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49 町歩き①
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翌日は少しだけ風邪気味だったけれど、私はすぐに体調を治すことが出来た。
アーロンが呼んでくれたという若い医者が朝から往診してくれていたし、高価な薬だって今は飲むことが出来た。
エタンセル伯爵家では、風邪をひいたとしも、私はただベッドで眠るしか出来なかった。それを思えば、今は夢のような生活を送れていた。
翌日、朝食を取りに来たアーロンと対面する際に、私は少しだけ緊張していた。
だって、私は大きな勘違いをしていた。アーロンは私を知っていたし、私と結婚するために将軍になったと聞いた。
既に誤解は解けていて……彼が私のことを曇りなく好きでいてくれることは、わかっていた。
「おはよう。ブランシュ。身体は、もう大丈夫なのか?」
いつもと変わらない様子でそう聞かれたので、先に席についていた私は彼の問いに慌てて頷いた。
「……ええ。ありがとう。アーロンの呼んでくれたお医者様が処方してくれたお薬が良かったのね」
風邪をひいた時に、こんなにも早く回復したのは初めてだった。
「あれは、キーブルグ家にゆかりのある家の医者なんだ。口は悪いけど、腕は確かだっただろう?」
なんでも、私を見てくれた医者の彼は、元々は先祖に仕えていた従軍医の家系らしい。アーロンとは旧知の仲でそんな関係だというのに、全く遠慮しないのだとか。
アーロンから話を聞きながら朝食を取っていると、私は彼が軍服を着ていないことに今更気がついた。
これまで夫は、戦後処理などが大変で、日中は城で仕事をすることが多かったのだ。
「あの……アーロン。もしかして、今日は休日ですか?」
私がそう聞くと、アーロンは苦笑して頷いた。私は彼が登城すると思い込んでいたし、それを彼も悟ったのだろう。
「そうだ。帰って来てからというもの、仕事が終わらずに留守がちになり、すまなかった。夫婦らしいことも出来ずに、誤解を生んでも仕方なかった」
「いえ。そんな……アーロンは、大事な役目があるもの。忙しかったというのも、仕方がないわ」
「それで、ブランシュ。今日は俺と町歩きしてくれないか」
少々緊張した様子でアーロンは切り出し、私は驚いた。
「まあ……町歩きを?」
そういえば、私たちは会えないままの結婚式から一年、夜会には一緒に出たことはあるけれど、町歩きなんて一度もしたことはなかった。
だからこそ、この提案を聞いて喜んだ。
「絶対に楽しませる。ブランシュは家で仕事ばかりをしていたそうだから、買い物だってなんだって楽しめば良いんだ」
「私は奥様の要求を最優先にするように、旦那様から事前にご命令を受けておりましたので」
その時に傍に居たクウェンティンをチラリと睨み付けたので、優秀な執事は肩を竦めた。
アーロンが呼んでくれたという若い医者が朝から往診してくれていたし、高価な薬だって今は飲むことが出来た。
エタンセル伯爵家では、風邪をひいたとしも、私はただベッドで眠るしか出来なかった。それを思えば、今は夢のような生活を送れていた。
翌日、朝食を取りに来たアーロンと対面する際に、私は少しだけ緊張していた。
だって、私は大きな勘違いをしていた。アーロンは私を知っていたし、私と結婚するために将軍になったと聞いた。
既に誤解は解けていて……彼が私のことを曇りなく好きでいてくれることは、わかっていた。
「おはよう。ブランシュ。身体は、もう大丈夫なのか?」
いつもと変わらない様子でそう聞かれたので、先に席についていた私は彼の問いに慌てて頷いた。
「……ええ。ありがとう。アーロンの呼んでくれたお医者様が処方してくれたお薬が良かったのね」
風邪をひいた時に、こんなにも早く回復したのは初めてだった。
「あれは、キーブルグ家にゆかりのある家の医者なんだ。口は悪いけど、腕は確かだっただろう?」
なんでも、私を見てくれた医者の彼は、元々は先祖に仕えていた従軍医の家系らしい。アーロンとは旧知の仲でそんな関係だというのに、全く遠慮しないのだとか。
アーロンから話を聞きながら朝食を取っていると、私は彼が軍服を着ていないことに今更気がついた。
これまで夫は、戦後処理などが大変で、日中は城で仕事をすることが多かったのだ。
「あの……アーロン。もしかして、今日は休日ですか?」
私がそう聞くと、アーロンは苦笑して頷いた。私は彼が登城すると思い込んでいたし、それを彼も悟ったのだろう。
「そうだ。帰って来てからというもの、仕事が終わらずに留守がちになり、すまなかった。夫婦らしいことも出来ずに、誤解を生んでも仕方なかった」
「いえ。そんな……アーロンは、大事な役目があるもの。忙しかったというのも、仕方がないわ」
「それで、ブランシュ。今日は俺と町歩きしてくれないか」
少々緊張した様子でアーロンは切り出し、私は驚いた。
「まあ……町歩きを?」
そういえば、私たちは会えないままの結婚式から一年、夜会には一緒に出たことはあるけれど、町歩きなんて一度もしたことはなかった。
だからこそ、この提案を聞いて喜んだ。
「絶対に楽しませる。ブランシュは家で仕事ばかりをしていたそうだから、買い物だってなんだって楽しめば良いんだ」
「私は奥様の要求を最優先にするように、旦那様から事前にご命令を受けておりましたので」
その時に傍に居たクウェンティンをチラリと睨み付けたので、優秀な執事は肩を竦めた。
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