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28 執着

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「久しぶりね。ローレン。随分とギャレットが、貴女を気に入ったようね。驚いたわ」

 それはもう何ヶ月か前にも報告したことだけど、お前程度が自惚れるなと一蹴したのは貴女ですよね?

 私たちの関係性でそんな生意気な返しを出来るはずもなく、私は黙ったままで頭を下げた。

「アニータ様。今のままでは、計画に支障があるのでは? 僕の目から見るとローレンは必死で距離を置こうとしていましたが、彼の方から距離を詰めていたようでした」

 イーサンは私の隣で跪き、頭を下げたままでそう言った。彼は平民なので、王妃に許されるまでは頭を上げられないのだ。本来なら王族にこうして拝謁が許されるのは、貴族だけだから。

 待って。ということは、イーサンは先ほどの私たちを見ていたってことかしら。

「……そうね。あの子がローレンにこれ以上執着すると、厄介だわ。デビュタントの日まで待てないわね。ベルセフォネの誕生日がもし来れば、あの子が王太子妃に内定していると言いやすいわ。もう少し、辛抱なさい。良いわね。ローレン」

 王妃は一方的にそう言ってから立ち上がると、こちらからの答えを待つことなく去って行った。

「……婚約者でなくなる時期が早まったのは、ローレンにとって良いこと?」

 完全に足音がなくなってから、イーサンは顔を上げてから悪戯っぽく笑った。

 この人もこういう、子どものような無邪気な笑顔を見せるんだ。

 非情で自分の利にならないものは容赦なく切り捨てているようだから、こういった可愛らしい表情を見せるとは思わなかった。

「はい……正直、このまま……ギャレット様の傍に居ることは、辛いです。いずれ裏切らなければならないから」

「そのまま、婚約者で居れば? あの色ボケ王子に全部話して、味方になって貰えば良い。王妃とて、王には逆らえまい」

 なんでもないことのように言ったイーサンが信じられなくて、私は驚いた。

 彼は何を言っているんだろう。

 だって、それって……姪を王太子妃にしたい王妃様を裏切り、報酬を貰えなくなることを意味している。

 借金は、確かにどうにかなるのかもしれない。君主たる王族であれば、見たこともないような財産を手にしているだろう。

 それで、助けて貰えるかしら?

 ……ううん。王妃様はクインが侯爵となるまで援助してくれることも約束してくれた。

「……いいえ。私は約束された報酬が欲しいです。もし、王から王太子を騙した罪で、メートランド侯爵家へ罰が下されれば? それを試してみるには、あまりに未確定な要素が多すぎます」

「やれやれ。素直にならない子は、素直な子には勝てないよ」

 イーサンはきっと、王妃様の企みもどうでも良いのだろう。ここで男爵位を貰えなくても、いずれどうとでもなると思っている。彼にはそれだけの実力があるから。

 私には、何もない。

「……私は父や弟を自分のために、踏みつけにすることはありえません」

「そう? まあ、俺は別にどっちでも良いけどね」

 イーサンはそう言い残して、去って行った。

 庭園の中は花盛りで、もうすぐ冷たい冬がやって来る。私は心を凍らせて、自分に与えられている役目を果たす。

 家族だけのためでもない。何よりも、自分が助かるために。
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