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11 嘘
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とんでもない事態の原因となったイーサンも一応は自分が悪いと思っているのか、必死で目配せをしてくるけど、お願いだから不自然だし止めて欲しい……。
「……ギャレット様。いいえ。何でもありません。彼とは、少し挨拶をしていただけですわ」
ギャレット様はゆっくりとこちらへと近づき、直立不動になっているイーサンを睨んだ。
「ローレン。君が誰かに対し怒っているなんて、ただ事ではないだろう……おい。お前。名前を名乗れ。何もなく済むとは、思っていないよな?」
先程まで戦闘していたから気が立っている様子のギャレット様は、当然のように自分の婚約者が他の男性と密会しているような現場を見つけて、大変ご立腹の様子だ。
もう。嘘でしょう。
こんな客席の裏側にまで本日の優勝者、ギャレット様が来るなんて。
イーサン。貴方が妙な余裕を見せてこんなことになったのだから、ここは上手くやってよ!
「ギャレット殿下。私は一商人のイーサン・ベッドフォードです。どうぞお見知りおきを……どうか、誤解しないでください! ただ、私はこちらのご令嬢が気分が優れなさそうだったので、ただお声がけしていただけなのです」
「なんだと……気分が? ローレン、そうだったのか? 大丈夫か?」
剣呑な空気だったギャレット様は私が体調不良ではないかと知ると、急に顔色を変えて心配してくれた。先ほどの怒りなども忘れ婚約者の体調を最優先にする、とても優しい人なのだ。
こんなにも優しい人に、私は笑顔で嘘をつく。
「ええ。体調を悪くして日陰で休もうと思っていたところに、こちらの男性から声をかけて頂いたのですわ。ですが、体が不調でつい機嫌が悪くなり、怒った声を出してしまいました……ベッドフォート様、ごめんなさい。本当にお恥ずかしいですわ」
ギャレット様がもし、今までの二人の会話の内容を知っていれば、イーサンが言った言葉に「それは嘘だろう。俺は話を聞いていたんだ」と、噛みついていたはずだ。
だから、この答えで間違えていないと思う。
「……そうか。俺が早とちりをして、妙な誤解をしてしまったようだ。ベッドフォード、悪かった。ローレンが世話になった……手を。俺が君の部屋へと連れていこう」
ギャレット様は何をするつもりなのかと戸惑う私をふわりと抱き上げ、なんなく横抱きにすると迷いなく廊下を歩き出した。
「わっ……重くないですか?」
「……ギャレット様。いいえ。何でもありません。彼とは、少し挨拶をしていただけですわ」
ギャレット様はゆっくりとこちらへと近づき、直立不動になっているイーサンを睨んだ。
「ローレン。君が誰かに対し怒っているなんて、ただ事ではないだろう……おい。お前。名前を名乗れ。何もなく済むとは、思っていないよな?」
先程まで戦闘していたから気が立っている様子のギャレット様は、当然のように自分の婚約者が他の男性と密会しているような現場を見つけて、大変ご立腹の様子だ。
もう。嘘でしょう。
こんな客席の裏側にまで本日の優勝者、ギャレット様が来るなんて。
イーサン。貴方が妙な余裕を見せてこんなことになったのだから、ここは上手くやってよ!
「ギャレット殿下。私は一商人のイーサン・ベッドフォードです。どうぞお見知りおきを……どうか、誤解しないでください! ただ、私はこちらのご令嬢が気分が優れなさそうだったので、ただお声がけしていただけなのです」
「なんだと……気分が? ローレン、そうだったのか? 大丈夫か?」
剣呑な空気だったギャレット様は私が体調不良ではないかと知ると、急に顔色を変えて心配してくれた。先ほどの怒りなども忘れ婚約者の体調を最優先にする、とても優しい人なのだ。
こんなにも優しい人に、私は笑顔で嘘をつく。
「ええ。体調を悪くして日陰で休もうと思っていたところに、こちらの男性から声をかけて頂いたのですわ。ですが、体が不調でつい機嫌が悪くなり、怒った声を出してしまいました……ベッドフォート様、ごめんなさい。本当にお恥ずかしいですわ」
ギャレット様がもし、今までの二人の会話の内容を知っていれば、イーサンが言った言葉に「それは嘘だろう。俺は話を聞いていたんだ」と、噛みついていたはずだ。
だから、この答えで間違えていないと思う。
「……そうか。俺が早とちりをして、妙な誤解をしてしまったようだ。ベッドフォード、悪かった。ローレンが世話になった……手を。俺が君の部屋へと連れていこう」
ギャレット様は何をするつもりなのかと戸惑う私をふわりと抱き上げ、なんなく横抱きにすると迷いなく廊下を歩き出した。
「わっ……重くないですか?」
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