会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
2 / 60

02 幸せになれる日②

しおりを挟む
 身体のラインに、ぴったりと沿うように縫製されていて、胸元はかなり深いラインまで開き、私のような成人したばかりの年齢には、かなり背伸びした色気あるデザイン。

 未亡人という立場で条件の良い再婚相手を見繕うのだから、このくらいは攻めた方が良いと、したり顔のマダムから強く勧められ、押しに弱い私は戸惑いつつも、その時は確かに頷いた。

 私はこれまでの自分から生まれ変わって、良き再婚相手を探して幸せになるのだと固く決意していたのだから。

 けれど、周囲の男性の視線が私の胸の辺りにやけに集まっているのを感じると、もう少し生地を上まで付け足して貰えば良かったかもしれないと日和ってしまった。

 ……いいえ。いけないわ。

 私は自分の幸せを掴むため再婚相手を見つけに、ここへ来ているのだから、男性に注目されることそれ自体は、良い事のはず。そうなのよ。

 色気あるドレスを含む私の外見は、単に男性からの注目を集める手段。

 声を掛けてもらう男性の人数を増やし、中身は時間をかけてわかってもらえば良いはずだわ。

 ……求婚者を募る若い令嬢たちは、皆、そうしているはずだもの。

 今夜、この会場に集まっている貴族、ほぼ全員が知っている事実。

 この私。ブランシュ・キーブルグは結婚式の日に一度も会わぬままで出征し、その戦いで戦死してしまった夫アーロン・キーブルグ侯爵の未亡人。

 つまり、私は旦那様とは初夜の肉体関係どころか、手を触れたことさえない、白い結婚であることは明らか。

 彼の亡くなったという連絡のあった日から一年が経ち、私の夫アーロンの喪がやっと明けた。

 彼はシュレイド王国軍を率いる若き将軍で、生涯不敗を誇り『血煙の軍神』という名前が近隣諸国に轟き、とても有名な軍人だったそうだ。

 結婚式の日に初めて会うはずだった私と会う直前に、我が国を狙いに三国の連合軍が国境を越えたらしいという急報を聞いて、シュレイド王国軍の将軍である彼は急ぎ出征してしまった。

 つまり、私たち夫婦は一度も会わないままに結婚することになってしまった。

 結婚式用の白いドレスを着たままで取り残された私は、書類上のみはアーロンの妻となり、それから一週間してから彼が戦場で亡くなったという訃報を聞いた。

 軍勢の数にどれだけの大きな差があろうが自軍を勝利に導く奇策を鮮やかに繰り出すかの軍神さえ居れば、シュレイド王国は必ず勝てるだろうと、それまでに大半の国民は安心しきっていた。

 だと言うのに、急な訃報に宮廷や国民たちは旦那様の死を聞き唖然としてしまい、その時ばかりは国内全体が沈痛な重苦しい空気に包まれ、彼が居るならばと余裕のある貴族たちも、慌てて軍勢を率いて国境にまで出征したと聞く。

 それは、私は後から詳しく聞いた話で……その時には既に彼の妻であった私は、遺族としての葬式の準備や親戚一同への対応などで忙しく走り回り、悲しんでいる時間などはなかった。

 多くの軍勢を突破するために、将軍の彼は無茶な作戦を自ら先導し、激しい戦いの中、死体すらも見つからなかったそうだ。

 とは言っても、私たち二人は生前に一度も会ったこともないのだから、お葬式に彼の伴侶として出席していても、不思議な気持ちになってしまった。

 悲しい事は、悲しかった。もしかしたら、実家へ帰れと言われてしまうかもしれないと思っていたからだ。

 妻なのだから葬式では嘆き悲しむべきなのだろうけれど、会ったこともない書類上だけの夫とは、何一つ思い出もなかった。

 慌ただしい時期を越えて落ち着けば、キーブルグ侯爵邸の女主人や、領主代行としての書類仕事は山積み。

 夫アーロンが亡くなってからというもの。ここ一年は怒涛の日々で本当に大変だった。

 数年前に勘当されて旅から帰って来た義弟から再婚を迫られることになり、旦那様の愛人を名乗る身重の女性などを保護する対応なども含め、本当に……夢見ていた幸せな結婚生活なんて程遠くて、常に悩み苦しむ激動の日々だった。

 けど、そんな辛い日々は……もう、終わる。

 ……いいえ。ブランシュ。私は逃げても逃げても何処までも追い掛けてくるような不幸を、自分の力で終わらせるのよ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...