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36 シャンデリア②
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◇◆◇
結局は不審者なども見つからず、おそらくシャンデリアを吊す金具の老朽化のためだろうと早々に推測された。
けれど、アーロンは要職にある立場上、避難したついでに帰宅する貴族たちのようなことも出来ず、この事態が収拾するまで、私たち夫婦は城の中で留まることになった。
とは言え、城の警備を担当する騎士団を差し置いて、軍の指揮官である彼が独自に動けない。だから、用意された一室に私たちはただ待機していた。
真夜中だというのに、城中には無数の明かりが灯り、騎士団らしき人たちが行き交い物々しい雰囲気に包まれていた。
アーロンはそんな様子を窓から見ながら、物憂げな表情だ。自分が労われる祝勝会だったと言うのに、こんなことになってしまって気の毒だとは思う。
そんな時に、場違いなのかもしれないけれど、彼の鋭角なラインを描く横顔に見惚れてしまった。
長い時間そんな彼をじっと見つめていたんだけど、机の上に用意されていたお酒とグラスを見つけて、妻ならば気を利かせて勧めなければいけないのではない? と、ようやく気がついた。
「アーロン。お酒でも飲まれますか?」
「いや、止めておこう」
すげなく彼に断られて、私は少し落ち込んでしまった。よく考えれば、アーロンが寛いでお酒を飲もうと言う状況ではないかもしれない。
私って本当に、駄目なのだわ……。
「ブランシュ。落ち込むことはない……気を利かせてくれたと言うのに、悪かった」
「アーロン……」
私が顔を俯かせていたことに気がついたアーロンは、苦笑して私に近付き、肩に手を置いた。
「だが、ここで初めての夜を過ごすことには、俺は抵抗がある。酒を断った理由はそれだ。気にしないでくれ」
「えっ……」
私が顔を上げたその時に、扉が叩かれて、アーロンはそちらに顔を向けた。
「何だ」
「旦那様。近衛騎士団長が、単なる事故で、これ以上の危険はないと結論付けられたようです。すぐに帰宅なさいますか」
「わかった。すぐに帰る。馬車の準備を」
「御意」
執事クウェンティンは、アーロンの指示を聞き胸に手を当てて頭を下げると、扉を閉めて去って行った。
「ブランシュ。帰ろう。君も疲れただろう」
「はい……あのっ……あの、アーロン」
私は夜会の間にお酒も飲んでいたし、非日常の中で気持ちが大きくなっていたのかもしれない。
「どうした?」
「……私。私っ……旦那様しか、頼れないんです」
家族にも嫌われて、執事クウェンティンだって、アーロンありきの関係だ。
私が今頼れるのは、この人しか居なかった。
アーロンはいきなりの告白に驚いたようだけど、私を軽く抱きしめて背中を叩いた。
「そうか……大丈夫だ。ブランシュ。俺はずっと、君の傍に居る。今ここで、そう誓うよ」
「はい……」
アーロンの胸は大きくて、安心出来た……良かった。私の夫は私を必要としてくれて、ずっと傍に居てくれる。
だから、私が心配することなんて、もうないんだわ。
結局は不審者なども見つからず、おそらくシャンデリアを吊す金具の老朽化のためだろうと早々に推測された。
けれど、アーロンは要職にある立場上、避難したついでに帰宅する貴族たちのようなことも出来ず、この事態が収拾するまで、私たち夫婦は城の中で留まることになった。
とは言え、城の警備を担当する騎士団を差し置いて、軍の指揮官である彼が独自に動けない。だから、用意された一室に私たちはただ待機していた。
真夜中だというのに、城中には無数の明かりが灯り、騎士団らしき人たちが行き交い物々しい雰囲気に包まれていた。
アーロンはそんな様子を窓から見ながら、物憂げな表情だ。自分が労われる祝勝会だったと言うのに、こんなことになってしまって気の毒だとは思う。
そんな時に、場違いなのかもしれないけれど、彼の鋭角なラインを描く横顔に見惚れてしまった。
長い時間そんな彼をじっと見つめていたんだけど、机の上に用意されていたお酒とグラスを見つけて、妻ならば気を利かせて勧めなければいけないのではない? と、ようやく気がついた。
「アーロン。お酒でも飲まれますか?」
「いや、止めておこう」
すげなく彼に断られて、私は少し落ち込んでしまった。よく考えれば、アーロンが寛いでお酒を飲もうと言う状況ではないかもしれない。
私って本当に、駄目なのだわ……。
「ブランシュ。落ち込むことはない……気を利かせてくれたと言うのに、悪かった」
「アーロン……」
私が顔を俯かせていたことに気がついたアーロンは、苦笑して私に近付き、肩に手を置いた。
「だが、ここで初めての夜を過ごすことには、俺は抵抗がある。酒を断った理由はそれだ。気にしないでくれ」
「えっ……」
私が顔を上げたその時に、扉が叩かれて、アーロンはそちらに顔を向けた。
「何だ」
「旦那様。近衛騎士団長が、単なる事故で、これ以上の危険はないと結論付けられたようです。すぐに帰宅なさいますか」
「わかった。すぐに帰る。馬車の準備を」
「御意」
執事クウェンティンは、アーロンの指示を聞き胸に手を当てて頭を下げると、扉を閉めて去って行った。
「ブランシュ。帰ろう。君も疲れただろう」
「はい……あのっ……あの、アーロン」
私は夜会の間にお酒も飲んでいたし、非日常の中で気持ちが大きくなっていたのかもしれない。
「どうした?」
「……私。私っ……旦那様しか、頼れないんです」
家族にも嫌われて、執事クウェンティンだって、アーロンありきの関係だ。
私が今頼れるのは、この人しか居なかった。
アーロンはいきなりの告白に驚いたようだけど、私を軽く抱きしめて背中を叩いた。
「そうか……大丈夫だ。ブランシュ。俺はずっと、君の傍に居る。今ここで、そう誓うよ」
「はい……」
アーロンの胸は大きくて、安心出来た……良かった。私の夫は私を必要としてくれて、ずっと傍に居てくれる。
だから、私が心配することなんて、もうないんだわ。
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