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08 観覧席

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 ここ数年恒例のように続いている通り、王太子ギャレット様が闘技大会で優勝したので、婚約者の私は勝利の女神の代理として彼の頭に瑞々しい葉で造られた葉冠を被せた。

 広い広い闘技場はギャレット様への声援で溢れ、自国の王太子への喝采を贈っていた。

 半年前にギャレット様の婚約者となって、私は初めて闘技大会を観戦したのだけど、これは彼の持つ地位彼の父親などの忖度などは全く関係なく、単に実力通りの結果だった。

 まずギャレット様が持つ『雷の子』という二つ名が何を意味しているかと言うと、恐らく落雷の如き動きの速度と何か魔力を纏った剣が振り下ろされる音が、闘技場に鳴り響き尋常な威力ではなかった。まさしく、豪雨に鳴り響く落雷のような。

 ……ギャレット様は、ずるい。

 正統派美形でありつつ、戦闘には天賦の才を持ち、政務の勉強はサボるもことなく真面目で、女性相手の恋愛には少々不器用で可愛らしい一面も持つ。

 そんな彼の評判を知れば、うら若い未婚女性は誰しもギャレット様のお嫁さんになりたいと夢見るだろうし、自身も持つものに自信のある女性ならなんとかして手に入れたいと思うのも道理だろう。

 私はほど近くにある貴賓席に座る女性の姿を見つけ、やはり今日も来ていたのかと小さくため息をついた。

 当然よね。彼女は前々からギャレット様に好意があることを、全く隠そうともしないもの。

 一際目立つ豪華なドレスを纏い派手な髪型をしている彼女は、とある大国のお姫様。あんなにも目を引く格好をしているけど、表向きはお忍びでミスヴェア王国へやって来ている。

 世界でも有名な彼女ほどの人が公式に国に出入りすれば、こちらの国もあちらの国もそのために多くの人員を割くことになるだろう。だから、一応はお忍び。けれど、非公式だとしも主張の強い姫君であることは隠せない。

 つまり、半年前ほどにかの高貴な女性はギャレット様のことを気に入り、無理にでも彼との婚約の交渉を押し進めようとしたらしい。

 予定外の事態に焦った王妃様は、自分の姪が成人するまでの短期間ギャレット様の婚約者の席を埋めるだけの人材を慌てて探した。

 それが、私。
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