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50 町歩き②
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◇◆◇
意外なことに……と言ってしまっては、失礼かもしれないけれど、アーロンとの町歩きは本当に楽しいものだった。
私を誘うと決めてから、女性の好みそうなお店を調べていてくれたのか、見て居るだけでも楽しそうなお店を次々に何軒も回った。
いくつか買う物を決めたけれど、サイズ直しや調整が必要なものが多いので、後日邸へと持って来てくれるらしい。
本当に、楽しかった。私はこういう楽しみが、母を亡くしてから失ってしまっていたから。
馬車に揺られてキーブルグ侯爵邸へと帰る途中、私は楽しかったデートのお礼を彼に伝えることにした。
「私……失礼かもしれないのですが、こういった事が苦手そうな旦那様が、私のために楽しませようと努力してくださったことが、とても嬉しかったです。ありがとうございます」
「……いや、ブランシュが喜んでくれて嬉しい。俺もそれを聞いて安心した」
優しく微笑んでくれたアーロンは、これまでに見てきた荒々しい部分が嘘だったようだ。
やはり、庭師サムが私に言ってくれた通りだった。軍人として他方に舐められてはいけないと、怖い部分もあるけれど、夫アーロンは思いやりがありとても優しい人なのだと。
「アーロン。その……アーロンは帰って来た時の印象が強くて、怖くてどう思って居るかわからなくて……これまでちゃんと話せずに、ごめんなさい」
「いいや。俺が悪かった。もう少し早くに君に打ち明けていれば、こんなことには」
「アーロンは何も悪くないです……私だって、アーロンと向き合う事を避けていましたから」
アーロンは慌てて謝ってくれたけれど、彼を避けずに言葉を交わすことが出来ていれば誤解することもなかった。
「では、これからは避けないでくれ。俺はそれで良い。もう他人行儀は終わりにしよう。俺たちは夫婦なんだから」
「はい……あ。そうです・これを」
私はアーロンに、先ほどの店で買った紙袋を手渡した。
「……ブランシュ?」
アーロンは本日購入した物は後日邸に届くだろうと思っていただろうから、紙袋を見て不思議そうだった。紙袋を開ければ黒い手袋があり、彼は驚いた表情で私を見て居た。
「あの、アーロンが気になっていたようなので……私も、一応現金を持っていたから」
アーロンは気になっていたようだけど、今回は私を楽しませることに集中しようとしたのか、それを置いて買わなかったのだ。
手袋を握ったアーロンは無言のままで動かず、私は少し緊張していた。
喜んで貰えると思ったのに、何も言わないなんて……もしかしたら、私は差し出がましいことをしてしまったかもしれない。
「……アーロン?」
「ブランシュ! なんて俺の妻は可愛いんだ! ああ……君と結婚出来て、本当に良かったよ」
アーロンはそう言って隣に座っていた私を抱きしめたので、どうやら喜びのあまり黙っていただけのようだったので、私もほっと安心した。
「ふふ……喜んで貰えて、良かったです」
「喜ぶというか……感激だよ。ブランシュは本当に可愛い。愛している……君を守るためになら、何度だって死ねる」
「死なないでください!」
私は慌ててそう言うとアーロンは微笑み、そのまま顔を近づけると口づけをした。
「ああ……絶対死なない。君を残しては、死ねない。地獄からだとしても、いくらでも舞い戻って来るよ」
アーロンは『血煙の軍神』とまで呼ばれて、戦術の天才だと称されているらしい。
生涯不敗を誇る彼さえ居れば、戦いに敗れることはないのだと……けれど、私はこう思った。
「アーロンが生きていれば、それだけで良いです。私は貴族でなくても構わないから……貴方に生きて居て欲しいです」
母が生きていてくれれば……そう思って、何年も生きて居た。
結婚してからもアーロンが生きて居てくれればと、そう思って居た。だから、彼が生きて居た奇跡を、もう私は二度と失いたくなかった。
意外なことに……と言ってしまっては、失礼かもしれないけれど、アーロンとの町歩きは本当に楽しいものだった。
私を誘うと決めてから、女性の好みそうなお店を調べていてくれたのか、見て居るだけでも楽しそうなお店を次々に何軒も回った。
いくつか買う物を決めたけれど、サイズ直しや調整が必要なものが多いので、後日邸へと持って来てくれるらしい。
本当に、楽しかった。私はこういう楽しみが、母を亡くしてから失ってしまっていたから。
馬車に揺られてキーブルグ侯爵邸へと帰る途中、私は楽しかったデートのお礼を彼に伝えることにした。
「私……失礼かもしれないのですが、こういった事が苦手そうな旦那様が、私のために楽しませようと努力してくださったことが、とても嬉しかったです。ありがとうございます」
「……いや、ブランシュが喜んでくれて嬉しい。俺もそれを聞いて安心した」
優しく微笑んでくれたアーロンは、これまでに見てきた荒々しい部分が嘘だったようだ。
やはり、庭師サムが私に言ってくれた通りだった。軍人として他方に舐められてはいけないと、怖い部分もあるけれど、夫アーロンは思いやりがありとても優しい人なのだと。
「アーロン。その……アーロンは帰って来た時の印象が強くて、怖くてどう思って居るかわからなくて……これまでちゃんと話せずに、ごめんなさい」
「いいや。俺が悪かった。もう少し早くに君に打ち明けていれば、こんなことには」
「アーロンは何も悪くないです……私だって、アーロンと向き合う事を避けていましたから」
アーロンは慌てて謝ってくれたけれど、彼を避けずに言葉を交わすことが出来ていれば誤解することもなかった。
「では、これからは避けないでくれ。俺はそれで良い。もう他人行儀は終わりにしよう。俺たちは夫婦なんだから」
「はい……あ。そうです・これを」
私はアーロンに、先ほどの店で買った紙袋を手渡した。
「……ブランシュ?」
アーロンは本日購入した物は後日邸に届くだろうと思っていただろうから、紙袋を見て不思議そうだった。紙袋を開ければ黒い手袋があり、彼は驚いた表情で私を見て居た。
「あの、アーロンが気になっていたようなので……私も、一応現金を持っていたから」
アーロンは気になっていたようだけど、今回は私を楽しませることに集中しようとしたのか、それを置いて買わなかったのだ。
手袋を握ったアーロンは無言のままで動かず、私は少し緊張していた。
喜んで貰えると思ったのに、何も言わないなんて……もしかしたら、私は差し出がましいことをしてしまったかもしれない。
「……アーロン?」
「ブランシュ! なんて俺の妻は可愛いんだ! ああ……君と結婚出来て、本当に良かったよ」
アーロンはそう言って隣に座っていた私を抱きしめたので、どうやら喜びのあまり黙っていただけのようだったので、私もほっと安心した。
「ふふ……喜んで貰えて、良かったです」
「喜ぶというか……感激だよ。ブランシュは本当に可愛い。愛している……君を守るためになら、何度だって死ねる」
「死なないでください!」
私は慌ててそう言うとアーロンは微笑み、そのまま顔を近づけると口づけをした。
「ああ……絶対死なない。君を残しては、死ねない。地獄からだとしても、いくらでも舞い戻って来るよ」
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「アーロンが生きていれば、それだけで良いです。私は貴族でなくても構わないから……貴方に生きて居て欲しいです」
母が生きていてくれれば……そう思って、何年も生きて居た。
結婚してからもアーロンが生きて居てくれればと、そう思って居た。だから、彼が生きて居た奇跡を、もう私は二度と失いたくなかった。
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