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21 覚悟(Side Aaron)①
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「どうだ……これで大体の状況は、理解出来たか? 敵の軍勢は我が軍の倍以上で、しかも、不意打ち。援軍が来るには時間が掛かるだろう。誰しも聞けば驚くほどに、絶望的な状況だ」
国境にある要所。そこに砦の中、大きな円卓の上に置いた地図を指し示し、ここに居る自分たちが、今どれだけ死に近い状況にあるかを懇々と説明した。
我がシュレイド王国軍は、この地を守る辺境伯の護衛騎士団と合わせて、やっと三万。対して、ひとつひとつは小国とは言え、三国合わせた連合軍は十万。
隠され秘密裏に準備されていた不意打ちの襲撃に、我が軍は十分な軍勢で臨めるはずなどなかった。
しんとした沈黙の中、司令官の俺が最優先にすべきことを言った。
「よく聞け。開戦早々、俺は死ぬことになる」
「は?! なんと仰いました!?」
「閣下、一体何を?!」
「そうです! まだ、確かに我が軍が不利ですが、勝敗が決まった訳ではないでしょう!」
ざわざわと慌てふためき騒ぎ出した部下に、とりあえず鎮まるようにと、俺は片手を上げて制した。
「そう結論を急くな。この絶望的な状況を好転させるには、そうするしかない……それに、語弊があった。実際に死ぬ訳では無い。死んだ振りをするんだ」
「死んだふり……ですか?」
揃いも揃ってぽかんと間抜けな表情を晒す部下を見て、やはり俺には時間が足りなかったのだと冷静に思った。
俺がいくら優秀だとしても、優秀な部下に育て上げるには、あまりにも月日が足りない。
「……作戦を立てる司令官が居ないとなれば、敵軍は有利と見て浮き足立つはずだ。油断を誘う。俺は死んだように見せかけて、実のところ死んでいない。居ないと思わせて、すべての作戦は万全を期す。少しでもわが軍の犠牲を抑え、この国を守るためには、まず最初に必要なことだ」
「しかし、閣下。それでは、閣下の名誉が……」
「そうです。もし、今回の戦いを勝利に導かれても……それでは、生涯不敗を誇る経歴が笑い者になりましょう」
まだ分かっていない。死ぬかどうかの瀬戸際の時に、何を言い出すのかと俺は鼻で嗤った。
「何を、馬鹿馬鹿しいことを。このまま正々堂々と向き合えば、敗北確実の戦いを前にして、万が一勝利した時のことを考えているのか。おめでたい頭だ」
急拵えで連れて来た部下たちは、まだこの状況を掴み切れていないようだ。ここで正々堂々戦っても、全員で死のうと言っているに等しいということを、まだ理解していない。
……何が笑いものだ。そう言うなら、喜んで道化になってやるさ。
それで……国を守れるのだとしたなら。
「閣下。しかし……」
「俺たちがここで敗れれば、国民は数多く死ぬだろう。残った多くは敗戦国の民として奴隷となり、王族貴族も見せしめのために公開処刑だ」
「……それは」
「平和ボケした貴族たちとて俺が死んだと聞けば、慌ててここまで軍勢を率いてやって来るだろう。俺の死がまず必要な事だという理屈は、理解することが出来たか?」
敗戦国の国民は、地獄を味わう。
だがシュレイド王国は、あまりに平和な時間が流れ過ぎた。どうせ今だって、自分が行かずとも勝利の知らせを待てば良いだろうと、のんびりしている貴族も多いだろう。
もし、この事態を正確に理解しているならば、絶望のあまりに自死を選ぶ者も居るかもしれないので、何もわからない方が幸せなのかもしれない。
国境にある要所。そこに砦の中、大きな円卓の上に置いた地図を指し示し、ここに居る自分たちが、今どれだけ死に近い状況にあるかを懇々と説明した。
我がシュレイド王国軍は、この地を守る辺境伯の護衛騎士団と合わせて、やっと三万。対して、ひとつひとつは小国とは言え、三国合わせた連合軍は十万。
隠され秘密裏に準備されていた不意打ちの襲撃に、我が軍は十分な軍勢で臨めるはずなどなかった。
しんとした沈黙の中、司令官の俺が最優先にすべきことを言った。
「よく聞け。開戦早々、俺は死ぬことになる」
「は?! なんと仰いました!?」
「閣下、一体何を?!」
「そうです! まだ、確かに我が軍が不利ですが、勝敗が決まった訳ではないでしょう!」
ざわざわと慌てふためき騒ぎ出した部下に、とりあえず鎮まるようにと、俺は片手を上げて制した。
「そう結論を急くな。この絶望的な状況を好転させるには、そうするしかない……それに、語弊があった。実際に死ぬ訳では無い。死んだ振りをするんだ」
「死んだふり……ですか?」
揃いも揃ってぽかんと間抜けな表情を晒す部下を見て、やはり俺には時間が足りなかったのだと冷静に思った。
俺がいくら優秀だとしても、優秀な部下に育て上げるには、あまりにも月日が足りない。
「……作戦を立てる司令官が居ないとなれば、敵軍は有利と見て浮き足立つはずだ。油断を誘う。俺は死んだように見せかけて、実のところ死んでいない。居ないと思わせて、すべての作戦は万全を期す。少しでもわが軍の犠牲を抑え、この国を守るためには、まず最初に必要なことだ」
「しかし、閣下。それでは、閣下の名誉が……」
「そうです。もし、今回の戦いを勝利に導かれても……それでは、生涯不敗を誇る経歴が笑い者になりましょう」
まだ分かっていない。死ぬかどうかの瀬戸際の時に、何を言い出すのかと俺は鼻で嗤った。
「何を、馬鹿馬鹿しいことを。このまま正々堂々と向き合えば、敗北確実の戦いを前にして、万が一勝利した時のことを考えているのか。おめでたい頭だ」
急拵えで連れて来た部下たちは、まだこの状況を掴み切れていないようだ。ここで正々堂々戦っても、全員で死のうと言っているに等しいということを、まだ理解していない。
……何が笑いものだ。そう言うなら、喜んで道化になってやるさ。
それで……国を守れるのだとしたなら。
「閣下。しかし……」
「俺たちがここで敗れれば、国民は数多く死ぬだろう。残った多くは敗戦国の民として奴隷となり、王族貴族も見せしめのために公開処刑だ」
「……それは」
「平和ボケした貴族たちとて俺が死んだと聞けば、慌ててここまで軍勢を率いてやって来るだろう。俺の死がまず必要な事だという理屈は、理解することが出来たか?」
敗戦国の国民は、地獄を味わう。
だがシュレイド王国は、あまりに平和な時間が流れ過ぎた。どうせ今だって、自分が行かずとも勝利の知らせを待てば良いだろうと、のんびりしている貴族も多いだろう。
もし、この事態を正確に理解しているならば、絶望のあまりに自死を選ぶ者も居るかもしれないので、何もわからない方が幸せなのかもしれない。
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