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28 庭園にて②
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「……ブランシュ! ここに居たのか」
仕事を終え城から帰って来たらしいアーロンの声が聞こえて、サムは彼に挨拶をした。
「旦那様。おかえりなさいませ」
「サム。お前もブランシュと、仲が良いのか……俺が居なかった一年間に、何もかも様変わりしてしまったな」
アーロンは城から帰って来てそのままなのか、仕事帰りの軍服そのままでこちらへと歩み寄ってきた。
「旦那様が命を賭けて国を守って下さったから、我々はこうして平和に生きております。それでは、儂は仕事の続きがありますので……ごゆっくり」
「ああ……ご苦労。おい! サム……ここに、鋏を落としているぞ」
「これはこれは、失礼。それでは」
サムは鋏を道に良く落としてしまうのか、頭を掻いて、恥ずかしそうにしながら去っていった。
アーロンは庭師サムが鋏を落としたからと、よくわからぬ罰を与える人間ではない。それは、当然のことのはずなのに、私はそれを確認してほっとした。
アーロンは義母と同じような人間ではないと、そう思えたから。
「……ブランシュ。手の調子は、どうだ?」
私の隣へとアーロンは座り、私は自然と彼の反対側に寄ってしまった。
「旦那様……はい。買っていただいたお薬のおかげで、治って来ました」
私は何故か彼の顔を恥ずかしくて、見られなかった。顔が熱い。じりじりと距離を空ける私を見て、アーロンは落ち込んでいる声を出した。
「……どうした。結婚をしたと言うのに、一年間も放っておいてしまった俺のことが嫌になったのか。ブランシュ」
「いいえ! そういう訳ではないのですが」
「では、どういう訳だ。何故、距離を空ける」
アーロンは不思議そうで、何が原因なのか知りたいようだ。私だって普通にしていたいのに、普通に出来ないから……胸が苦しいのに。
「旦那様と、近くに居ると! 胸が苦しくなって、恥ずかしくて堪らないのです! 旦那様が悪い訳では、ありません!」
私が両手を彼の前に突き出すと、アーロンは顔を赤くして、驚き目を見開いていた。
「え? あ……ああ。そうか……すまない」
なんとも言えない空気の中で、私とアーロンの二人は隣に座って、ただ黙って庭園を見ていた。
ほんの一日前に再婚相手を探さなくてはと奮起していた私には、とても信じられない未来だろう。
私だって……本当に意味がわからない。
死んだと思っていた人が、生きていたのよ。魔法でもなんでもなく。訳ありで。
「ブランシュ……その、少し良いか。君が落ち着くまで、絶対に近づかない」
アーロンは緊張して余裕のない私を宥めるようにして、敵意がないと示すように開いた両手を向けた。
「はい。大丈夫です」
私がこくりと一度頷いたのを確認してから、アーロンは慎重な様子で口を開いた。
「何度も言うが、生きていることを知らせずにいて悪かった。しかし、悔いはない。これで我が国は勝利し、多くの国民の命が救われた」
「わかっています。必要なことだったのだと」
敵を欺くには、まず身内から。素人の私が彼が生きていると知っていて、上手く嘘をつけたとは思えない。
だから、これで良かったのだ。生きていると知らなかったから、再婚相手まで探しているところだったけれど。
「……しかし、俺が何より救いたかったのは、お前……俺の妻、ブランシュだ。もし、敗戦すれば君は将軍の妻として、どんな目に遭うかわからなかった。だから、どんな汚い手でも使ってでも勝つしかなかった」
真摯な光を放つ青い目に、嘘は見えない。
「アーロン」
妻の私を守るために、彼はどんな手でも使って、勝利して帰って来てくれた。
「お前ごと……この国を、死に物狂いで守って来た。辛い思いをさせたことを、許してくれとは言わない。ここから、挽回する。だから、俺を怖がらないでくれ……頼む」
