無事に降り立って逃げられるかもしれない。

 最悪か、もっと悪い最悪か。私に今選べるのは、二つの選択肢しかない。

 この部屋には王妃と私と、扉辺りに何人かの男性が居た。おそらくこの家は逃げ出しようもないくらいに、包囲されていて……絶望的な状況だ。

 彼を悲しませたくない。騙そうとしたのに、それでも私を好きだって言ってくれたあの人を、不幸にしたくない。

 愛する人を喪ったとしても、乗り越えられる人だって居るのだから、きっと彼だってそうだ。

 ……そう思うしかない。ドレスの裾を持った私は素早く窓へと動いたので、この場に居た彼らは驚いたはずだ。

 そんな時にも、王妃は落ち着いて微笑んでいた。

 彼女にとっては、もうなんでも良いのだ。私がここで飛び降りて死んでも、外国で不幸になっても。不幸になることには、違いないから。

 人の不幸を願い祈っても、自分が不幸になってしまうだけなのに。

 もう、そんなこともどうでも良いんだ。

 私は窓を開き、新鮮な空気を吸った。そして、驚いた。その先に居る人を見て。

「っ……ギャレット様!」

「ローレン!? ローレン。俺を信じて飛び降りろ! 必ず受け止める! 早く!!」

 なんでギャレット様がと一瞬だけ思ったけど、彼を信じない理由が何もない私は、すぐに窓枠をよじのぼり飛び降りた。

 ふわっと体が宙に浮いたと思ったのは一瞬だけで、すぐに彼の逞しい腕の中に居た。私は感動で涙が出てきて、反射的に受け止めてくれた彼へと抱きついた。

「ギャレット! 会いたかったです……私、もう二度と会えないと思って……」

「ああ……ローレン。こんなに震えて、可哀想に……もう、大丈夫だ。王妃は……いいや、前王妃は、もう終わりだ。父上は俺の婚約者を誘拐した罪で、騎士団にも捕縛するように指示を出した」

「あっ……クイン……弟のクインは?」

 あの子を助けてと言いたかった私を落ち着かせるようにして、彼は背中を撫でた。

「クインも裏の馬車に乗せられそうになっていたところを、既に保護済だ。だから、もう大丈夫だ」

 さっきまでもう究極の二択を選ぶしかない私にとって、一瞬で地獄から天国へと移された気分だった。

 あまりの状況の変わりように、対応仕切れなくてくらくらと目眩が起きそう。クインが保護されて、私がギャレット様の腕の中なら、もう何の問題もない。

 助かったんだ。嘘みたい。

 元婚約者を捨ててお母様に走った過去のお父様の所業については、正直娘の私だとしても自業自得だと思ってしまうから、もう割愛させてもらう。

「でっ……でもですね! どうして、ここがわかったんですか?」

 ギャレット様は私が居るなら用は済んだとばかりに、さっき私たちが居た民家に背を向けて颯爽と歩き出した。
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