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44 嘘②
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「そうでした……アーロン。私を海に突き落としたのは、あの人なのです。貴方の愛人を装ってキーブルグ侯爵邸に居た……サマンサさんだったのです」
「……なんだと?」
今までのアーロンであれば、怒りのあまりここで怒鳴ってしまっていたかもしれない。けれど、彼は激しい怒りの表情を一瞬見せただけで、何度か大きく息を吐いて自分を落ち着かせているようだった。
「旦那様……今は奥様を抱きかかえたままですので」
クウェインティンのたしなめるような言葉を聞いて、アーロンは頷いた。
「わかっている。俺だって何度かやらかしてしまったことの、自覚はあるんだ。あの女……確か、子どもを置いて逃げ去ったと聞いたが」
「ええ。そのように聞いております。子どもを預けた慈善院には旦那様の言いつけ通り、定期的に物資を届けておりますが、シスターたちに育てられて、すくすくと育っていると……」
「つまり、あの女は迎えに行ってはいないんだな……自分の子どもなのにか」
アーロンはここで考え込むような様子を見せたけれど、立ったまま話すのもと思ったのか、近くにある馬車へと乗り込んだ。
「……奥様。スカートを外したんですね」
「ええ。貴方の講義を聴いていたから、命拾いしたわ。ありがとう。クウェンティン」
「何の話だ?」
私たちの会話の内容を掴み切れなかったのか、アーロンはそう言ったので、クウェンティンは苦笑して答えた。
「いいえ。旦那様。水中に誤って落ちた場合は、奥様のようなドレスを着た女性はなかなか泳ぐことが難しいです。ですから、スカート部だけを外せば、身軽になり泳ぐことが出来るとお教えしていたのです」
「クウェンティン……ブランシュが助かったから、それは良いが。他に余計な事は教えていないだろうな?」
眉を寄せたアーロンが尋ねると、クウェンティンは涼しい表情で軽く頷いた。
「余計な事ではないんですが……奥様たってのご希望で、領地経営と財務管理についてはお教えしております」
「……ブランシュに、何を教えているんだ。優雅に暮らす貴族夫人だぞ」
「私の希望なのです。アーロンが不在の時に、何もしないという訳にはいかず……」
アーロンは自分が居ない間は、私に邸に居るだけで良いとクウェンティンに命令していたはずなのだ。けれど、それを押し切って仕事をしたいと申し出たのは私だ。
「奥様は現在、他の領地の代官として仕事が出来るまでに成長されました。僕も教師として、とても鼻が高いです」
「ええ。クウェインティンは本当に教え方が上手で、良い教師でした」
「お前……いや、もう良い。ブランシュ。海に落とされた時の状況と、そして、あの女の様子を出来るだけ詳細に教えてくれ」
私はクウェンティンと仲良く微笑み合い、そんな二人を見てアーロンは頭が痛いとばかりに額に手を置いて、話を変えることにしたようだった。
「……なんだと?」
今までのアーロンであれば、怒りのあまりここで怒鳴ってしまっていたかもしれない。けれど、彼は激しい怒りの表情を一瞬見せただけで、何度か大きく息を吐いて自分を落ち着かせているようだった。
「旦那様……今は奥様を抱きかかえたままですので」
クウェインティンのたしなめるような言葉を聞いて、アーロンは頷いた。
「わかっている。俺だって何度かやらかしてしまったことの、自覚はあるんだ。あの女……確か、子どもを置いて逃げ去ったと聞いたが」
「ええ。そのように聞いております。子どもを預けた慈善院には旦那様の言いつけ通り、定期的に物資を届けておりますが、シスターたちに育てられて、すくすくと育っていると……」
「つまり、あの女は迎えに行ってはいないんだな……自分の子どもなのにか」
アーロンはここで考え込むような様子を見せたけれど、立ったまま話すのもと思ったのか、近くにある馬車へと乗り込んだ。
「……奥様。スカートを外したんですね」
「ええ。貴方の講義を聴いていたから、命拾いしたわ。ありがとう。クウェンティン」
「何の話だ?」
私たちの会話の内容を掴み切れなかったのか、アーロンはそう言ったので、クウェンティンは苦笑して答えた。
「いいえ。旦那様。水中に誤って落ちた場合は、奥様のようなドレスを着た女性はなかなか泳ぐことが難しいです。ですから、スカート部だけを外せば、身軽になり泳ぐことが出来るとお教えしていたのです」
「クウェンティン……ブランシュが助かったから、それは良いが。他に余計な事は教えていないだろうな?」
眉を寄せたアーロンが尋ねると、クウェンティンは涼しい表情で軽く頷いた。
「余計な事ではないんですが……奥様たってのご希望で、領地経営と財務管理についてはお教えしております」
「……ブランシュに、何を教えているんだ。優雅に暮らす貴族夫人だぞ」
「私の希望なのです。アーロンが不在の時に、何もしないという訳にはいかず……」
アーロンは自分が居ない間は、私に邸に居るだけで良いとクウェンティンに命令していたはずなのだ。けれど、それを押し切って仕事をしたいと申し出たのは私だ。
「奥様は現在、他の領地の代官として仕事が出来るまでに成長されました。僕も教師として、とても鼻が高いです」
「ええ。クウェインティンは本当に教え方が上手で、良い教師でした」
「お前……いや、もう良い。ブランシュ。海に落とされた時の状況と、そして、あの女の様子を出来るだけ詳細に教えてくれ」
私はクウェンティンと仲良く微笑み合い、そんな二人を見てアーロンは頭が痛いとばかりに額に手を置いて、話を変えることにしたようだった。
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