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13 区切り(side Garret)

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 国を継ぐべき王太子として生まれたからには、見知らぬ相手だとしてもこの相手と結婚しろと言われれば、黙って政略結婚をすべきであろうと考えていた。

 帝王学では役割と義務と、己の為すべき使命を学ぶ。そこには、個人的な感情が優先されることは一切ない。

 全を生かすために、個を殺す。王となる俺は頂点にありながら、犠牲になる個となる使命を負う。全が生き延びられるならば、それはほんの些細なことだ。

 もし、俺という個が消えれば、誰かが代わってその席に座るだろう。それだけの、単純な話。

 だから、ある日婚約者だと紹介された女を見た時にも、何の感慨も持てなかった。美しい娘だと思ったが、美しい女性なら城の中には腐るほど居る。俺はこの女と結婚して子をなすのかと思った、その程度だ。

 メートランド侯爵家が窮地にあることは、何年か前から有名だ。借金がある状況を知り、王太子妃になり王妃となれば与えられる金目当てだったかと思ったものの、俺の父母に選ばれたローレンには何の罪もない。

 そう思いつつも、彼女の詳しい事情を知れば、やはり嫌悪感が増した。金や地位目当ての人間は、俺の周囲に今まで腐るほど存在し、その度に数え切れぬほどに嫌な思いをして来たからだ。

 日課である剣技の鍛錬を終え、深夜に歩く城の渡り廊下は、昼日中のような騒がしい人通りもなくしんとしていた。

「アニータ様は、バイロン家の血筋からお前の妃を選ぶのかと思っていた。ギャレットの婚約者になりたいと本人が強く望んでいるからという理由で、メートランド侯爵家のご令嬢を選ぶとは。なんだか、意外だったな……」

 幼い頃から共に居る乳兄弟で専属護衛騎士のガレスは俺の婚約者について、首を捻った。前々からこうだろうと思っていた、自分の予想が外れたことに不満らしい。ガレスは強面でいかにも肉体派に見える大きな身体を持ってはいるが、見た目を裏切り頭脳派の切れ者だ。

 守られるべき王族ではあるものの、俺がその辺の護衛以上に剣を使えるのもあって、常に行動を共にする専属護衛騎士は彼一人だけだ。

 決められた政務に関する勉強の後は、騎士団の戦闘訓練に混じったり、剣技の稽古に励んだりと自由に時を過ごす。日々多くの人目に晒される生活を何十年と続けると、こうして人目のない時間を選んで城を歩きたくもなる。

 ミスヴェア王国には、現在これだと目に見えるような危機はなく、周辺国との関係も良好。国民の誰もがゆったりと思えるような、平和でのどかな時間が流れていた。

 それもこれも、亡き祖父と父が上手く国の舵取りをしてくれてたからだ。外交には特に力を入れ交渉上手だから、戦争もなく長く平和が続いていた。

 その代わり、平和ボケした貴族連中が国内で問題を起こすことも多い。前王妃派と現王妃派だ。つまり、王太子の俺と第二王子たる弟のアイゼアの代理戦争なようなものだ。ちなみに俺もアイゼアも、それをまったく望んではいない。父を困らせているのは、国外からの問題より彼らの方が比率が多いくらいだ。

 だからこそ、父親が貴族としての役目を果たしていないローレンが、俺の婚約者として選ばれたのかもしれない。彼女であるならば、俺の結婚に関してはどちらの陣営にも影響しない。
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