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29 図書室

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 パッと目を見開いたら、すぐそこにギャレット様の美麗な顔があって、さっき見ていたはずの暗い悪夢の残滓は一瞬で消え去ってしまった。

 窓から差し込む眩い光と、曇りなき青い瞳の王子様。圧倒的な光量を前に心に後ろ暗いところのある私は、今にも消されてしまいそう。

 幻かなと思って何度か目を閉じて開いてを繰り返したんだけど、ギャレット様の顔は消えない。

 ということは、彼は本当にそこに居るということだった。

「え……? どうして?」

 自分でもびっくりするくらいに、かすれて寝ぼけた声が口から出て驚いた。

 両手にはざらりとした紙の感触。時間潰しにと物語を読んでいる間に、寝てしまったらしい。

 ここは私に用意されていた宮にある小さな図書室で、完全なる私室ではないけれど、誰もが簡単に入れるような空間ではない。

「俺は婚約者なんだが……現にここに入る時にも、誰にも止められなかった」

 苦笑したギャレット様は寝起きでなかなか思い通りにならない体を起こそうとした私を手伝いつつ、そう言った。

「そう……そうですね。申し訳ありません」

 そうだった。婚約者の私は単にこの宮を間借りしているというだけで、対してこの城の所有者の息子である彼は何処に行こうと勝手だから、何を言っているんだろう。私が何もかも間違っていた。

「いや。別に寝顔をまじまじと見るなと、怒ってくれても良い。ローレンは、いつまでも他人行儀だな……そろそろ、俺に慣れてくれても良いと思うんだが」

 ギャレット様はご自分が少しずつ距離を縮めようとしても、逆に後ずさって行くような私が不可解なようだ。

 それも、そうだと思う。

 彼から見ても、私は誰がどう考えてもギャレット様が好きで……それは隠せていないと思う。どれだけ冷たく対応したところで、彼本人には避けられている理由がわからないだろうから。

「ギャレット様に慣れることなんて、私にはきっと出来ないと思います……」

 彼という存在に慣れてしまえば、今の婚約者という立場を手放すことが耐え難くなってしまうだろう。

 そうすれば……メートランド侯爵家はどうなるの?

 イーサンが気まぐれを起こして借金は肩代わりしてもらえても、真面目なギャレット様は、自分を騙そうとした私をどう思うのだろうか。

 それに、ギャレット様は万が一許してくれたとしても、王は私を許さないだろう。現王イエルク様は規律に厳格で、不正は決して許さない人としても有名だ。

 ……それに、彼の義母である王妃様は、裏切った私をどうするだろうか。

 彼女のしようとしたことは、ただ義理の息子に自分の姪を充てがおうとしただけ。

 国家転覆を企んだ訳でもなければ、実家バイロン伯爵家に忖度したと少々醜聞が広まる程度で王妃の座は損なわれることなく彼女のものだろう。
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