会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
40 / 60

40 行き先②

しおりを挟む
 悲観的になり過ぎているとは、自分でも分かってはいるけれど、楽観的に考えても今居る状況は変わらないのだから。

 昨夜のヒルデガードのあの言葉、アーロンが侯爵家を継ぐために、見知らぬ私と結婚したというあの言葉。

 禍々しい呪いのように、私に纏わりつき、どんなに振り払っても離れてくれない。

 彼の言う通りアーロンは、私を見たこともなかったはず。

 ……けれど、縁談を申し込み、本来ならばエタンセル伯爵家から持参金を貰うところを、それなりの金額を払うというあり得ない条件を呑んでまで私と結婚した。

 確かに、不思議だった。ヒルデガードの言葉を聞けば、その謎は解けてしまう。

 先のキーブルグ侯爵から、爵位を受け継ぐ条件として、私と結婚することを望まれていた。だから、アーロンは仕方なく私と結婚した。

 あの……優しい眼差しも、安心出来る抱擁も、全ては爵位を継ぐための嘘だったのかもしれない。

 一人馬車に揺られてアーロンが予約したと言うレストランまで辿り着き、外に立ち私を待っていた夫の姿を見て、ここままではいけないと思った。

 いつも……誰かに何かしてもらうのを、待つだけではいけない。

 たとえどんな理由だとしても、アーロンと本当の夫婦になりたいならば、ここで勇気を出さなければいけない。

 美味しいと評判なはずなのに、緊張のあまり味のしない豪華な夕飯を食べ終わり、腹ごなしに川沿いを歩こうと夫に提案され私は頷いた。

 静かな川沿いは、私たち以外にも散歩している男女が多かった。

 距離が近く街灯りが絶妙に見えて、そこまで暗くなく、川面には小さな星のような無数の灯りが散っていた。

 恋人たちが愛を語らうような……そんな雰囲気のある場所だ。

 私たちのような、よく分からない理由で結婚した夫婦には、あまり似合わないかもしれない。

「ブランシュ……どうだった? 元気がないようだが」

 隣を歩くアーロンは、心配そうに私に聞いた。彼はとても優しい。

 アーロンは優しいけれど、必要あって結婚しただけで、別に私を愛している訳ではないと思うと、胸が張り裂けそうになった。

 そうよ……私はアーロンのことを、愛し始めていたから。

「旦那様……キーブルグ侯爵家を継ぐための条件には、私と結婚することも含まれていますか?」

 唐突な私の言葉に、アーロンは驚き目を見開いた。私がそんなことを言い出すなんて、思いもしなかったに違いない。

「待て……何故、ブランシュが、それを知っている?」

 唖然としたアーロンがそう言った時、私の心の中にある張り詰めていた糸が切れてしまった。

 ああ……やっぱり……やっぱり、そうだったんだ。

 あの時にヒルデガードが、私に言っていた通りだったんだ。アーロンは私のことを、彼が望んだからと、妻として迎え入れてくれた訳ではなかった。

 すべては、彼が侯爵位を受け継ぐための条件であったから。

「……ごめんなさい!」

 堪えきれずに目に涙を浮かべた私は、その事実をどうしても受け入れがたくなってしまい、川沿いを走り出した。

「ブランシュ……待ってくれ!」

 アーロンの焦った声が聞こえたけれど、私はそんな彼を待つことなく、まっすぐに走った。私に決めた行き先なんてある訳がなくて、闇雲に走り暗い路地に入り何度か何も考えずに道を曲がった。

 もし、アーロンが足が速かったとしても、私に追いつくことは容易ではないと思う。そんな風に走った。

 ……とにかく、今はもう一人になりたかった。やはり、夫アーロンは、私のことなんて、好きではなかった。爵位のために、結婚しただけだった。

 私の事を好きになってくれたからだと、夢見ていたことが破れて、悲しくて……辛くて……仕方なかった。

 私は……ここから、どこに行けば良い? どうしよう。どこにも行けない。実家にも帰れない私には、もう居場所なんて、何処にもあるはずがないのに……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マイナス転生〜国一番の醜女、実は敵国の天女でした!?〜

塔野明里
恋愛
 この国では美しさの基準が明確に決まっている。波打つような金髪と青い瞳、そして豊満な体。  日本人として生きていた前世の記憶を持つ私、リコリス・バーミリオンは漆黒の髪と深紅の瞳を持った国一番の醜女。のはずだった。  国が戦に敗け、敵国の将軍への献上品にされた私を待っていたのは、まるで天女のような扱いと将軍様からの溺愛でした!? 改訂版です。書き直しと加筆をしました。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。 孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

公爵令息と悪女と呼ばれた婚約者との、秘密の1週間

みん
恋愛
「どうやら、俺の婚約者は“悪女”なんだそうだ」 その一言から始まった秘密の1週間。 「ネイサン、暫くの間、私の視界に入らないで」 「え?」 「ネイサン……お前はもっと、他人に関心を持つべきだ」 「え?えーっ!?」 幼馴染みでもある王太子妃には睨まれ、幼馴染みである王太子からは───。 ある公爵令息の、やり直し(?)物語。 ❋独自設定あり ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です ❋他視点の話もあります

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!

宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。 女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。 なんと求人されているのは『王太子妃候補者』 見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。 だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。 学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。 王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。 求人広告の真意は?広告主は? 中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。 お陰様で完結いたしました。 外伝は書いていくつもりでおります。 これからもよろしくお願いします。 表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。 彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

処理中です...