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03 お好きにどうぞ
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こういう少し子どもっぽいところだって、ギャレット様の魅力なのだ。真面目な人だから、驚いた私をからかっている様子なんて全くない。
女性関係には疎く真面目な性格で、良くわからない対応をする婚約者の本音を引き出すために、彼なりに必死で考えた言葉だったのだと思う。
けれど、ギャレット様のそういう気持ちには応えられない私は、こう答えるしかない。
「ギャレッド様のお気持ちや行動は婚約者だからと、私には縛れませんので。お好きにどうぞ。思う存分、女遊びを楽しまれてください」
物わかり良く私がそう言えば、ギャレッド様は見るからに機嫌を悪くした。
「っ……何でだよ! なんでそんなにも、冷たいんだ。ローレンは……俺を好きで……だから、俺の婚約者になったんだろう?!」
私は一時的な婚約者で貴方に対し恋愛感情を見せれば、すべての取引を反古にするという条件が課せられているので……言葉だけは貴方を好きと言い、態度では何も示せない。
そういった契約なのです。
「私の方はギャレット様をお慕いしておりますが、私たちは恋愛結婚ではなく、結局のところ家同士に都合の良い政略結婚です。他に好きな方が居る可能性もあることは、良く理解はしております。これからも決して、ギャレット様の邪魔は致しません」
笑顔できっぱりと言い切った私に、ギャレット様は慌てた様子で首を横に振った。
「他になんて……居るわけっ……もう良い!」
赤くなった顔を片手で覆いギャレット様はくるりと背中を向け、バタバタと足音高らかに去っていった。
彼の後ろ姿を追いかけるでもなく、じっと見送る私。あれ以上、何を言えるんだろう。
真面目で口下手なギャレット様は、とても可愛い。それは私だけではなく、成人だというのにこんな初々しい様子を見せる彼を見た人全員がそう思っているだろう。
私は貴方を好きになってはいけないだけです。なんたって、いずれ別れを告げる予定の期限付き婚約者ですもの。
年若い婚約者同士の痴話喧嘩とも言えないやりとりに、周囲は微笑ましそうな視線で見ていた。
決められた役割を演じているだけの私だけど……周囲からは意中の人と運良く婚約できたのに恥ずかしいから素っ気なくしてしまう不器用な令嬢と、それをどうにかしたくて必死な王子様に見えるのだろうか?
もし、本当にそうならば、さっきの恥ずかしい叫びだって可愛いわよね。
でも、時たま思ってしまう。
好意を隠さずに接してくれるギャレット様が何も言わずとも事情の何もかもを察してくれて、苦境にある私のことを助けてくれないかなって。
けれど、性格的に真面目なギャレット様は、どんな理由があろうが騙していた私を許さないだろうと思う……彼の気持ちを利用して、自分の家族を守ろうとした利己的な私を許せなくなるはずだ。
だから、これって単に起こりえない夢を見ているだけなのだけど……別に良いじゃない。逃げられない蟻地獄の中で、幸せになれる幻想を見たって。
私が今している事を良心的な他の誰に言えば、「人を騙すことは、良くない」とさとすことだろう。
けれど、それをしたら自分の家族を不幸から救えるとしたなら? 暗い夜に進む道を選ぶ人だって、きっと多いはず。
綺麗事だけでは生きていけないという世知辛い現実をまざまざと知っているからこそ、あんなにも純粋なギャレット様を騙すことに同意した私。
それでも……どうしても、苦しくなる。
私は自分の本当の気持ちをギャレット様に話すことは、この先ないだろうってわかっている。弟クインの侯爵位の確約と借金の帳消しの代わりに、それをする権利をもう手放してしまった。
胸が苦しい。彼がたとえ不器用だとしても私へ好意を示してくれる度に、辛くて堪らない。
ギャレット様がああして向けてくれるまっすぐで温かな愛情を、私は……何食わぬ顔をして、いつか裏切るしかないのだから。
女性関係には疎く真面目な性格で、良くわからない対応をする婚約者の本音を引き出すために、彼なりに必死で考えた言葉だったのだと思う。
けれど、ギャレット様のそういう気持ちには応えられない私は、こう答えるしかない。
「ギャレッド様のお気持ちや行動は婚約者だからと、私には縛れませんので。お好きにどうぞ。思う存分、女遊びを楽しまれてください」
物わかり良く私がそう言えば、ギャレッド様は見るからに機嫌を悪くした。
「っ……何でだよ! なんでそんなにも、冷たいんだ。ローレンは……俺を好きで……だから、俺の婚約者になったんだろう?!」
私は一時的な婚約者で貴方に対し恋愛感情を見せれば、すべての取引を反古にするという条件が課せられているので……言葉だけは貴方を好きと言い、態度では何も示せない。
そういった契約なのです。
「私の方はギャレット様をお慕いしておりますが、私たちは恋愛結婚ではなく、結局のところ家同士に都合の良い政略結婚です。他に好きな方が居る可能性もあることは、良く理解はしております。これからも決して、ギャレット様の邪魔は致しません」
笑顔できっぱりと言い切った私に、ギャレット様は慌てた様子で首を横に振った。
「他になんて……居るわけっ……もう良い!」
赤くなった顔を片手で覆いギャレット様はくるりと背中を向け、バタバタと足音高らかに去っていった。
彼の後ろ姿を追いかけるでもなく、じっと見送る私。あれ以上、何を言えるんだろう。
真面目で口下手なギャレット様は、とても可愛い。それは私だけではなく、成人だというのにこんな初々しい様子を見せる彼を見た人全員がそう思っているだろう。
私は貴方を好きになってはいけないだけです。なんたって、いずれ別れを告げる予定の期限付き婚約者ですもの。
年若い婚約者同士の痴話喧嘩とも言えないやりとりに、周囲は微笑ましそうな視線で見ていた。
決められた役割を演じているだけの私だけど……周囲からは意中の人と運良く婚約できたのに恥ずかしいから素っ気なくしてしまう不器用な令嬢と、それをどうにかしたくて必死な王子様に見えるのだろうか?
もし、本当にそうならば、さっきの恥ずかしい叫びだって可愛いわよね。
でも、時たま思ってしまう。
好意を隠さずに接してくれるギャレット様が何も言わずとも事情の何もかもを察してくれて、苦境にある私のことを助けてくれないかなって。
けれど、性格的に真面目なギャレット様は、どんな理由があろうが騙していた私を許さないだろうと思う……彼の気持ちを利用して、自分の家族を守ろうとした利己的な私を許せなくなるはずだ。
だから、これって単に起こりえない夢を見ているだけなのだけど……別に良いじゃない。逃げられない蟻地獄の中で、幸せになれる幻想を見たって。
私が今している事を良心的な他の誰に言えば、「人を騙すことは、良くない」とさとすことだろう。
けれど、それをしたら自分の家族を不幸から救えるとしたなら? 暗い夜に進む道を選ぶ人だって、きっと多いはず。
綺麗事だけでは生きていけないという世知辛い現実をまざまざと知っているからこそ、あんなにも純粋なギャレット様を騙すことに同意した私。
それでも……どうしても、苦しくなる。
私は自分の本当の気持ちをギャレット様に話すことは、この先ないだろうってわかっている。弟クインの侯爵位の確約と借金の帳消しの代わりに、それをする権利をもう手放してしまった。
胸が苦しい。彼がたとえ不器用だとしても私へ好意を示してくれる度に、辛くて堪らない。
ギャレット様がああして向けてくれるまっすぐで温かな愛情を、私は……何食わぬ顔をして、いつか裏切るしかないのだから。
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