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14 勘当された弟②
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「こちらの未亡人は、話が早い。それでは、俺が以前使っていた部屋へと戻ろう……何。喪が明ければ、結婚しても良いらしいからな。半年ほど時を待てば、この邸も美しい妻も、全て俺のものだ!」
大声で笑いながら去っていくヒルデガードに、使用人たちは一様に怯えた様子を見せていた。
無理もないわ。亡くなった旦那様の弟が、あんなにまで乱暴な人だったなんて。
「皆、大丈夫よ。いつも通り仕事に戻ってちょうだい。クウェンティン……大丈夫? 私を守ってくれて、ありがとう」
「奥様。ヒルデガードを殺しましょう。旦那様も、そう望まれるはずです」
そうだ。夫のアーロンが死なずにここに居れば、きっと私を守ってくれただろうか。
私は実家で母の亡くなった後だって、何度も何度もそう思った。
……母が生きていてさえくれれば、私はこんなことにはならなかったのではないかと。
けれど、亡くなった人はどんなに強く望んでも、もう戻ってこないと、私は思い知っていた。
どんな苦境に陥ったとしても、自分でなんとかするしかないのだと。
「とは言っても、アーロン様は今は居ないのよ。落ち着きなさい。ヒルデガード様は勘当されたとは言え、貴族の一員。そんなことをすれば、クウェンティンが罪に問われてしまうわ」
静かに首を横に振った私に、クウェンティンは悔しそうに呟いた。
「奥様……」
「私を守るためとは言え、今後、ヒルデガード様に逆らっては駄目よ。クウェンティン。アーロン様の亡き今、彼は一番にキーブルグ侯爵家の血を濃く引いているお方。嫁いでから会いもしていない兄の妻の私などより、よっぽど爵位を継ぐのに相応しいわ」
未亡人とは言え、私はアーロンと会ってさえもいない。
たとえ、夫の遺言状があろうが、侯爵家を受け継ぐ正当な爵位後継者が帰って来たとなれば話は別だろう。
「ですが、奥様。それでは、アーロン様のご意向に逆らうことになります……」
私に向け必死で言い募るクウェンティンは、亡くなった主人アーロンに変わらぬ忠義を捧げているようだ。
きっと、亡くなったアーロンのことを尊敬し、人として愛してもいるのだろう。
居ない今もそうしてしまう程に、夫は素敵な男性だったのだろう。
「クウェンティン……嫁いで来た私によくしてくれて、貴方にはとても、感謝しているわ。けれど、こうなってしまったからには、喪が明ければ私はキーブルグ侯爵家を出ていくわ。だから、ここに残ることになるクウェンティンはヒルデガード様には逆らわない方が良いと思うの」
「奥様……それは」
「さっきクウェンティンも言った通り、喪が明ければ、私は他の誰かと再婚することも出来る。そうした方が……良いと思うの」
これは、今思いついたことでもなく、できればこうした方が良いだろうとこれまでも思っていた。
……白い結婚の未亡人など、生き馬の目を抜くような世知辛い貴族社会の中で、誰が認めてくれるだろうか。
だから、キーブルグ侯爵家の正当な血筋を受け継ぐ弟、ヒルデガードが帰って来たのであれば、彼に全てを託すことが一番に丸く収まる方法なのだわ。
大声で笑いながら去っていくヒルデガードに、使用人たちは一様に怯えた様子を見せていた。
無理もないわ。亡くなった旦那様の弟が、あんなにまで乱暴な人だったなんて。
「皆、大丈夫よ。いつも通り仕事に戻ってちょうだい。クウェンティン……大丈夫? 私を守ってくれて、ありがとう」
「奥様。ヒルデガードを殺しましょう。旦那様も、そう望まれるはずです」
そうだ。夫のアーロンが死なずにここに居れば、きっと私を守ってくれただろうか。
私は実家で母の亡くなった後だって、何度も何度もそう思った。
……母が生きていてさえくれれば、私はこんなことにはならなかったのではないかと。
けれど、亡くなった人はどんなに強く望んでも、もう戻ってこないと、私は思い知っていた。
どんな苦境に陥ったとしても、自分でなんとかするしかないのだと。
「とは言っても、アーロン様は今は居ないのよ。落ち着きなさい。ヒルデガード様は勘当されたとは言え、貴族の一員。そんなことをすれば、クウェンティンが罪に問われてしまうわ」
静かに首を横に振った私に、クウェンティンは悔しそうに呟いた。
「奥様……」
「私を守るためとは言え、今後、ヒルデガード様に逆らっては駄目よ。クウェンティン。アーロン様の亡き今、彼は一番にキーブルグ侯爵家の血を濃く引いているお方。嫁いでから会いもしていない兄の妻の私などより、よっぽど爵位を継ぐのに相応しいわ」
未亡人とは言え、私はアーロンと会ってさえもいない。
たとえ、夫の遺言状があろうが、侯爵家を受け継ぐ正当な爵位後継者が帰って来たとなれば話は別だろう。
「ですが、奥様。それでは、アーロン様のご意向に逆らうことになります……」
私に向け必死で言い募るクウェンティンは、亡くなった主人アーロンに変わらぬ忠義を捧げているようだ。
きっと、亡くなったアーロンのことを尊敬し、人として愛してもいるのだろう。
居ない今もそうしてしまう程に、夫は素敵な男性だったのだろう。
「クウェンティン……嫁いで来た私によくしてくれて、貴方にはとても、感謝しているわ。けれど、こうなってしまったからには、喪が明ければ私はキーブルグ侯爵家を出ていくわ。だから、ここに残ることになるクウェンティンはヒルデガード様には逆らわない方が良いと思うの」
「奥様……それは」
「さっきクウェンティンも言った通り、喪が明ければ、私は他の誰かと再婚することも出来る。そうした方が……良いと思うの」
これは、今思いついたことでもなく、できればこうした方が良いだろうとこれまでも思っていた。
……白い結婚の未亡人など、生き馬の目を抜くような世知辛い貴族社会の中で、誰が認めてくれるだろうか。
だから、キーブルグ侯爵家の正当な血筋を受け継ぐ弟、ヒルデガードが帰って来たのであれば、彼に全てを託すことが一番に丸く収まる方法なのだわ。
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