上 下
39 / 60

39 危ない

しおりを挟む
「知っています! お願いします。彼の命が危ないので」

 その時、城の中に入ろうとする何人かの不審な男を見えたのは、ほんの偶然だった。彼らは違う門番に紙を見せ、簡単に通っていた。

 同じような人が沢山居るのに、おかしいと思うのはおかしいかもしれない。けれど、どうしても違和感が拭えない。

 私が先んじて彼が狙われているという情報を持ち、危険が迫っていたことを知っていたせいかもしれない。

 妙な雰囲気を感じて空を見上げると、城壁の上に矢をつがえた弓兵が居る。

 待って……どうして、彼は城壁の中に弓を射ようとしているの?

 不穏な空気に私は居ても立っても居られなくなって、止める声も聞かずに走り出した。

 もちろん、門番は追いかけてくる。それはそうだ。私は不審者で、これは不法侵入になるもの。

 門を走り抜け、廊下を辿り広場のようなところで、何人かの兵と話し込んでいたギャレット様を見つけた。

 ……あの弓兵が狙っていたのは、やっぱり!

 私はギャレット様に近づこうとすると、周囲の男性が止めに入った。当たり前だ。私は今ではもう、ただの貴族の一人。

 彼の婚約者でもなんでもないんだから、もし王族と謁見するのなら、彼が望まない限りは定められた面会時間の中で順番待ちが通例だけど、そんなの今の状況で間に合わない。

「……ギャレットさまー!!! 早く屋内に、逃げてー!!! 早く、危ない!!!」

 私が後ろから追いかけてきた衛兵に羽交い締めにされながら、懸命に叫んだ。

 その声を聞いて、ギャレット様がこちらを振り返ったと同時に、何本かの矢は放たれて、私の背後から何人かが剣を持って走り出した。

 まるでその時だけ特別に、時間がゆっくりと進んでいるように見えた。

 まず、私に見えたのはギャレット様は纏っていた長いマントを外しそれを振り矢をいなし、腰の剣を抜いたと思ったら、さっき走って向かって行った何人かが既に倒れていた。

 流石、『雷の子』ギャレット様。早業過ぎて、私の目では追い切れなかった。

 私の声を聞き、反射的に自分を狙う暗殺者を倒したものの、本人には全く今の状況がつかめないのか、ギャレット様はきょとんとした顔をしていた。

 でも、良かった……!! ギャレット様が、助かった!!

 強い安堵のためか、涙が溢れて止まらなくなった。私がしゃくりを上げて泣いている音だけが、しんとした広場に響いていた。

「え……本当にローレンか? 何故、君がここに居るんだ?」

 信じられないと言わんばかりの、ギャレット様。

 それは、本当に彼だって驚くと思う。私は彼の婚約者であることから逃げて、大富豪の手を取ったはずなのに。

 それなのに、まだ彼のことが好きだから、こうしてみっともなく戻って来てしまった。

「……ごめんなさい。ごめんなさい。私っ」

 本当は、嫌な女のままで終わりたかった。

 あんな風に彼を傷つけておいて、私だって本当は辛かったなんて、思わせるなんて嫌だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の婚約者の苦手なもの

jun
恋愛
幼馴染みで婚約者のロイは文武両道のクールな美形で人気者。そんな彼にも苦手なものがある…それは虫。彼の周りには私には見えない虫が寄ってくるらしい。助けを求めて今日も彼は走ってくる!

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ
恋愛
 私、ミリアリア・フォン・シュツットはミターメ王国の第一王女として生を受けた。この国の外見の美しい基準は、存在感があるかないか。外見が主張しなければしないほど美しいとされる世界。  そんな世界で絶世の美少女として、我儘し放題過ごしていたある日、ある事件をきっかけに日本人として生きていた前世を思い出す。あれ?今まで私より容姿が劣っていると思っていたお兄様と、お兄様のお友達の公爵子息のエドワルド・エイガさま、めちゃめちゃ整った顔してない?  今まで我儘ばっかり、最悪な態度をとって、ごめんなさい(泣)エドワルドさま、まじで私の理想のお顔。あなたに好きになってもらえるように頑張ります! -------だいぶふわふわ設定です。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

私の好きなひとは、私の親友と付き合うそうです。失恋ついでにネイルサロンに行ってみたら、生まれ変わったみたいに幸せになりました。

石河 翠
恋愛
長年好きだった片思い相手を、あっさり親友にとられた主人公。 失恋して落ち込んでいた彼女は、偶然の出会いにより、ネイルサロンに足を踏み入れる。 ネイルの力により、前向きになる主人公。さらにイケメン店長とやりとりを重ねるうち、少しずつ自分の気持ちを周囲に伝えていけるようになる。やがて、親友との決別を経て、店長への気持ちを自覚する。 店長との約束を守るためにも、自分の気持ちに正直でありたい。フラれる覚悟で店長に告白をすると、思いがけず甘いキスが返ってきて……。 自分に自信が持てない不器用で真面目なヒロインと、ヒロインに一目惚れしていた、実は執着心の高いヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、エブリスタ及び小説家になろうにも投稿しております。 扉絵はphoto ACさまよりお借りしております。

白い初夜

NIWA
恋愛
ある日、子爵令嬢のアリシアは婚約者であるファレン・セレ・キルシュタイン伯爵令息から『白い結婚』を告げられてしまう。 しかし話を聞いてみればどうやら話が込み入っているようで──

処理中です...