会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
31 / 60

31 居場所①

しおりを挟む
 翌日、キースはキラを胸に抱き、イオと共にワイトデ自治区へと向かった。
 『移動』してしまうので、時間はかからない。
 イオの屋敷の敷地内に『移動』してきて辺りを見回した。
 数日前までは灰色に染まっていた町も、色を取り戻していた。
 イオに聞くと、町中の灰は、風を扱える者が集めて袋に入れ、町外れに回収しているらしい。
 そこから必要な分だけもらっていって、水捌けの悪い土地の土に混ぜて作物を作ったり、土嚢として使うらしい。
 過去にもそうやって灰を利用して来たそうだ。
 屋敷の中には入ると、領主、イオの両親がいて、お礼を言われた。
 ここへ来てくれたおかげで、長引かず住民達も早く家に帰れる事になって、喜んでいると。
 そしてチハヤに服を着替えされされ、彼らに連れられて、近くのやしろに来ていた。
 そこはワイトデ自治区のアリミネ火山を祀るやしろ
 そして、多くの人が集まりザワザワとしていたが、キースがキラを連れて姿を現すと、辺りはシーンと静まり返る。
 キラは驚いたのか、キースの服にしがみついて離そうとはしない。
 そんなところも可愛い…などと思っていると、イオにやしろの前に立つように言われ、こっそりと耳打ちされる。
「炎の結晶石をここで作って見せれるか?」
「…う~ん。どうだろう…」
 キースは抱えていたキラを地面に降ろし、隣に座り込む。
「キラ、ギュウッて、熱を集めれる?」
 キースが聞くとキラはじっとキースを見て、空を見上げた。
 風が吹き始め、キラの頭上に集まり始める。
 …始まった。
「イオ。炎の結晶石を冷やす場所はある?」
やしろの池を使うと良い」
 そう言って、イオは隣に有る池を視線で示す。
「お湯が涌き出ている池だから、冷たくはないが…」
 無いよりはましだろう。
 そんな会話をしているうちに、キラの頭上に炎の結晶石が赤くキラキラと輝いていた。
 回りにいるもの達は、その美しさに見惚れている。
 風が収まり、落ちてくる炎の結晶石をキースは風で包み込み、落下する場所をイオが言った池へと誘導する。
 ポトンと音がして、水蒸気が舞い上がった。
 辺り一面、真っ白な水蒸気に包まれ、しばらくすると次第に収まり、視界がもとに戻っていく。
 イオが池に入り、炎の結晶石を拾ってきて、キラのもとへ持って来た。
 そしてキラの前に膝を付いて、炎の結晶石を掲げた。
「キラ様。我らワイトデ自治区は、キラ様をアリミネ火山の守護竜としてお慕いいたします。どうぞ、お守りください」
 イオがそう言うと、回りにいた人々も膝を付いて座り込み、頭を下げた。
 ギュウッ!
 キラがそう鳴くと、イオは微笑みキラの頭を撫でる。
「よろしく。キラ様」
 キラは撫でられて気持ち良さそうに目を細める。
 そして、やしろで宴会が始まった。
 
 キラの前にいろんな食べ物が運ばれてきて、キラは興味深々に覗き込み、キースが食べるとキラも口を開けて催促する。
 キースは少量づつ手のひらに乗せて、キラに食べさせていた。
 …何でも食べるんだ。
 そこへチハヤが近づいてくる。
「キラちゃん。美味しい?」
 ギュウッ!
 チハヤはニコニコ微笑んで、手のひらに果物を乗せてキラに食べさせてあげる。
「…お祭り騒ぎになっちゃったね」
 ぽそりとチハヤが言ってくる。
「キラが認めてもらえれば良いよ。…でもこれが、後三回続くと思うと、そっちの方が気が重い…」
 キースが苦笑いすると、その言葉にチハヤは笑った。

 
 キラが炎の結晶石を作れるのは一日一個までだ。
 その日の気温と、お腹の減り具合にもよる。
 初めて炎の結晶石を作ったときは、お腹が減りすぎて貪るように作って食べていたらしい。
 魔力の制御をするようになって、人族と同じ食べ物を食べるようになって、身体と魔力のバランスが取れるようになってきたようだ。
 明日は熊族の町に行く。
 賑やかな宴が終わり、イオの屋敷の客室でキラと一緒の部屋で眠った。
 夜中に重くて目が覚めると、キースが眠るベッドの掛け布団の上に丸くなって、キラが眠っていた。
 …キラは良い子だ。
 キースは微笑みを浮かべて再び眠りについた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バケモノ姫の○○騒動

長野 雪
恋愛
隣国に輿入れするユーディリアは突然武装兵力に囲まれた。その主は大国ミレイスの王子リカッロだった。嫁ぎ先の王国を奪い、ユーディリア自身も本来の婚約者に変わって娶ることを宣言するリカッロ。ユーディリアは自分の異能の力を使い、流されるまいと抵抗することを決意する。 ※第11回恋愛小説大賞エントリー中です

冷血公爵は悪役令嬢を溺愛する

青峰輝楽
恋愛
侯爵令嬢アリアンナは、父侯爵を謀反の罪で処刑され、親友に王太子の婚約者の座を奪われて、追放される事になる。厳寒の雪山にひとりで放り出され、吹雪のなかで意識を失いかけた時、凍てつくような銀の髪の男が現れて言った。「俺のものになるなら助けてやろう」  その言葉にアリアンナは――。(小説家になろうでも掲載しています)

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

マイナス転生〜国一番の醜女、実は敵国の天女でした!?〜

塔野明里
恋愛
 この国では美しさの基準が明確に決まっている。波打つような金髪と青い瞳、そして豊満な体。  日本人として生きていた前世の記憶を持つ私、リコリス・バーミリオンは漆黒の髪と深紅の瞳を持った国一番の醜女。のはずだった。  国が戦に敗け、敵国の将軍への献上品にされた私を待っていたのは、まるで天女のような扱いと将軍様からの溺愛でした!? 改訂版です。書き直しと加筆をしました。

氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。 孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。

マルタン王国の魔女祭

カナリア55
恋愛
 侯爵令嬢のエリスは皇太子の婚約者だが、皇太子がエリスの妹を好きになって邪魔になったため、マルタン王国との戦争に出された。どうにか無事に帰ったエリス。しかし戻ってすぐ父親に、マルタン王国へ行くよう命じられる。『戦場でマルタン国王を殺害したわたしは、その罪で処刑されるのね』そう思いつつも、エリスは逆らう事無くその命令に従う事にする。そして、新たにマルタン国王となった、先王の弟のフェリックスと会う。処刑されるだろうと思っていたエリスだが、なにやら様子がおかしいようで……。  マルタン王国で毎年盛大に行われている『魔女祭』。そのお祭りはどうして行われるようになったのか、の話です。  最初シリアス、中明るめ、最後若干ざまぁ、です。    ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

処理中です...