切実な声音の言葉には、疑うところなんて見えない……それでも一気に多くの情報を消化しきれずに、何も言えなかった私は何度か頷くしか出来なかった。
仕事を終え城から帰って来たらしいアーロンの声が聞こえて、サムは彼に挨拶をした。
「旦那様。おかえりなさいませ」
「サム。お前もブランシュと、仲が良いのか……俺が居なかった一年間に、何もかも様変わりしてしまったな」
アーロンは城から帰って来てそのままなのか、仕事帰りの軍服そのままでこちらへと歩み寄ってきた。
「旦那様が命を賭けて国を守って下さったから、我々はこうして平和に生きております。それでは、儂は仕事の続きがありますので……ごゆっくり」
「ああ……ご苦労。おい! サム……ここに、鋏を落としているぞ」
「これはこれは、失礼。それでは」
サムは鋏を道に良く落としてしまうのか、頭を掻いて、恥ずかしそうにしながら去っていった。
アーロンは庭師サムが鋏を落としたからと、よくわからぬ罰を与える人間ではない。それは、当然のことのはずなのに、私はそれを確認してほっとした。
アーロンは義母と同じような人間ではないと、そう思えたから。
「……ブランシュ。手の調子は、どうだ?」
私の隣へとアーロンは座り、私は自然と彼の反対側に寄ってしまった。
「旦那様……はい。買っていただいたお薬のおかげで、治って来ました」
私は何故か彼の顔を恥ずかしくて、見られなかった。顔が熱い。じりじりと距離を空ける私を見て、アーロンは落ち込んでいる声を出した。
「……どうした。結婚をしたと言うのに、一年間も放っておいてしまった俺のことが嫌になったのか。ブランシュ」
「いいえ! そういう訳ではないのですが」
「では、どういう訳だ。何故、距離を空ける」
アーロンは不思議そうで、何が原因なのか知りたいようだ。私だって普通にしていたいのに、普通に出来ないから……胸が苦しいのに。
「旦那様と、近くに居ると! 胸が苦しくなって、恥ずかしくて堪らないのです! 旦那様が悪い訳では、ありません!」
私が両手を彼の前に突き出すと、アーロンは顔を赤くして、驚き目を見開いていた。
「え? あ……ああ。そうか……すまない」
なんとも言えない空気の中で、私とアーロンの二人は隣に座って、ただ黙って庭園を見ていた。
ほんの一日前に再婚相手を探さなくてはと奮起していた私には、とても信じられない未来だろう。
私だって……本当に意味がわからない。
死んだと思っていた人が、生きていたのよ。魔法でもなんでもなく。訳ありで。
「ブランシュ……その、少し良いか。君が落ち着くまで、絶対に近づかない」
アーロンは緊張して余裕のない私を宥めるようにして、敵意がないと示すように開いた両手を向けた。
「はい。大丈夫です」
私がこくりと一度頷いたのを確認してから、アーロンは慎重な様子で口を開いた。
「何度も言うが、生きていることを知らせずにいて悪かった。しかし、悔いはない。これで我が国は勝利し、多くの国民の命が救われた」
「わかっています。必要なことだったのだと」
敵を欺くには、まず身内から。素人の私が彼が生きていると知っていて、上手く嘘をつけたとは思えない。
だから、これで良かったのだ。生きていると知らなかったから、再婚相手まで探しているところだったけれど。
「……しかし、俺が何より救いたかったのは、お前……俺の妻、ブランシュだ。もし、敗戦すれば君は将軍の妻として、どんな目に遭うかわからなかった。だから、どんな汚い手でも使ってでも勝つしかなかった」
真摯な光を放つ青い目に、嘘は見えない。
「アーロン」
妻の私を守るために、彼はどんな手でも使って、勝利して帰って来てくれた。
「お前ごと……この国を、死に物狂いで守って来た。辛い思いをさせたことを、許してくれとは言わない。ここから、挽回する。だから、俺を怖がらないでくれ……頼む」
切実な声音の言葉には、疑うところなんて見えない……それでも一気に多くの情報を消化しきれずに、何も言えなかった私は何度か頷くしか出来なかった。
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