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58 死を待つ時間②
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「……アーロン。大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ。よくやった。ブランシュ。君は立派なキーブルグ侯爵家の人間だ。俺が認めたんだから、誰にも文句は言わせない」
「……兄上! あにうえ!! 助けてくれ!!」
刺されてもアーロンは痛がらずにじっと耐えて反撃する機会を窺っていたけれど、ヒルデガードは痛みに弱いのかのたうち周り、見たくもないくらいにひどい有り様だった。
「父が勘当したあの時から、お前は弟でもなんでもない……ああ。やばいな……目が、見えなくなって来た」
「アーロン? ああ!」
唐突に倒れ込んだアーロンに、私は驚き慌てて彼の身体を支えた。
「悪い。顔をよく見せてくれ。最後に……」
「それ以上、何も言わないで!!」
私の悲鳴交じりの高い声にアーロンは驚いているのか、死にかけているはずなのに、とても驚いている表情になった。
「ブランシュ……俺は」
アーロンに遺言めいた言葉なんて、絶対に言わせない。私の自分勝手だって、いくらでも罵られても構わない。
「……諦めないで死なないで!! 私が死ぬまでは、絶対に生きていて欲しいの!!!」
「ブランシュ……?」
アーロンは私が声の限りに叫んだ言葉に、驚いていた。
「もう……アーロンが生きていたらって思って生きるのは、嫌なの! 絶対に生きて!!」
「……悪かった。大丈夫だ。泣かないでくれ」
その時に、私はようやく自分が泣いている事に気がついた。
……泣いていて、何が変わるって言うの。アーロンの傷が奇跡的に治るとでも……?
そんな訳ない。助けるためには……私以外の手が必要なのよ!
「アーロン。待ってて。助けを呼んでくるから」
周囲を見回しても、どこの扉も固く閉ざされている。ヒルデガードはまだ悲鳴をあげて転がり回っているし、不気味な何かが起こっていると思われても仕方ない。
私はアーロンの身体を丁寧に寝かせると、近くにあった扉を叩いた。
「すみません! すみません! どうか、どうか開けてください! お願いします!」
何度叩いても、誰も出て来てくれない。こんな良くわからない刃傷沙汰に巻き込まれたくないと思って居るのだろう。
……私だって、そう思うかも知れない。誰も責められない。私たちは貴族には見えない服を着ていたし、アーロンがいきなり刺されたとしても、完全な被害者であるなんて、事情をわかってもらえないとわからないはずだもの。
何軒も何軒も扉を叩いては無視されたけれど、私は諦めたくなかった。アーロンの怪我は深くて大きい。こんな事をしている内に、手遅れになってしまうかもしれない。
けれど、こうするしかなかった。アーロンの怪我を治せるような何か……彼の助けになるようなことをせずには居られない。
「お願いします!! 開けてください! 夫が死にそうなんです!」
ただ死を待つだけの時間を過ごすなんて、嫌だもの。
私は近くにある扉をすべて周り、何度も叩いて、開いてくれ助けてくれと回った。けれど誰も出てこない。誰しも考えることは同じなのかもしれない。
そして、村の外れにある小さな小屋を見て、藁にも縋る思いで、その扉を叩いた。
「ああ。大丈夫だ。よくやった。ブランシュ。君は立派なキーブルグ侯爵家の人間だ。俺が認めたんだから、誰にも文句は言わせない」
「……兄上! あにうえ!! 助けてくれ!!」
刺されてもアーロンは痛がらずにじっと耐えて反撃する機会を窺っていたけれど、ヒルデガードは痛みに弱いのかのたうち周り、見たくもないくらいにひどい有り様だった。
「父が勘当したあの時から、お前は弟でもなんでもない……ああ。やばいな……目が、見えなくなって来た」
「アーロン? ああ!」
唐突に倒れ込んだアーロンに、私は驚き慌てて彼の身体を支えた。
「悪い。顔をよく見せてくれ。最後に……」
「それ以上、何も言わないで!!」
私の悲鳴交じりの高い声にアーロンは驚いているのか、死にかけているはずなのに、とても驚いている表情になった。
「ブランシュ……俺は」
アーロンに遺言めいた言葉なんて、絶対に言わせない。私の自分勝手だって、いくらでも罵られても構わない。
「……諦めないで死なないで!! 私が死ぬまでは、絶対に生きていて欲しいの!!!」
「ブランシュ……?」
アーロンは私が声の限りに叫んだ言葉に、驚いていた。
「もう……アーロンが生きていたらって思って生きるのは、嫌なの! 絶対に生きて!!」
「……悪かった。大丈夫だ。泣かないでくれ」
その時に、私はようやく自分が泣いている事に気がついた。
……泣いていて、何が変わるって言うの。アーロンの傷が奇跡的に治るとでも……?
そんな訳ない。助けるためには……私以外の手が必要なのよ!
「アーロン。待ってて。助けを呼んでくるから」
周囲を見回しても、どこの扉も固く閉ざされている。ヒルデガードはまだ悲鳴をあげて転がり回っているし、不気味な何かが起こっていると思われても仕方ない。
私はアーロンの身体を丁寧に寝かせると、近くにあった扉を叩いた。
「すみません! すみません! どうか、どうか開けてください! お願いします!」
何度叩いても、誰も出て来てくれない。こんな良くわからない刃傷沙汰に巻き込まれたくないと思って居るのだろう。
……私だって、そう思うかも知れない。誰も責められない。私たちは貴族には見えない服を着ていたし、アーロンがいきなり刺されたとしても、完全な被害者であるなんて、事情をわかってもらえないとわからないはずだもの。
何軒も何軒も扉を叩いては無視されたけれど、私は諦めたくなかった。アーロンの怪我は深くて大きい。こんな事をしている内に、手遅れになってしまうかもしれない。
けれど、こうするしかなかった。アーロンの怪我を治せるような何か……彼の助けになるようなことをせずには居られない。
「お願いします!! 開けてください! 夫が死にそうなんです!」
ただ死を待つだけの時間を過ごすなんて、嫌だもの。
私は近くにある扉をすべて周り、何度も叩いて、開いてくれ助けてくれと回った。けれど誰も出てこない。誰しも考えることは同じなのかもしれない。
そして、村の外れにある小さな小屋を見て、藁にも縋る思いで、その扉を叩いた。
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